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明治大学政治経済学部の海野素央教授は、「一般論ですが」と前置きしたうえで「日本の若者は恵まれていると思いました」と、2020年最初のアメリカ調査を振り返った。
3月3日のスーパーチューズデー直前まで、西部アリゾナ州、ネバダ州、南部サウスカロライナ州で、トランプ大統領の集会、民主党バーニー・サンダース大統領候補の選挙集会、戸別訪問、選対での投票呼びかけを研究の一貫として行った。
サウスカロライナ州では、ジョー・バイデン候補に敗れたものの、それまでの3州でサンダース候補は勝利した。その原動力となったのが、学生ローンに苦しむ若者たちだ。
そんな若者の一人、白人女性のアリさん(31)と共に海野教授は、サウスカロライナ州コロンビアで開催されたサンダース集会で「障害を持つアメリカ人法(ADA: Americans with Disabilities Act of 1990)」に適応する人のサポートをした。
彼女は「私には1万ドル(100万円)の学生ローンが残っているの。だから、『ローンの帳消』を公約してくれるバーニーを支持するのよ」と、教えてくれたという。南部サウスカロライナとはいっても、海野教授が訪れた2月の最終週の1週間は、10度を下回る天候だった。それでも、アリさんはTシャツ1枚の姿だった。
アリさんは、地元の短大を卒業したものの、就職することがかなわなかった。それからは、「時給仕事の連続」だったという。いまも、食事の宅配など、単発仕事(ギグ・ジョブ)の掛け持ちでなんとか食い付ないでいるという。
「バーなどで働けば、1日で4、500ドルは稼ぐことができるの。でも、深夜まで働くのは身体的にも苦しくて……」と、力なく話すアリさんを見て、「日本の若者は恵まれている」と、海野教授は思わず考えてしまったという。
報道などによれば、アメリカの学生ローンの残高は1・4兆ドル(約160兆円)に達している。日本の学生支援機構の貸与残高は、2016年末で約9兆円なので、その規模の違いが分かる。
「サンダース陣営で出会った多くの若者が、『学生ローンの債務帳消』という公約に魅力を感じているようでした」と、海野教授。
さて、日本時間では今日からはじめる「スーパーチューズデー」。ここで行われる14州の選挙で、民主党大統領候補が獲得する代議員数の3分の1が決まる。
この直前に行われたサウスカロライナ州では、バイデン候補が、40ポイント以上の差をつけてサンダース候補に勝った。
この背景についても、前述のアリさんの話が参考になったという。もともと、サウスカロライナ州は共和党が強い土地で、大統領選挙では、民主党から捨てられている州だ。
サウスカロライナ州の民主党員は、61%がアフリカ系アメリカ人。オバマ大統領の副大統領だったこともあって、バイデン候補は、アフリカ系からの支持が強く、その意味では、結果は順当だった。
しかし、その中身を見ると、違う側面が見えてくる。海野教授が1週間で行った戸別訪問は199軒。ほぼバイデン候補か、サンダース候補しかいなかった。そのなかで、バイデン候補を支持するアフリカ系の人に特徴的なのは、中高年以上で、保守的ということだ。
アリさんいわく「サウスカロライナ州のアフリカ系の人々は、非常に虐げられてきました。それは今でも同じで、警察に呼び止められても白人であればそれで終わるけれども、黒人だとそのままパトカーに乗せられてしまうことが普通」で、現在まで続くアフリカ系への差別が、彼らを非常に保守的にしているという。
一方で、サンダース候補を支持するのは、同じアフリカ系でも、若くてリベラルな人が多かったという。海野教授が、サンダース候補が「異文化連合軍」を形成しつつあるとこれまで指摘してきた通り、アフリカ系のリベラルの取り込みにも成功しているというわけだ。また、ネバダ州ラスベガスでも、8つの選対を設置した。普通は1つの町に1カ所なので、異例な対応だが、この背景には、ラスベガスにも多いヒスパニック系の票をとる狙いがあった。
ここから推察できるスーパーチューズデーの構図は、「サンダース=ヒスパニック」対「バイデン=アフリカ系」。
スーパーチューズデーでは、アフリカ系が多い、アラバマ(代議員数52)、テネシー(64)、アーカンソー州(31)で、バイデン候補は優性。サンダース候補はヒスパニックとアフリカ系リベラルが多い、カリフォルニア(415)、コロラド州(67)でリードしている。
このあと、17日には大票田であるフロリダ州(219)での投票が控えている。ここでは、富裕層と、社会主義にアレルギーを持つ、キューバ系とベネズエラ系が多いために、サンダース候補は勝つことができない。
そうすると、3日のスーパーチューズデーでは、サンダース候補は、ヒスパニック系の多いテキサス州でどうしても勝つ必要がある。そのテキサス州(228)では、サンダース候補がリードしているものの、バイデン候補が猛追しており、予断を許さない。
サウスカロライナ州で圧勝し復活して「カムバック・
さて、少し先に目を移すと、民主党候補を決める7月の党大会では「1991」がマジックナンバーになる。つまり、サンダース候補がトップで走ったとしても、代議員数で過半数の「1991」を獲得できなければ、2回目の決選投票が行われることになる。ここでは、全体の3979に「771」が加わる。
この771は、民主党の各州知事、上下院議員など、いわゆる「エスタブリッシュメント」の票だ。つまり中道が多いということで、サンダース候補にとっては不利だ。これをにらんで、すでにサンダース候補は「最も代議員数が多い人が選ばれるべき」と、集会などで主張している。
一方、バイデン陣営は2回目で勝利することになれば、サンダース支持者を取り込むことが課題となる。2016年では、勝利したクリントン陣営が、負けたサンダース陣営を見下したことで、離反につながった。
さて、対抗馬であるトランプ大統領はどうしているのか? 高みの見物と決め込みたいところだが、「新型コロナウィルス対策」で危機管理のまずさを民主党に批判されている。
これにいら立ちを強めるトランプ大統領は、集会でこのように発言しているという。
「民主党はロシア疑惑で失敗した。弾劾も失敗。だから次は、コロナだ。これも民主党の陰謀だ。政治化させている」
このように言って、具体的解決策を出さず、新型コロナウィルス騒動が、民主党のたくらみであるようにすり替えているという。
海野教授によれば、「驚いたことに」トランプ大統領は一歩踏み込んだ言い方までしているという。「新型コロナウィルスは、でっち上げだ。インフルエンザで年間死者数2万7000万人。それと比べればコロナなど小さい」と言い放っているという。
相変わらずの「口撃」でトランプ大統領も、11月の決選に向けて余念なく準備をしているようだ。
海野教授は2020年、アメリカ大統領選を調査すべく、今後も日米を行き来する予定だが、唯一の懸念材料は、新型コロナウィルス問題で、トランプ政権が日本からの入国を制限する可能性があることだという。2008年、12年、16年と、アメリカ大統領選挙を調査してきた海野教授だが、今年はスタートから波乱含みだ。