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事件は3月30日午後、中国東北部の遼寧省瀋陽市で起きた。
買い物に行くため母親と一緒にバスに乗っていた朱さん(仮名、29)は、目的地までまだ距離があったため、下を向いて携帯電話をいじっていた。しばらくしてバスは中国人民解放軍463病院前の停留所で停車。乗降口の扉が開くと、朱さんはふいに話かけられた。
「心臓の病気があるから、席を譲ってくれ」
顔を上げると、高齢の男が目の前に立っていた。そこで朱さんは席を譲ってあげた。と、ここまでは普通の話。だが、席を立つ際に「他にもこんなにたくさん人がいるのに、何で私が…」とぶつぶつ文句を言ったのがまずかった。
高齢者に付き添っていた女(高齢者の息子の妻)がそれを聞きつけるや、「何なのよ!席を譲ってと言ったじゃないの。まだ譲りたくないのか」と激高。次の瞬間、朱さんにビンタを食らわせた。
そこに女の夫の中年男(高齢者の息子)も加勢。男は朱さんをつかむと、バスの窓ガラスに打ち付けた。
何で私の娘が殴られないといけないのよ。席を譲ったのに殴るなんて」
朱さんの母親は我が子を守ろうと大声で男に詰め寄ったが、逆に押し返されてしまった。
地元紙「遼瀋晩報」記者による臨場感たっぷりの記事(同紙電子版、3月31日)によれば、車内ではこんな光景が繰り広げられようだ。
記者が停車中のバスの横を通りかかったのは、中年男が朱さんに暴行を加えているまさにその瞬間。バスの中から「ゴーン、ゴーン」と大きな音がしたので見てみると、朱さんの頭が窓ガラスに打ちつけられていたという。
朱さんは右手に持ったティッシュで鼻血を拭きながら、記者に訴えた。
「女が私を殴った後、男が私をつかんで、窓に頭を2回打ち付けた。その後、あの老人が私の鼻を『グー』で殴ったのよ」
何と、席を譲ってもらった心臓病の男までもが、朱さんの顔面に一撃食らわせたというのだ。プロレスのタッグマッチなら、流れるような連係プレーに観客も大喜びだが、現場はリングの上ではなくバスの中。居合わせた他の乗客もたまったものではない。
各地のテレビ局も含め、多くの中国メディアは、その記者らが撮影したとみられる映像を使用し、この事件を報じた。
その映像など関連報道を総合すると、この凶悪な家族3人側は、カメラに向かって「向こうが先に手を出した」とアピールしていたが、一部始終を見ていた他の乗客らが憤慨し、「その3人が一人の女性を殴った。ここにいるみんなが見ていた」と口々に証言。これにも女は激高し、乗客に殴りかかろうとした。このほか、止めに入ろうとして、巻き添えを食って殴られた乗客も出た。
中国国営新華通信の2日の報道などによると、地元警察は3人を拘束した。思わぬ悲劇に見舞われた朱さんはというと、鼻の手術が必要だという。
携帯電話を見ていて高齢者に気づかず、席を譲る際に余計な一言を言ったのが朱さんの悲劇の始まりだったが、中国のネット上では、「お年寄りに席を譲るのは美徳だが、義務ではない」などと多数の同情が寄せられた。