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「建築界のノーベル賞」も受賞
まずはハディッドさんについて簡単に。1950年10月、イラクの首都バグダッドに生まれ、中東レバノンにあるベイルートのアメリカン大学で数学を学んだ後、1972年に渡英。世界的な建築家を数多く輩出している私立の建築学校「英国建築協会付属建築学校(通称AAスクール、英ロンドン)」に進み、特異な才能を磨きます。
卒業後の1977年、AAスクールの教師だったオランダ人建築家の事務所(場所はロッテルダム)で働いたあと、80年、ロンドンに自分の事務所を構えました。
1910年代に始まったソ連の芸術運動「ロシア構成主義」の影響を受けた非対象的かつ幾何学的な曲線や直線、鋭角が交差するSFチック、というよりブッ飛び過ぎのデザインが特徴で、94年に手がけた、あり得ないデザインのヴィトラ社消防署(ドイツのヴェイル・アム・ライン)が大きな話題に。
その後、ファエノ科学センター(ドイツ・ヴォルフスブルク、2005年)やBMWの工場(ドイツ・ライプツィヒ、2005年)、国立21世紀美術館(イタリア・ローマ、2010年)、ロンドン五輪会場の水泳センター(2012年)などを手がけ、世界で最も人気のある女性建築家に。
ちなみに、2002年には大英帝国勲章のコマンダー(CBE)、2004年には女性建築家で初めて、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞も受賞するなど、その筋の権威も認める超大物でもあります。
そんな彼女が、違った意味で斬新、というか、とんでもないデザインの建築物を作ったと欧米で非難の声が出ています。
11月28日付英紙ガーディアン(電子版)などが報じていますが、中東カタールで2022年に開催されるFIFAワールドカップの会場となる9つの競技場のひとつであるドーム形の「アル・ワクラ・スタジアム」の屋根の形が、女性のアソコにそっくりだとの指摘が各方面で相次いでいるのです。
「真珠の国」だから…「船の曲線」
ハディッドさんの事務所(ザハ・ハディッド・アーキテクト)の公式サイトなどによると、この競技場はハディッドさんの事務所と米総合エンジニアリング大手、AECOMが共同で着手。場所は首都ドーハから南に約15キロ、商業港を抱え、経済的に重要な位置を占める街、アル・ワクラにあります。
真珠と漁業で知られるカタールとあって、外観のデザインは、アラブの真珠漁で活躍する「ダウ船」の曲線をイメージしたものだといいます。この構造が日中気温がセ氏50度を超える当地の砂漠の日差しから観客を守ります。また同時に競技場内の室温を30度以下に保つよう、最新技術を駆使した空調システムを採用するそうです。
現在の収容人数は2万人ですが、W杯のため4万人が収容できるように大規模改装を実施。W杯終了後はまた2万人規模の会場に縮小すると同時に、余った2万人分の座席は撤去し、新興国に輸出するといいます。
ところが、そんなW杯の象徴的存在で、カタールの国家的威信をかけた競技場の屋根のデザインを、米コメディー専門人気テレビ局「コメディ・セントラル」の風刺ニュース番組「ザ・デイリーショー」がネタにとりあげ、コメディアンのジョン・スチュワートが「でっかい鉄製の女のアソコ(giant metal vagina)だねえ…」などと揶揄(やゆ)&悪ノリ連発。
昔なら米国だけの話で終わったはずが、最近は誰でもスマートフォン(高機能携帯電話)で世界の情報と簡単にアクセスできる時代。そのうえ、どストライクの下ネタですから、瞬く間に全世界に拡散。「言われてみれば、そう見えなくもない」と大きな話題に。
さらに、フェミニスト向けの米人気サイト、イゼベルが11月20日、この話題を取り上げ「眼識のあるすべての人なら、すぐにこの競技場が巨大な女性のアソコだと思うだろう」と断言するなど、当の女性の側からも疑問や非難の声が噴出しました。
こうした世間の声に対してハディッドさんは11月22日付米紙タイム(電子版)に「何を言ってるの? じゃあ、穴のあいてるものはみんな女性のアソコだっていうの?。ばからしい」と呆れながらも猛反論。「仮にこの競技場の設計者が男性だったとしても、(メディアといった)批評家たちは、そんなイヤラシイものに例えるべきじゃないでしょ」と答えました。
大物女史、東京五輪にもアソコ
ところが、この下ネタに加え、ガーディアン紙はハディッドさんがデザインを手がける2020年東京五輪のメーン会場となる予定の「新国立競技場」をめぐる混乱ぶりにも言及し、“ハディッド批判”を展開しました。
記事では、日本のスポーツ当局(日本スポーツ振興センター)が、ハディッドさんが計画した2020年の東京五輪の競技場が、巨大過ぎて建設費もかかり過ぎるといった批判を受け、計画を現在の4分の1の規模に縮小することを決めたと説明。
そのうえで、1958年に建てられた4万8000席を有する国立競技場を8万席に拡張する今回の計画を、ハディッドさんが“訪問者が興奮する新しい旅の創造”と(前向きに)評しているのに対し、日本の建築家たちは、競技場の建設場所が明治神宮外苑の風致地区内であるうえ、最高で高さ70メートルにもなることから、東京都が6月、この地区の高さ規制を15メートルから75メートルに緩和した件に激怒しているといった経緯にも触れました。
3000億円かけ突起物…京の都では御法度
さらに、ハディッドさんと同じプリツカー賞の受賞歴を持つ世界的建築家、槇文彦さん(85)が、この競技場の建設にかかるコストがロンドンやアテネでの同規模の競技場の3倍にあたる3000億円にもなるため、計画の再考を訴えた経緯なども詳細に報じました。
ハディッドさんにとっては、突然降りかかってきた災難みたいなものですが、個人的には、とっぴなデザインをやたらと有り難がる昨今の風潮にも大いに問題があると思います。
それより何より、恐ろしいのは人間の先入観で、今回の下ネタ報道を機に、欧米では、同じドーハに2012年に完成したフランス人建築家ジャン・ヌーヴェル氏設計のドーハタワーが「タンポンビル」と再注目され始めたり、「どこどこにある、あのビルはポコチンに見える」(いちいち、どのビルかは書きませんよ、馬鹿らしい)といった話で妙に盛り上がっています。そういう風に見ようと思えば、いくらでも見えますからね。
ちなみに記者が住む京都市は景観保護のため、市内全域で広告物に厳しい規制が入ります。そのためマクドナルドの店舗でも、イメージカラーの鮮やかな赤色は使えず、店舗の外観もえび茶色だったり、黒っぽい地味な外観に変更。オレンジ色を全く使っていないモノトーンの看板の吉野屋の店舗まであり、他府県から来た人々が驚きます。マンションなどの建築物でも、基本、派手な外観は御法度です。
そこまでしろとは言いませんが、何十年後の未来に「ポコチン」だとか「あそこ」だとか「まるでラブホテル」だとか「ゲス成金」といった、嘲笑ネタにされる建築物を建てることはやめるべきだと思います。