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時代を見通す日本の基礎情報

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尖閣・防空識別圏は習近平が人民解放軍へ与えた“飴”だった!?

中国が11月23日に発表した防空識別圏の問題は、日米や周辺国に波紋を広げている。

 尖閣諸島周辺の日本領海を中国が侵犯するのは、世界の多くの国にとって他人ごとでしかない。しかし、今回ばかりは遠く離れた欧州連合(EU)からも「事態を深刻化させ、地域の緊張を高める」と懸念する声明が出るなど、いわば世界中が中国の行動に批判的な視線を注いでいる。東シナ海の公海上空は多数の民間航空機が飛行経路としており、この空域を人民解放軍の事実上の管理下に置くと一方的に宣言したのだから、当たり前である。

 ここで、誰しも疑問を持つはずだ。中国はなぜ尖閣諸島の奪取という国家目標に反した判断をおこなったのだろうか。1949年の建国以来、中国共産党の戦略立案能力と政策遂行能力は世界屈指であり、日中戦争に続く国民党との内戦で疲弊し尽くした中国が、世界3位の核戦力と世界2位の経済力を有している現実は、ひとえに毛沢東と中国共産党の功績である。

 しかし、そんな毛沢東の優秀な後継者であるはずの習近平と最高指導部は、いま、およそ合理的とは言いがたい極めて不可解な行動に出ている。赤いベールに包まれた中国共産党の意思決定過程を外部から直接窺い知ることは難しいが、最高指導者と人民解放軍の関係性をベースとして独自の議論を展開しているのが陳破空氏だ。陳氏は「尖閣諸島は日本のものと毛沢東、人民日報も言っていた」と発言して注目を集めた、アメリカ亡命中の中国民主化運動の活動家である。中国内外に巡らせた情報網と、元大学教授の分析力を活かした陳氏の著書『赤い中国消滅 張り子の虎の内幕』では、腐敗極まる中国共産党の実態と、赤い支配に幻滅し尽くしている国民感情がつぶさに記されている。

◆軍権を掌握できていない習近平は、人民解放軍の面子を保つため沈黙!?

 同書での陳氏の論点は文革・尖閣諸島・権力闘争・長老支配・外交・経済・民族主義と多岐にわたり、いずれのテーマにも顔を出すのが人民解放軍である。あまりにも有名な毛沢東語録「鉄砲から政権は生まれる」は、中国共産党の政権獲得後60年が経ってもいまだ死文化せず、軍の掌握こそが安定した政権運営のキモだと陳氏は指摘する。そして、そのキモである軍権を習近平はいまだ掌握できておらず、ヘタをすれば軍部の暴走も……という状況だという。

「習近平は就任したばかりのころ、ほぼ全神経、全勢力を軍に注いだ。頻繁に軍を視察して軍幹部に取り入り、軍人を激励した。(中略)対外的には、軍のやりたいようにやらせて隣国との領海、領土をめぐる争いを激化させ、自分に有利な人事配置をおこなって統帥権を強化している。自分が強硬な軍事指導者であるとのイメージを作り出し、威風を吹かせて軍を治めようとしている。これは歴代の中国共産党指導者のやり方で、習近平が日本に対して強硬なのは、このためである」(赤い中国消滅 135Pより)

 毛沢東や鄧小平は日本軍や国民党軍との戦闘を生き残る中で軍事的権威を獲得している。しかし、江沢民、胡錦濤、習近平は、実戦を知らない文民出身の最高指導者であり、彼らが軍部の支持を得るためにはアメを与え続けるしか方策はない。軍部にとって尖閣諸島への軍事展開を容認することが軍部の面子を保つためのアメであるというわけだ。だが、ここで問題となるのは軍の暴走にブレーキをかけるためのムチがないということだ。では、そのアメを与えられた人民解放軍の実力は……というと、疑問符が付かざる得ない。近年は入隊するにも賄賂が必要という腐敗ぶりに加え、軍内部の士気はだだ下がりという。

「大学や公務員試験に受からなかった場合に、子どもの進路をどうするか。中国の親たちは苦慮の末、世間体も保たれる軍隊に入れようと殺到する。かくして人民解放軍は大人気の就職先となり、入隊するにはそれなりに金が……つまり賄賂が横行している。兵役に就くために必要な賄賂の相場は、農村出身の男子が2万元、都市部出身者の男子が5万元」(赤い中国消滅 139Pより)

 カネの魔力に取り憑かれた軍幹部たちの暴走はとどまることを知らない。国の資源から武器まで、あらゆるものを横流しして私腹を肥やしているという。その額は中国のGDPの20%に達するとまで言われている。

「武器の販売と密貿易は解放軍国境警備部隊の専売特許である。(中略)2012年12月、米ブルームバーグは、中国共産党の元老だった王震の息子の王軍、トウ小平の娘婿の賀平、陳雲の息子(陳元・現政協副主席)らは皆、武器の密貿易で巨万の富を得たと暴露した。これら3ファミリーの企業資産の合計額は中国の1年分の国民総生産(GDP)の5分の1を超えている」(赤い中国消滅 148P)

◆有事になれば人民解放軍は敵前逃亡必至!?

