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時代を見通す日本の基礎情報

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出会えない系サイト”の罠…スマホ利用者が陥りがちな心理とは

手軽な出会いを求める男女の期待につけこんで「出会い系サイト」を偽装していた運営会社が、京都府警と大分県警の合同捜査班に詐欺容疑で摘発された。登録者数約10万人、売り上げは約8億4千万円に上っていたが、やりとりする相手はわずか10人前後の「サクラ」だったという。そんな“出会えない系サイト”がまかり通ったのは、スマートフォン(高機能携帯電話)の利用者が陥りがちなある心理だった。

 ■サクラ限定のメールで囲い込み

 合同捜査班が、出会い系サイトの利用料金をだまし取ったとする詐欺容疑で、大分県別府市の運営会社「ラパン」の元会長(59)ら6人を逮捕したのは平成25年10月16日のことだ。

 「ラパン」は19年2月に出会い系サイト「おしゃべり広場」を開設。一見すると、どこにでもある出会い系サイトと同じだ。利用するには、会員登録した上で「ポイント」を1ポイント10円で購入することが必要になる。

 たとえば、気になる異性のプロフィルや写真を閲覧するのは1回1ポイント(10円)。メールを送受信する際には、1通20ポイント(200円)。自分のプロフィルを変更するには1回20ポイント(200円)かかる-といった具合だ。利用者はポイントが不足したら購入することを繰り返し、メールのやりとりを楽しみながら、現実世界で出会うことを目指す。

 一般的な出会い系サイトでも、利用者たちがサイトの外で交流を始めると、料金を徴収できなくなってしまう。このため、運営側は可能な限り利用者をサイト内に囲い込もうとするのだが、「ラパン」が採用したのは、極端すぎる手法だった。メールの相手をサクラに限り、“出会えない系サイト”に仕立てあげたのだ。

 ■1千万円つぎ込んだ被害者も

 「ラパン」がアルバイトとして雇っていたサクラは約10人。時給750円で、1日12時間ずつの2交代、24時間体制でメールを送受信させていた。もちろん、男のアルバイトが女性の利用者を装っていた例などは、ざらにあったという。

 メールの文面は、さまざまだ。

 「まずは食事をしたりデートをしたりしてみませんか」「少し話して印象がよかったら、会いたいです」などと、オーソドックスに出会いを求める場合もある。かと思えば「現金10万円以上支払うことが可能です」「最初に200万円をお約束します」などと、驚くような金額で“援助交際”や“愛人契約”を持ちかけるパターンも。「夫に先立たれて寂しい思いをしています」などと、男の欲望をそそろうとする内容まであった。

 捜査関係者によると、利用者の中には、相手も出会いを求めていると信じ込み、1人で1千万円以上、ポイントを購入した被害者もいたという。

 もちろん、相手はサクラ、出会う可能性などない。ただ、出会いがないのに「ある」と誤解させて利用料を巻き上げたという詐欺行為を立証するのは、地道な作業だ。合同捜査班は、実に2週間にわたって、サイト内で行われたメールの送受信を調べた。すると、見事に全部、サクラが絡んだやりとりだったというのだ。

 捜査関係者は「利用者同士のやりとりは実質不可能だった」と明かす。

 合同捜査班は、アルバイトのサクラ約10人のうち、中心的な役割を果たしていた5人を詐欺容疑で書類送検した。中には「別のサイトを含めて、サクラ歴は13年」だと供述するベテランもいたという。

 ベテランが存在するということは、出会い系サイトにはサクラがつきものだ、ということを意味する。そうした点では「ラパン」の手法も、古典的だ。斬新だったのは、会員の集め方である。

 ■「電池長持ち」のわな

 悪評がすぐに広まるネット社会で、いまさらこんな“出会えない系サイト”に、だれが好きこのんで登録するのか-。そんな根本的な疑問も、違法な会員の集め方を知れば氷解するかもしれない。

 そもそも「ラパン」が摘発されたきっかけは、元会長らが詐欺容疑で逮捕される約1カ月前の25年9月のこと。端緒は、スマートフォンから電話帳データを抜き取るアプリ(応用ソフト)だった。

 合同捜査班はまず、この違法アプリを作成、使用したなどとして、不正指令電磁的記録作成などの疑いで、「ラパン」の元会長ら出会い系サイト側の3人と、IT関連会社の元社長(41)ら3人を逮捕していた。

 6人が作ったアプリの名前は「電池革命」。消耗が早いスマートフォンの電池が長持ちする、とうたったのだ。

 実際にはそうした効果はなく、起動すると電話帳のデータを抜き取るだけのアプリだった。それでも「電池革命」は約8千もの端末にインストールされ、抜き取られたメールアドレスは約70万件にのぼったという。

 「ラパン」は、これを元に出会い系サイトの会員登録を増やしていた。その手口は、こうだ。

 まず、高級車が景品で当たると称した抽選や、化粧品のアンケートなどをうたった「スパムメール」を、ランダムに作成した文字列のアドレスに向けて大量送信する。受信者が興味を持って返信すると、自動的に出会い系サイトの会員となってしまうシステムになっている。

 さらに違法アプリ「電池革命」の宣伝メールを送りつけ、インストールさせてアドレスを抜き取る。ここからは繰り返しだ。抜き取ったアドレスにスパムメールを送りつけ、あとは芋づる式に会員を増やしていく。最終的に同社が所有していたアドレスは、実に36億件を超えていたという。

 全国約10万人という登録者は、こうして集められていた。新規の会員には無料のポイントを与え、それを誘い水に“出会えない系サイト”に延々と金を払わせていく。

 実際にポイントを購入していたのは、約10万人中5600人。確率としては低いが、スパムメールと違法アプリでほぼ自動的に大量の会員を集める手法は、むしろ効率がいい。

 合同捜査班は、サイバーパトロールからスパムメールと違法アプリの存在を突き止め、そこから“出会えない系サイト”の実態を明らかにしていった。

 スマートフォンの普及に伴い、より身近で、手軽な存在になりつつある出会い系サイトだが、利用者は、思惑とは全く異なる現実があることを知っておくべきだろう。

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