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山梨県が富士急行に貸している県有地の賃料水準が、鑑定評価を大幅に下回っていたことがこのほど判明した。
県が専門家に委託して不動産鑑定評価を実施したところ、富士急が県に支払ってきた富士山麓の別荘地など県有林約440ヘクタールの賃料が、鑑定評価(2017年4月1日時点)に基づき適正とされた賃料の6分の1以下にすぎなかった。
県では今後、過去にさかのぼって調査を進めるとともに、「賃料が適正な水準と比べて著しく低いことが判明した場合には、元知事や富士急に損害賠償請求をしていく用意がある」(県関係者)という。
富士急といえば、山梨県内屈指の有力企業であるとともに、政界においても大きな影響力を持ってきた。現社長である堀内光一郎氏の父で、富士急社長と会長を歴任した光雄氏(故人)は、自民党の総務会長や通商産業相を歴任。堀内家は光一郎氏の妻・詔子氏に至るまで4代続けて衆議院議員を務めてきた名門で、堀内一族は山梨県政にも多大な影響力を持ってきたといわれる。
県との長年にわたる関係が明るみに出たことで、賃料問題が山梨県政を揺るがす大問題となることは必至だ。今後の展開次第では富士急の経営にも大きな影響を及ぼしかねない。
事の発端は、県内の住民1人が2017年10月、富士急向けの賃料が安すぎるとして県知事を相手取って甲府地方裁判所に損害賠償請求を起こしたことだ。県はこれまでの裁判で「賃料水準は適正」と主張してきたが、2019年2月に就任した長崎幸太郎知事が、富士急との契約のあり方の再検証を指示したことで情勢が大きく変わった。
訴状によると、原告の住民は、富士急が県に支払ってきた県有林の賃料の水準は低額で、1997年以降の分について歴代の県知事に賃料の増額措置を講じるべき義務があったのにそれを怠っていたと主張。山本栄彦、横内正明、後藤斎の元知事に対し、それぞれ49億3121万円、81億7177万円、23億2793万円を支払うように求めている(横内氏については、死去に伴って訴えを取り下げ)。
なお、住民は山梨県に対し、富士急が県に4億7393万円を支払うように請求せよと求めている。
これに対し、県は賃料が不当に低いという原告の主張には理由がないなどと反論。訴訟における補助参加人である富士急も県と歩調を合わせてきた。
ところが今夏になって県は姿勢を大きく転換させた。県の訴訟代理人を務める3人の弁護士が7月31日付で辞任するとともに、新たに別の弁護士が就任。8月12日付の甲府地裁への上申書において、「透明性の確保と県民に対する説明責任の徹底が特に求められる」と述べたうえで、開発前の素地価格を賃料算定の基礎とすべきとしていた従来の主張を撤回。不動産鑑定評価を実施した。
今回実施された鑑定評価によれば、現在の利用状況に基づくと、別荘地やゴルフ場などに使用されている県有地(約440ヘクタール)の賃料は年額20億1157万円(2017年4月1日時点の価格)が適正であるとされた。これに対し、2017年3月末に県と富士急との間で締結された契約書では2017年の賃料はその6分の1、3億2530万円にとどまっている。
今後、県では「安すぎる賃料が設定された経緯や歴代知事の判断の是非について調査を進めるとともに、過失があったと認定された場合には歴代知事への損害賠償請求の可能性もある」(県関係者)という。加えて「富士急にも損害賠償や不当利得の返還を求めていく方向だ」(同)。その金額は総額で150億円にのぼる可能性があるという。
一方、富士急は東洋経済の取材に対し、「山梨県知事がこれまでの県の主張を撤回し、従来の県の基準とは明らかに異なる基準で鑑定が行われたことは無責任であると言わざるを得ない」と主張。ほかの民間企業へ貸し付けている県有地の賃料水準を示したうえで、「当社だけが特別な扱いをされているわけではない」と反論する。
そもそも県が富士急に県有林を貸し出したのは1927年(昭和2年)にまでさかのぼる。富士急は県からの割安な賃料を元に別荘地を一般顧客に転貸してきた。その開発規模は約3300区画にのぼり、富士急のホームページ上でも「フジヤマスタイル」として「お求めやすい価格で購入可能」などと宣伝されている。
県が2007年に設置した森林総合利用協議会で、朝日新聞の報道で割安と指摘された賃料水準について「問題ない」「適正な値段で貸している」などと答弁をしていた県の県有林課長はその後、富士急の関係会社の代表取締役に就任していた事実も明らかになっている。
だが、従来のような関係が今後も続く保証はない。県が新たに適正だとした賃料水準に見直された場合、富士急は年間約17億円の追加負担を求められることになる。富士急は「内容的にも誤ったものである不動産鑑定評価書に従って算出された賃料の支払いを求められたとしても、これに応じることはできない」としている。
岡田 広行: