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時代を見通す日本の基礎情報

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中国の新世界秩序の野望・・・すべての国は中国支配の下に物乞いとなる

 中国の李克強首相(58)訪英(6月)を報じた英ガーディアン紙の表現は衝撃的であった。2兆4000億円超の成約を揶揄する《李氏は新たな属国に気前よく金品を与える植民地総督》との件ではない。李氏が《新たな世界秩序に歓喜》という前段である。英国政府は李氏滞在中、自由を求める人民を大虐殺して25周年を迎えた《天安門事件》を封印した。欧州は中国の暴力や侵略行為に目をつぶり、富の提供を受ける不正義に罪悪感を逓減させている。日本も中国経済なしに自国経済を語れないが、近隣で、安全保障・歴史問題を抱え、ユーラシア大陸東端=極東の危機に関心の薄い現代欧州とは温度差が大きい。(SANKEI EXPRESSエリザベス英女王(左)と面会する中国の李克強首相。女王が国家元首ではない李氏との面会に応じるのは異例であり、英国は特別扱いに終始した=17日、ウィンザー城(AP)

エリザベス英女王(左)と面会する中国の李克強首相。女王が国家元首ではない李氏との面会に応じるのは異例であり、英国は特別扱いに終始した=17日、ウィンザー城(AP)

 ところが、海洋航行の自由が国是と言って差し支えない米国の対中姿勢までぐらついている。現状が進行すれば、富と引き換えに中国の武威・暴力を黙認する《新たな世界秩序》が日本の頭越しに完成してしまう。わが国が集団的自衛権行使や集団安全保障参加を制限するのなら、欧米との価値観の隔絶は広がり《新たな世界秩序》は中華圏の様相を濃くしていく。日英同盟を結びながら、第一次世界大戦(1914~18年)で積極的に欧州派兵しなかった大日本帝國の錯誤と、その後欧米列強が強める反日姿勢とは無縁ではない。

屈辱の19~20世紀の復讐

 近代史に度々登場する欧米列強の「中国贔屓(びいき)=日本たたき」は日本を孤立させ、悲惨な結末を歴史に刻んだ。《ワシントン会議/21~22年》では、第一次大戦で日本が獲得した中国内のドイツ租借地利権を、中国に肩入れした英米両国により、ほぼ全面的に放棄させられた。3年前の《パリ講和会議》では、日本が発議した《人種的差別撤廃提案》の取り下げを条件に英米も日本の利権を認めており、完全な裏切りだった。

 ワシントン会議には日中英米の他、オランダやフランス、ベルギーも参加した。いずれも、太平洋や東アジアに権益を有した国だ。92年後の今年、中国の習近平国家主席(61)は蘭仏やベルギー、それにドイツを訪れた。李氏が《総督》なら、主席就任後初めて欧州を歴訪した習氏は《皇帝》だった。

 オランダとベルギーの国王が各々開いた晩餐会に、習氏はドレスコードなど眼中にないかのように人民服で臨んだ。仏独では中国との経済関係がいかに有益かを上から目線で説諭。《属国に気前よく金品を与える皇帝》を気取った。一方で《皇帝》は密かにほくそ笑んでいた。

ドイツでは、中英間の「阿片戦争(1840~42年)以来、列強に奴隷扱いされた歴史の悲劇」に触れた。戦争後、英国が中国と交わした不平等条約を“手本”とし、列強は同様の条約を次々に締結した。李氏が到着した英空港に敷かれた赤絨毯が3メートル短いと文句を付けてもおり、屈辱の19~20世紀を忘れられない中国は復讐を始めたのだ。

米に強固な対抗意志なし

 復讐劇には世界が注目する舞台が必要だ。英紙が指摘した《新たな世界秩序》こそ復讐の舞台だが、近代以前とは「役者」が入れ替わった。金品をバラマキ「主役」を掌中に収めた中国は「富が欲しくば、虐殺や軍拡に口を出すな」と凄む。《中国の傲慢な態度に耐えている》と、歴史の「脇役」に降格されていく英国の悲劇を伝える英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)報道は痛々しかった。

 英国は過去の「脚本」さえ放棄したかに見える。大英帝國~冷戦の時代まで、この島嶼国家が堅持した基本戦略は、野心的強国に欧州大陸が支配されぬよう複数国が適度な均衡を保つ情勢の継続だった。大陸統一の暁には、英国に矛先が向くためだ。中国は一部欧州諸国に加え、欧州の裏庭=アフリカを筆頭とする発展途上の英連邦諸国に、経済ばかりか軍事目的の大接近を謀っている。英国は為す術もない。

 英基本戦略を米国は学んだ。南下するロシア帝國のアジア大陸支配も、日本による滿洲/一部海域支配も拒絶した。前者は日露戦争(1904~05年)を続ける国力が尽きた日本に寄った仲裁役として、後者は日露戦争以降、大東亜戦争(1941~45年)敗戦後にいたるまでの反日/日本弱体化戦略として具現化された。しかし、どうしたことだろう。東/南シナ海内で一国支配を強める中国に対しては、強固な対抗意志が感じられない。

 バラク・オバマ米大統領(52)は5月の演説でも「経済的台頭と軍事拡大が近隣諸国の懸念を呼んでいる」「南シナ海などで局地的攻撃性が放置されれば同盟国に影響を与え、米軍が巻き込まれる」とひと事。FTも《同盟国は高尚な言葉と、地政学的大挑戦から絶えず距離を置くこととの落差にウンザリしている》と酷評した。

目覚めた獅子は文明的?

 《落差》といえば、フランクリン・ルーズベルト米大統領(1882~1945年)が日本に示した警戒・憎悪と、今日の対中姿勢はあまりに違う。支那事変が起こると1937年、ルーズベルトは世界に蔓延する疫病=無法を隔離すると、日独を念頭に《隔離演説》で非難した。曰く-

 「罪なき人々や国々は残酷にも、正義感も人道的配慮も欠如した力と覇権への貪欲さの犠牲となっている▽他国の権利と自由を尊重し侵略に終止符を▽条約違反と人道的本能無視に共同で反対せねばならない」

今の中国に向けるべき演説だが《高尚な言葉》で演説を飾るオバマ氏に斯くの如き激烈な挑発は期待できぬ。見透かすように習氏は2013年、大統領に「太平洋には米中両大国を受けいれる十分な広さがある」と提案した。古典的帝国主義の発想は反文明行為である。演説でルーズベルトはこうもうたった。

 「国際的無法状態は条約違反の外国領侵略で始まり、文明基盤自体が深刻に脅かされる段階に達した。法や秩序や正義のある状態へと文明を進展させた実績と伝統は払拭されつつある」

 ところで習氏はフランスで、ナポレオンが「中国は眠れる獅子。一度目覚めれば世界を揺るがせる」と語った故事にならい講演した。

 「獅子はもう目覚めている」

 「目覚めた」事実は認めるが、次に発した野暮なジョークに、聴いていた日本の外交官は笑えなかったに違いない。

 「この獅子は、平和で、親しみやすく、文明的だ」

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