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とても冷たい判決
「出所後すぐにひどい犯行を重ね、反省もない。なぜ刑を軽くするのか…」
平成21年、千葉県松戸市で竪山辰美被告(52)によって殺害された荻野友花里さん=当時(21)、千葉大4年=の父、卓(たかし)さん(64)と母、美奈子さん(60)は、兵庫県稲美町の自宅で苦(く)悶(もん)の表情を浮かべた。
竪山被告は友花里さん宅に侵入し、現金やキャッシュカードを奪った後に殺害、翌日に放火した。ほかに複数の女性にも強盗するなどし、強盗殺人など13もの罪で起訴された。
千葉地裁で開かれた1審の裁判員裁判には卓さんや美奈子さんも被害者参加した。竪山被告は反省の弁も述べず、友花里さんを侮辱するかのような発言まで行った。殺害された被害者が1人の場合、過去には死刑にならないケースも少なくないが、判決は「犯行は冷酷で更生可能性は乏しい」として、検察の求刑通り死刑を言い渡した。
一方、高裁の審理はわずか1回。1審では両親が読み上げた意見陳述も、書類を提出するだけで、村瀬均裁判長は今月8日、死刑破棄の判決を言い渡した。死刑回避の条件となる「被告が更生する可能性」には触れず、殺害された被害者が1人という点を重視。裁判官だけの裁判が下してきた「先例」を重んじた。
「被害者や遺族に、とても『冷たい』裁判だと思いました」と話す美奈子さん。高裁判決の直後は「どう生活したかわからない」くらい落ち込んだという。
しかし2人は「友花里の裁判を知ってもらえば、司法はおかしいとみんなに思ってもらえると、決意を新たにした」と話す。上告期限は友花里さんの命日の翌日、今月22日で、高検の対応が注目される。
だれのための司法なのか
「被告は父も含めて3人もの命を奪ったのに『前科と今回の強盗殺人に類似性がみられない』などとして無期懲役に減刑した。意味がわからない」
21年11月、南青山のマンションで、金を奪おうとした伊能和夫被告(62)に殺害された五十嵐信次さん=当時(74)=の長男、邦宏さん(47)は悔しそうに話した。
伊能被告は昭和63年に妻を殺害し、自宅に放火し長女を焼死させたとして殺人罪などに問われ、懲役20年の判決を受けて服役。出所してわずか半年後に、強盗目的で何の面識もない信次さんを殺害した。
1審東京地裁の裁判員裁判は「冷酷非情な犯行で前科を特に重視すべきだ」などとして求刑通り死刑を言い渡した。しかし2審東京高裁の村瀬裁判長は6月、「前科を重視しすぎ」「前科の殺人と今回の強盗殺人には類似性がみられない」などと死刑を破棄し、無期懲役を言い渡した。過去の裁判例を「十分に留意する必要がある」と述べた。
「政府がまとめた『犯罪被害者基本計画』には『刑事司法は、犯罪被害者等のためにもある』と書かれていますが、職業裁判官にとっては空文だったんです」-。邦宏さんは表情を曇らせた。伊能被告については最高裁に上告された。
裁判員裁判の制度そのものの否定
犯罪被害者支援弁護士フォーラムの事務局長、高橋正人弁護士の話「市民の日常感覚や常識を取り入れた裁判員裁判が、先例と違う判断をするのは当然。高裁の裁判官が『先例と異なる』として1審判決を破棄するのは、裁判員裁判の制度や、『民意』を否定することになる」