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時代を見通す日本の基礎情報

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元駐韓大使が指摘北朝鮮問題は中国共産党大会を契機に動く?


これまで膠着状態を続けてきた北朝鮮問題が、徐々に動き出す可能性が出てきた。

 まず、10月18日から中国共産党大会が始まることが挙げられる。党大会までは北朝鮮状況の急変を避けたいと考えてきた中国は、石油禁輸など、北朝鮮を追い込む措置に反対してきた。だが、党大会が終われば、中国の姿勢が変化する可能性が出てくる。

 そして、米トランプ大統領が11月5日から日本、韓国、中国を訪問する。これを機に、北朝鮮を取り巻く環境が変化する可能性がある。

● 膠着状態に陥っていた 北朝鮮の核ミサイル問題

 そもそも北朝鮮が核ミサイルを放棄できないのは、本連載でも何度か言及してきたように、それが自国の生存にとって不可欠だと思い込んでいるためである。

 中でも金正恩・朝鮮労働党委員長は、リビアを反面教師としている。リビアのカダフィ政権は、欧米と合意して核開発を放棄し、いったんは米国の「テロ支援国家」指定から除外された。にもかかわらず、「アラブの春」を契機として反政府運動が起きるや欧米諸国は反体制派に加担し、政権は崩壊し、カダフィは殺害されてしまった。



 北朝鮮では、金正恩委員長の父である金正日政権から、国民生活を犠牲にしてでも核開発を進めており、金正恩委員長は、残忍な公開処刑を実施するなど恐怖政治を徹底させることで、核ミサイル開発に対する反発を抑え込んできた。

 それを、今さら核開発を放棄してしまえば、国内で反体制運動が起き、結果としてリビアのように政権が崩壊してしまうかもしれないと考えていても不思議ではない(そういう意味で、トランプ大統領が打ちだしたイランとの核合意の破棄警告も、今やるべきではなかった)。

 北朝鮮が核ミサイル開発を決してあきらめない場合、トランプ大統領は「北朝鮮を完全に破滅させる」と強硬姿勢をちらつかせて、金正恩を引きずり下ろそうとしている。ただ、軍事行動によって金正恩政権を排除する場合には、北朝鮮の報復攻撃によって日本や韓国に多大な犠牲が生じる危険性がある。マティス国防長官は仮に軍事行動を起こす場合には、「ソウルに危険を及ぼさない方法」で行うと述べ、北朝鮮に圧力をかけている。

 こうした発言などに鑑みれば、恐らく米軍が軍事行動を起こす場合には、核・ミサイル関連施設への限定攻撃ではなく、最初の一撃で北朝鮮を破滅させる大規模な軍事行動になるのではないだろうか。そのためには原子力空母、原子力潜水艦、戦略爆撃機をはじめとする兵力が朝鮮半島周辺で整ってからということになるかもしれない。

 ただ、現時点では解決の出口が見つからない膠着状態に陥っており、中国の動向や、日韓中を訪れた際のトランプ大統領の言動に、いやが応でも注目が集まるというわけだ。

● 中国を動かす素地は 整いつつある  

 軍事行動に突入することなく北朝鮮を変革させる、あるいは軍事行動となっても犠牲を最小限にするためには、中国が「北朝鮮を見限る」ことがポイントとなる。

 国際社会は今、北朝鮮に対する制裁を強化し、外交関係を縮小している。スペイン、メキシコ、ペルー、クウェート、イタリアが北朝鮮大使を追放した他、北朝鮮との貿易関係を停止した国や、北朝鮮労働者の労働許可の更新を認めなくなった国もある。

 米国が、北朝鮮と取引のある外国金融機関を金融システムから排除したことで、中国の大手銀行も北朝鮮との取引を停止。また中国は、米国が北朝鮮と取引のある企業を制裁対象としたことに伴って、北朝鮮企業との合弁を解消させている。

 こうした締め付けを行っても、北朝鮮の意図が、米国に核保有を認めさせることであれば、核ミサイル開発を放棄するとは考えにくいが、中国が北朝鮮を支援する“コスト”を高めることは間違いなく、中国の北朝鮮支援を思いとどまらせる上では役に立つかもしれない。


それでなくても北朝鮮は、BRICS首脳会議など、中国が主催する重要行事に合わせミサイル発射などの挑発行動を繰り返している。そうした流れから、中国共産党大会に合わせても、何か挑発をする可能性がある。中国は、こうした北朝鮮をかばうことに、へきえきとしているのではないだろうか。

 北朝鮮高官は、「ロシアはいろいろ助けてくれる。中国とは以前は血盟関係にあったが、今は敵だ。習近平国家主席の変節が原因だ」と述べたようでもある。中国の変節が進んでいる今、北朝鮮に変化を求めるよりも、中国に北朝鮮に対する対応の変化を求めた方が、解決の道を早く探ることができるのではないだろうか。
ただ、その際に避けなければならないのが、北朝鮮が先制攻撃という“暴挙”に出る危険性を高めることである。

 トランプ大統領の「北朝鮮を完全に破滅するしかない」との国連演説は、金正恩委員長をして「史上最高の超強硬な対応措置を断行することを慎重に検討する」と言わしめた。それに続いて李容浩外相は、「恐らく太平洋上で過去最大級の水爆実験を行うことになるのではないか」と発言したが、こうした応酬によって北朝鮮の暴発を招くことは避けるべきだ。

 とはいえ、日本を始めとする各国が戦争を恐れて、北朝鮮に対し核ミサイル保有を認める余地があると思わせれば、一層の核ミサイル開発を招く可能性もあるだけに、対応は極めて難しい。

 事実、北朝鮮が「米国の行動をもう少し見守る」とトーンダウンすると、トランプ大統領は「金正恩は非常に賢明で道理にかなった判断」と述べて、北朝鮮に対する圧力を撤回したが、米国が戦争をやる気がないとの印象を与え、さらなる核実験やミサイル発射へとつながった。

 また、韓国の文在寅大統領が進める、国際社会の連帯や日米韓の連携を乱すような行為も、北朝鮮の勢いを助長させている。

 文大統領は、国連を通じた北朝鮮に対する人道支援案(ユニセフに350万ドル、WFPに450万ドル)を発表した。先の軍事当局者会談、赤十字会談といい、今回も日米両国政府とは何ら事前の協議もなくこのような提案を行った。

 北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射には3億ドルを要すると言われる。国民の福祉も顧みずに、ミサイル発射を続ける金正恩政権に800万ドルを人道支援しても、救えるのは氷山の一角である。

 現在の金正恩体制を変えなければ、北朝鮮国民に対する根本的な支援にはなり得ないということを理解すべきであり、軽はずみな行為は、国際社会の結束を乱し、北朝鮮を利するだけだということを肝に銘ずるべきである。

 今、文大統領がするべきことは、トランプ大統領との信頼関係を強固にし、米国が北朝鮮に対して強硬な対応に出ようとするときに、韓国として考える最善の道を説得できるようにすることであるが、文大統領はこれとは全く逆のことをしているように思えてならない。


● 中国を味方につける鍵は 体制崩壊後の影響力保持

 そうした中国を味方に引き込むために最も重要なことなことは、金正恩政権崩壊後の北朝鮮の在り方について合意を得ることである。

 中国は、北朝鮮が混乱に陥った場合、中朝国境周辺に住む朝鮮民族の動向が不安定になり、また、在韓米軍や韓国軍が中朝国境付近まで北上し、緩衝地帯がなくなることを恐れている。こうした懸念にどう応えるかが重要なポイントだ。

 そのためには、中国にとっては、北朝鮮に対し、何らかの影響力を残すことが次善の策ではないだろうか。仮に、米国が北朝鮮政権を倒すことが不可避となれば、中国の影響力の保持を認める代わりに、応分の役割を果たすことも求めることができる。今の中国と北朝鮮の関係からみて、こうした動きが北朝鮮に筒抜けになることはないであろう。 

 もし、中国が日米韓と行動を共にするとなれば、軍事行動に突入した場合、中国の人民軍は豊渓里(プンゲリ)に入り、核施設を押さえるとの観測があり、それだけでも北朝鮮の核による報復の危険性をかなり抑えられる。

 さらに、中国が主導権をとって金正恩政権の転覆を図れば、日米韓の犠牲は大幅に縮小されよう。また、中国が反北朝鮮の姿勢を鮮明にすれば、北朝鮮人民軍や労働党の中から金正恩委員長に対する反逆の動きが広まり、国内でクーデターが起きる可能性だってある。

 このように考えていくと、いかに中国を動かして金正恩政権転覆を図っていくかが、北朝鮮問題解決の最大の課題だと言える。
日本の次期政権は早急に 対策を検討すべき

 こうした北朝鮮の脅威から日本を守るためには、イージスアショアの早期導入や敵基地攻撃能力の確保が不可欠であるが、その配備にはもう少し時間がかかるであろう。総選挙の末に誕生する新政権には、イージス艦の最適な配置や、米軍との緊急時の協力体制の確認など、現時点ででき得る最大限の対応が求められている。

 さらに、北朝鮮が崩壊した場合の難民対策も考えておかなければなるまい。中国は、中朝国境付近で北朝鮮の難民を押し返すであろうし、韓国との軍事境界線に多くの地雷がある。となると、北朝鮮の難民の多くは、海上から脱出するのではないか。最善の策としては、海岸線沿いに避難民キャンプを設け、北朝鮮の市民をできる限り北朝鮮の領内にとどめた上で、食糧など生活必需品を送ることが基本となるだろう。

 また、韓国滞在の日本人の退避も大きな課題で、基本はできる限り戦闘が始まる前に退避させることである。戦闘前であっても日本政府が退避勧告を出せば、世界各国も追随するため、避難者で混乱を極め脱出は難しくなるかもしれない。したがって、その前に各自の判断で脱出することが賢明であろう。

 いずれにせよ、安倍政権は解散総選挙の理由として、北朝鮮危機への対応も挙げている。北朝鮮に対して制裁を強化し、北朝鮮に圧力をかけることで対話に導き出し、問題の解決を図るというのが、多くの人々の期待である。

 もちろん筆者もそう期待する。しかし、問題はそうならなかった時である。筆者が本稿で論じたことが現実とならなければ喜ばしいが、北朝鮮の状況を考えると、悪いシナリオも想定し準備しておくことが肝要だと思えてならない。

 (元在韓国特命全権大使 武藤正敏)


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