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時代を見通す日本の基礎情報

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笑い事でなくなった「中国の夢」

中国の夢とは何か、米国の夢と比べてみたい。

 「アメリカン・ドリーム」は広辞苑にも「誰にも均等な機会が保証されているアメリカ社会では、人はその才能と努力次第で成功し社会的・経済的にも限りなく上昇できるとする考え方」とある。専制君主を戴(いただ)き貴族階級が世襲的に支配する旧大陸ヨーロッパと違い大統領を国民が選ぶ新大陸アメリカの共和制が称えられている。研究社の新英和大辞典にも、American dreamは、「独立宣言にうたわれた民主主義の理想と物質的繁栄とを国内から始めて、国外にも及ぼしたいという理想」と出ている。

 ≪アメリカン・ドリームに対抗≫

 米占領軍は善意か自己過信か、アメリカ的生活様式を敗戦国日本にも広めようとした。結構な数の日本人もアメリカを夢み、留学生の何人かは米国に魅了された。学会発表が見事であれば次々と口がかかる。地位も給料も上がる。人民中国の閉塞(へいそく)から脱出して渡米した中国人学生は、日本人学生以上に米国の夢を体感し中国語で「美国」と呼ぶ彼(か)の地で定住した。

 だが、海外で暮らすうちに祖国が豊かになれば誇りたくもなる。薄給の私でも、日本の高度成長で1ドル360円のレートが円高になるや東京から送られる給料が毎月高くなる。自分の鼻まで高くなった。ましてやself-importantで知られる尊大な中国人だ。自国が強盛大国となるにつれ精神的自己肥大が生じて不思議はない。世界の二大強国ともなれば「米国の夢」に対し「中国の夢」を言い出さずにはいられない
だが、1949年以来、秦の始皇帝の再来ともいうべき主席が上で一党専制を行い、下で党幹部の子弟が世襲的に支配してきた国に未来へのどんな夢があるのか。ただ注意せねばならない。その夢を声高に語り出したのはこのたび中華人民共和国主席に選ばれた太子党の習近平氏であるからだ。3月17日の講話でこう繰り返した。

 ≪民衆の不満をそらす狙いも≫

 「中国の夢を実現しよう。そのためには中国的特色ある社会主義の道を進まねばならぬ。それは改革開放以来三十余年実践してきた偉大な道であるばかりか、中華人民共和国成立以来六十余年探し求めてきた道である。それはアヘン戦争以来百七十余年の深刻な歴史発展の中から総括して得られた結論であるばかりか、中華民族五千余年の悠久の文明を伝承する中から生まれた道である。歴史的淵源(えんげん)は深厚に、現実的基礎は広範である。中華民族は非凡な創造力に富む民族で、偉大な中華文明を建設してきた。この体制に自信を持ち勇気を奮い前進せねばならない。中国の夢は民族の夢である。中国精神を弘揚させ愛国主義を以って核心となし、全人民心を一(いつ)にして中国の夢を実現せねばならない」

 改革開放以来、中国は工業、軍事、科学技術などの面で外国からも学び一面では大国となった。中国人は自信を回復しつつある。だが、政治、社会の現代化に成功しない。前政権はまだしも改革を口にした。新政権は改革を望まぬ既得権益層に権力基盤を置く。権力を換金する体質である以上、軍産複合体はいよいよ肥大化しよう。

 それをチェックして党幹部の収賄→蓄財→資産の海外移転という構造的腐敗を打破できるとはとても思えない。そうこうするうちに農村戸籍と都市戸籍の差別撤廃を主張する正義派が社会の底辺の支持を得て台頭し、革命勢力として現体制を揺るがすかもしれない。習主席は民衆の不満をそらすためにも、「中国の夢」を称揚せざるを得ないのだ。では具体的にチャイナ・ドリームとは何なのか。

 ≪「黄福論」ならぬ「黄禍論」≫

 習氏が言い出す前から劉明福の『中国夢』(友誼出版)が過去3年来大陸ではよく売れた。曰(いわ)く、ポスト・アメリカ時代、中国は世界一を目指す。世界に中国時代を招来させるのがチャイナ・ドリームだ。21世紀、米中は対立するが、世界が求めるのは中国の王道であって米国の覇道ではない。中国は「歴史清白、道徳高尚」、植民地支配をしたこともなく大国中唯一の「没有原罪的国家」だ。ゆえに天下に王道を広める資格がある。その中国には退路はない。米国と戦火を交えぬためにも中国には強大な軍が必要だ。云々。

 物騒なのは著者が現役の大佐であることだ。大中華秩序の復活の夢を劉氏は「黄福論」と称する。私にいわせれば「黄禍論」だ。何が無原罪なものか。だが中国では自国の悪は一切教えないから、無知な民は黄福夢に浸(ひた)っている。

 二昔前、北京で純朴なタクシー運転手に「あなた方はいい人だから、日本のような悪い国に帰らず中国に住み着け」と真顔でいわれた。「年老いた母がいる」といったら「お母さんも連れてこい」といわれた。その時は家内と笑ったが、習主席が「中国夢」と言い出すに及んで笑い事でなくなった

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