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サイバーエージェントが発表したインターネットビジネスの市場環境を見ると、インターネット広告費は前年比12・1%増の1兆519億円となっている。また、スマホやネット動画、アドテク、そしてネイティブアドの需要の高まりが指摘されている。
最近ではすっかり名社長と呼ばれる藤田晋社長。かつてのイケイケ感もすこしダウン?
インターネット広告代理店事業やブログ運営など、IT関連事業を取り扱うサイバーエージェントが、7月23日に発表した第三四半期の決算で、売り上げや営業利益などが過去最高を記録し、話題となった。IT業界で長く飛ぶ鳥を落とす勢いの同社は昨年、マザーズから東証一部に指定替えをし、今年9月に最初の決算を迎える。これも予想を上回る好決算になる勢いだ。文字通り、ベンチャーから大企業への飛翔を遂げていた同社だが、その急拡大の裏で関連子会社がネイティブアドをノンクレジットで掲載【1】するなど、その強引な手法も指摘され、話題となっている。
そんな中で、アドウェイズなどの大手インターネット広告会社と深刻な関係悪化に陥っているという。
「発端は、サイバーエージェントの子会社、CAリワードが昨年末にリリースした金融系のアフィリエイト広告を取り扱う『Linked Money』(リンクドマネー)というASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)サービスの立ち上げです。これが、サイバーエージェントと取り引きのあるアドウェイズなど大手ASP業者に『競合事業だ』と見なされ、サイバーエージェントからのアフィリエイト広告の案件を拒否するなど、関係が悪化しているようです。またサイバーエージェントが、今年に入り「即日人気キャッシング.com」など、あからさまなアフィリエイト媒体を開設したこともあり(詳細後述)、同業者はサイバーエージェントの広告事業での路線拡大を非常に警戒している」(ネット広告業界関係者)
一般的なネット広告がインターネットサイトなどの媒体が広告主に、バナーを掲載する枠を販売するのに対して、アフィリエイト広告(成果報酬型広告)は、広告を見たネットユーザーが商品を購入するなどの取引をした成果に応じて広告料金が発生するもの。グーグルアドセンスなどが代表的である。宣伝効果が本当にあるのか微妙な従来型の広告とは違い、取引実績やバナー閲覧数などの数字で成果を換算し、それに応じて報酬を支払うシステムである。
商流としては、広告主が広告代理店に発注し、代理店がASPに案件を発注する。そこでASPは媒体と広告掲載や報酬の支払いなどの調整などを行う、というのが一般的だ。アドウェイズなどのASP企業は、媒体(比較サイトやブログサービス、ニュースサイトなど)の運営者と、広告代理店の間をつなぐ役割を果たしている。これまでネット系の広告代理店であるサイバーエージェントは、ASPに案件を発注する立場にあり、広告主に対して運用状況を報告する関係上、ASPから媒体との取引条件や成果、特性について情報を受け取っていた。今回、問題視されたのは、サイバーエージェントがこれまでASPからもらい受けていた各媒体の情報を基にして、CAリワードがそれらの媒体に営業をかけた疑惑があることだ。
「もともと、CAリワード自体もASP企業でしたが、事業規模も小さく、サイバーエージェントグループ内での取引が多かった。ところが『リンクドマネー』は金融案件に特化しており、同じ案件を得意とするアドウェイズなどは看過できなかったのでしょう。またCAリワードが、サイバーエージェントが代理店業務の中でASPから報告を受けた各媒体との取引内容を知った上で、各ASP企業の取引先媒体に営業をかけているのではないかと、憶測が広がった。ASPと媒体との取り引きの詳細がわかってしまえば、当然、それより有利な取引条件を提案することができてしまう。特にアドウェイズは、CAリワードがアドウェイズと媒体の詳細な取引内容を知ったうえで、媒体に営業をかけていると確信したので、大規模な反発行動にでたのでしょう」(大手ASP会社社員)
『サイバーエージェント』
