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サウジアラビアの石油関連施設に対する攻撃を受けて、中東の緊張が高まっている。ドナルド・トランプ米大統領はツイッターで「われわれは誰が攻撃したか知っている、と信じる理由がある。弾は装填(そうてん)済みだ」と発信し、関与が疑われるイランに報復する可能性を示唆した。
だが、トランプ政権も、イランとの戦争は避けたいのがホンネだ。日本は原油の9割を中東に依存している。軍事衝突が起きれば、日本への悪影響は避けられない。ここは、安倍晋三首相が手掛ける仲介外交に期待がかかる局面だ。
攻撃を仕掛けたのは誰か、はっきりしていない。サウジの隣国、イエメンの反政府武装組織、フーシ派は「無人機のドローン10機で攻撃した」と犯行声明を出した。だが、米国はイランが黒幕とみている。
イランは攻撃を否定し、革命防衛隊は「周辺2000キロ以内にある米国の基地や空母は、われわれのミサイルの射程圏内だ」と米国の報復を牽制(けんせい)している。
今回の攻撃は、トランプ政権内で「戦争屋」と呼ばれ、最強硬派だったジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がトランプ氏に解任された直後のタイミングで起きた。ボルトン氏は、トランプ氏とイランのハサン・ロウハニ大統領の会談に反対し、関係改善にも否定的だった。
トランプ氏が、そんなボルトン氏を切ったとなれば、攻撃の「下手人」が誰であるにせよ「米国が報復に動く可能性は低い」と読んで、攻撃を仕掛けた可能性がある。
実際、トランプ氏は当面、サウジアラビアの対応を見守る姿勢だ。サウジがやる気なら、米国も動くだろうが、その気がなければ、米国といえども単独で報復はできない。イランを攻撃するなら「犯人はイラン」という証拠を国際社会に示す必要もある。報復へのハードルは高い。
ただ、今回の攻撃は、これまでのパイプライン破壊などと比べて、はるかに規模が大きい。サウジアラビアの原油生産の半分が止まったほどだ。報復を見合わせれば、さらに攻撃がエスカレートする可能性がある。そこが大きな懸念である。
解任されたボルトン氏とすれば、「だから、言ったじゃないか。米国がなめられているのだ」という思いだろう。トランプ氏は厚いベールで包まれた「顔の見えない敵」と対峙(たいじ)している。そんな敵に報復できるだろうか。
日本はホルムズ海峡でタンカーを護衛する「有志連合」への参加を求められている。私は「日本が自国のタンカー護衛に汗をかかない選択肢はない」と思うが、米国とイランが軍事衝突した場合、有志連合はそのまま「イラン封じ込めの有志連合」に様変わりする可能性が高くなった。
日本はイランとの友好関係をご破算にする犠牲を払っても、有志連合に参加すべきかどうか。ここは日本にとっても、難しい局面だ。
まずは、9月下旬の国連総会に合わせて、安倍首相がロウハニ大統領との会談を実現し、緊張緩和の一歩とする。有志連合に参加するかどうかの判断はその後だろう。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。