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≪1万発譲渡に政治的作為なし≫
国連南スーダン派遣団(UNMISS)の第一の任務は、平和定着と新国家建設のための経済開発促進であるが、事態はそれ以前の状況にある。わけても、ジョングレイ州の州都ボル近郊は激戦地といってよい。展開していたインド軍はすでに昨年4月に5人、年末に3人の犠牲者を出していた。
ボルに宿営地を置く韓国軍工兵部隊ハンビッ部隊が、戦闘と無縁であるはずはなかった。韓国軍合同参謀本部は、韓国軍宿営地から数キロの地点で銃撃戦が発生し、迫撃砲弾が着弾したと発表した。現地の韓国軍部隊の指揮官が、銃弾が不足しているとして、首都ジュバに宿営地を置く自衛隊に1万発の提供を要請したのも、このように緊迫した状況からであった。
それを受けて、安倍晋三政権は国際平和協力法25条に基づき、国家安全保障会議(NSC)と持ち回り閣議で、韓国軍と無辜(むこ)の避難民の安全のためという、緊急性と人道上の配慮から、国連を通じて韓国軍部隊に銃弾を譲渡することを決定した。日韓ACSAが締結されていたとしても、日米、日豪ACSAと同様に、集団的自衛権との関連から武器・弾薬の提供は禁じられていたであろう。アクロバット的措置だったといえる
ここから、徒らに政治的作為を読み取ろうとすれば、むしろ事態を歪曲(わいきょく)しかねない。自衛隊と韓国軍がともに、北大西洋条約機構(NATO)規格という互換性がある銃弾を用いていることは、偶然ではないとはいえ、南スーダンで自衛隊と韓国軍の宿営地が近接していたこと、韓国部隊に銃弾が不足していたこととも併せ、決して作為の産物ではない。
≪指揮官は「絆の象徴」と謝意≫
あくまでも相対的な意味ではあるが、軍という実力集団は没価値的集団であり、韓国軍と自衛隊の関係は日韓間で相互信頼を維持する数少ない領域となっている。
もとより、韓国軍部隊指揮官が自衛隊に銃弾提供を求めたとき、躊躇(ちゅうちょ)がなかったはずはない。また、予備分か否かはともかく、十分な銃弾を用意しなかった不備を批判されても弁解の余地はない。にもかかわらず、部隊と避難民の安全を優先したのは、部隊指揮官として当然の判断だったというべきだろう。付言すれば、現地では韓国軍部隊指揮官が、「銃弾は日本隊と韓国隊の強い絆の象徴」として謝意まで表明したという。
ところが、韓国国防省は当初、韓国軍部隊は国連に銃弾提供を要請したと発表した。自衛隊に銃弾提供を要請した事実を隠蔽する発表だったことは、間もなく国防省自らが暴露する。国防省幹部が国会で、部隊指揮官が「本国に事前に報告せず、自衛隊に銃弾提供を求めた」と答弁したのである。
韓国軍部隊が自衛隊に銃弾提供を求めたことをもって、安倍政権の「積極的平和主義」「集団的自衛権の行使容認」に「口実」を与えるといった韓国国内の論調に至っては、現地の実情から乖離(かいり)した「陰謀論」の誹(そし)りを免れまい。
しかも、韓国軍は自衛隊が譲渡した銃弾を返却するとした。「渇すれども盗泉の水は飲まず」という故事があるが、自衛隊の銃弾は「盗泉の水」か。「盗泉」に水を返すことで、国内での「免罪」を乞おうとでもいうのか。
≪韓国「戦時」の協力不可欠≫
韓国政府当局の対応は批判されて然るべきであるが、韓国を「謝絶」することは小論の本意ではない。改めて確認しておくべきは、李明博政権期、日韓ACSAがなぜ頓挫したかよりむしろ、なぜそれまで推進されたかであろう。
朴槿恵政権がそれを再検討したとは寡聞にして知らないが、李政権は自衛隊との軍事協力の必要性を認めたからこそ、ACSAを進めようとしたのではなかったか。そして、それが初歩的な軍事協力といわれた所以(ゆえん)は、その「本丸」が韓国「戦時」にあったからではなかったか。北朝鮮による対南武力行使、あるいは韓国が警戒を強める北の「急変事態」に際し、自衛隊による韓国軍への武器・弾薬の提供はとりあえず想定されていないが、自衛隊と韓国軍の協力関係なくして、3万を超す在留邦人の保護は可能か。よもや、朴氏は政権交代でその必要はなくなったというのではあるまい。
歴史認識と「名分論」に耽溺(たんでき)して日本との軍事協力に冷水を浴びせる韓国政府当局と、装備の不備があったにせよ、与えられた銃弾を自衛隊との「強い絆の象徴」とした指揮官のいずれが韓国「戦時」に求められるか。韓国「戦時」は、日韓軍事協力の形成を待ってくれるわけではない