インターネット関連の企画営業を主要事業として設立。日本のネットベンチャーの先駆けとして、長らく毀誉褒貶相半ばしてきている。
アドウェイズは今年3月頃から一部の案件を除いて、サイバーエージェントからの案件を受けない方針を固め、サイバーエージェント側もそれを黙認しているという。
「一時期、サイバーエージェントの広告部署の中で『なんでアドウェイズと取り引きできないんだ!』と騒然となったが、おそらく、既存の商流を維持するか、自社の拡大を優先するかを天秤にかけた結果、後者の道を選択したのだろう」(前出の関係者)
関係悪化のもうひとつの理由として挙げられるのが、先述したサイバーエージェントによる媒体の運営である。同社のグループ会社は昨年頃から、「育毛剤フサフサ比較ラボ」や、「即日人気キャッシング.com」、前述の「即日融資安心カードローン.com」などのアフィリエイトのサイト(広告主の提案する商品やサービスを紹介し、取引の成果で報酬を得る媒体。アマゾンリンクなどが代表的)を開設しだした。
サイバーエージェントの子会社が運営しているというアフィリエイトサイト。かなりあからさまなテイストが香ばしい。
「業界的には、カードローンの比較サイトなどの媒体でいえば、ネット広告大手のバリューコマースの子会社、ジェーピーツーワンの運営するものが長年、王者として君臨してきた。ところが今年1月にサイバーエージェントが、さまざまな媒体のノウハウを駆使して、強い集客力のあるこれらの媒体を開設し、実質的な業界2番手に躍り出てきた。広告代理店が自社のASPに加え、媒体まで運営するようになれば、ASP専業企業としては死活問題になりかねない。確実に、同業者の商圏を取りに来ている」(同)
このように、ネット業界の寡占化を図っているともとれる同社の事業拡大の裏では、各企業からは反発の声が多数上がっており、その手法が強引であると言わざるを得ない。本件に対してサイバーエージェントではどう見ているのか? 同社の広報担当者に聞いた。
「リンクドマネーという金融に特化したASPサービスをリリースしたところ、アドウェイズから問い合わせがあったのは事実で、話し合いの結果、今年4月からアドウェイズのレポートは媒体名を非公表とすることとなりました。他のASPとの取引は順調に推移しています。
CAリワードは以前からASP事業を行っており、なぜ今回だけ問題視されているのかは、当社としてはわかりかねます。CAリワードは別会社であり、情報は遮断されているので、サイバーエージェントが代理店事業を通じて入手した媒体に関する情報を基に、CAリワードが媒体へ営業をかけるようなことはなく、リンクドマネーのサービスになんらかの問題があるとは認識していません。4月以降、アドウェイズへの発注が減少しているのは事実ですが、関係が悪化しているような認識はありません」(サイバーエージェント広報)
と、要はアドウェイズとの取引調整があったことは認めつつも、その他の面ではさほど問題にしていないことが伺える。
一方で関係者によると、アドウェイズ側もサイバーエージェントのクライアント(広告主)に営業をかけ、同社を介さず別の代理店を立てるなど、“反撃”に出ているという。
グループ全体で最高益を出したサイバーエージェント。しかしその裏には、仁義を欠いた強引な手法が見え隠れし、本件に限らず業界からの反発を招いている。もちろん各企業も指をくわえてただ黙っていることはない。
水面下で繰り広げられる大手両社の“抗争”は今後、膨張するネット広告業界をより混沌とさせるだろう。
(村上力)
【1】ネイティブアドをノンクレジットで掲載
インターネットの記事全般において、広告主から報酬を受け取りながら、【PR】などのクレジットを入れず、中立を装った記事が問題となっている。これまでも、いわゆるステマブログや食べログの広告案件記事などが問題化されてきた。こうした事案が発端となり、2015年3月に一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)は、「ネイティブ広告に関する推奨規定」を制定している。4月には、サイバーエージェントの関連子会社が記事広告をノンクレジットで掲載していたことが、ブロガーのやまもといちろう氏に指摘され、問題となった。