 近代国家の軍隊とは、所属する国家の道徳と規律を最高レベルで体現する存在である。それと真逆の道を行く状況に悲鳴をあげたのは一部の人民解放軍幹部だ。人民解放軍機関紙では兵士が敵前逃亡する可能性に言及するという前代未聞の論説を1面トップで掲載したのだ。

「2013年1月20日、『解放軍報』は『戦争に備えよ まずは平和の陋習(悪い習慣)にメスを』と題する1面トップ記事を掲載した。人類共通の目標である平和を『陋習』という2文字で綴っていることは、中国共産党の平和を無視した暴力的体質を暴露するものであるが、それ以上に中南海(編注:中国政府のこと)が軍に対して抱く危惧を吐露したものである。同記事は、人民解放軍が長期間戦争をしていないため、一部の兵士の間でだんだんと『平和の陋習』が蔓延していること、そして、これらの陋習が『部隊の訓練の隅々に潜んでおり、戦争をしたら大敗するだろう』と指摘している。文中ではその陋習を明らかにしていないが、それは驕り高ぶった解放軍の贅沢三昧と、頂点に達した腐敗のことを指している。(中略)『平和の陋習』(中略)が『部隊の訓練の隅々に潜んでおり、戦争をしたら大損を食うだろう』と指摘している。(中略)このような危機感を政府指導者が抱いており、自信をなくした解放軍が敵を恐れ、戦争を恐れていることが、紙上で明らかにされたのだ」(赤い中国消滅 161P)

 そして敵前逃亡をした者には厳しい罰則をもって対処することを政府は決定したのだ。

「2013年3月27日付の『解放軍報』は『軍人違反職責罪案件立案標準規定』を公布した。同規定は、戦時における兵士の国家への裏切りと敵への投降行為に主眼を置いたものである。(中略)中南海は、ひとたび戦争が起きれば、大量の解放軍兵士が逃亡するのではと危惧しているのだ」(赤い中国消滅 164P)

 この軍人違反職責罪案件立案標準規定によれば、敵前逃亡したり、政治亡命した兵士は起訴されるべき大罪だと断じている。だが、腐敗の温床である賄賂などについてはほんの少ししか触れられていない。こうした状況に頭を痛めているのは他ならぬ習近平だ。

「習近平は軍事委員会主席に就任して以降、解放軍の腐敗について非常に憂慮している。習近平は南方軍を視察した際、『買官売官、派閥づくり、汚職』がはびこっているというと語り、気持ちが高ぶった様子でそばにいた兵士に質した。『もう長いこと軍隊にいて、いったいお前は戦えるのか戦えないのか、どうなんだ?』」(赤い中国消滅 163P)

◆中国政府の対日最大の武器、それはハッタリ

 さて、最後に陳氏の記述を整理しよう。習近平は、政権の安定のために軍の歓心を買う必要があり、軍の腐敗にはメスを入れず、軍が局地的な摩擦を起こすことも容認する。その際、摩擦相手が日本であれば、毛沢東支持層にアピールできる点でより望ましい。一方、解放軍の高級幹部は、自軍のモラル・士気・規律・風紀が軍事作戦に耐えられないほどの危険レベルにあることを認識している。以上を満たした上で中国が日本に対して実行できる選択肢は、ほぼひとつしかない。ハッタリだ。

 笑ってはいけない。武力衝突で勝つよりも、戦わずして敵を屈服させるほうが戦略としては上である。孫氏の兵法の故郷を自負しているのか、中国はこの手を多用してきた過去がある。2010年、朝鮮半島での天安艦沈没事件に対処するために米韓は黄海で合同軍事演習をおこなうこととした。これに対して副総参謀長を含む解放軍幹部がメディアに登場し、「黄海に進入すれば、中国の第2砲兵隊と海軍原子力潜水艦は飽和攻撃を開始する」「米国の空母が黄海地区に到達したなら、それは中国に『生きた標的』を捧げる行為に等しい。解放軍は反応の敏捷さと総合的な攻撃能力を試すことができ、弾がうまく当たるか、攻撃の精度と破壊力を確かめることができる」とまくしたてた。

 だが、このハッタリを完全無視して米艦隊が黄海に入ってしまったあとの中国の絶叫は無残なものだった。

「中南海はまた、心理作戦の効果がなく、米軍が中国の脅しをものともせずに、黄海で軍事演習がおこなわれることになった場合も考慮済みだ。早めに土俵を下りるための梯子を用意しておく一方、故意に『未来形』の言葉を作り出して恨みを発散するのである。例えば『米国の黄海での挑発行為は必ずやその報いを受けるであろう』『報復しないのではない、そのときがまだ来ていないだけのことだ』(中略)自らを強く見せかけようとして『対抗』するため、中国側は自分たちの軍事演習を専攻しておこなったが、演習に選んだ場所は黄海ではなく東シナ海であった。敵を恐れて戦争を回避しようとしている意図は明白なのに、『東海で軍事演習をおこなうことによって、黄海で軍事演習をする米韓海軍に対し、『封じ込め』を実施できる』と自ら解説している」(赤い中国消滅 180Pより)

 結局、中国の本音は「アメリカ怖い」ということなのか……。アメリカの出方を伺うために尖閣諸島への防空識別圏を設定したという側面もあるのかもしれない。中国のハッタリに負けず、日本も力強い外交政策で立ち向かうべきなのだ。

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