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【北京=西見由章】中国人民解放軍の首脳が「規律違反」の疑いで相次ぎ拘束されたことが1日、分かった。共産党筋によると、軍の統帥機関である中央軍事委員会では前海軍司令官の呉勝利氏(72)ら3氏が拘束され、他に1氏が更迭された。同委メンバー11人のうち4人が排除されたことになる。極めて異例な事態であり、習近平国家主席(共産党総書記)の進める強引な権力掌握をめぐり党内闘争が激化しているとみられる。
軍の規律検査機関による拘束が判明したのは、呉氏のほか、前統合参謀部参謀長の房峰輝氏(66)、中央軍事委員会政治工作部主任の張陽氏(66)。事実上の身柄拘束となる「双規」を通告されたという。
中央軍事委員では、空軍司令官の馬暁天氏(68)も同日までに更迭が確認された。
中央軍事委のメンバー以外では、張氏の部下で政治工作部副主任を務めた杜恒岩氏(66)が、やはり規律違反の疑いで拘束されている。
拘束や更迭された幹部は、いずれも上将(大将)の階級だった。
呉氏は、海軍トップの司令官を2006年から約10年間にわたり務めた。この間、中国海軍は外洋への進出を積極的に進めた。
房、張、馬の3氏は胡錦濤前国家主席に近く、軍内の「胡派」の中心人物とされる。
中央軍事委主席を務める習氏が、軍内で胡氏の影響力排除を図ったとみられる。
中国では、共産党の最高指導部メンバーが大幅に入れ替わる5年に1度の党大会が10月18日に開幕すると発表されたばかり。7月には習氏の後継者候補の一人として名前が挙がっていた孫政才前重慶市党委員会書記が解任、失脚に追い込まれていた。
共産党内では、胡氏が影響力をもつ共産主義青年団(共青団)派、江沢民元国家主席グループが、主流の習派に対立してきた。
■習氏大なた
【北京=藤本欣也】中国共産党大会を秋に控え、習近平国家主席が軍部に大なたを振るい始めた。軍の最高指導機関、中央軍事委員会のメンバー11人のうち4人を排除した背景には、党内同様、軍にも“恐怖政治”を浸透させ、支持基盤を強引に形成しようという狙いがある。軍内の反発を完全に押さえ込めるのか、予断を許さない状況が続く。
人民解放軍では7月30日に建軍90周年の閲兵式を挙行し、党との一致団結をアピールしたばかりである。
1日に拘束されたことが分かった前海軍司令官の呉勝利氏は、中央軍事委員のうち最も高齢の72歳で、これまで海軍の拡張路線を推進してきた立役者でもある。習氏自ら、海軍重視の軍改革を進めてきただけに、呉氏の拘束は中国の軍事専門家の間でも驚きをもって受け止められた。
一連の“粛清”を読み解くカギは、「政権は銃口から生まれる」との毛沢東の言葉にある。共産中国において、軍の掌握こそが最大の権力基盤であり、権力者たちは軍内に強力な支持勢力を形成してきた。それだけに前任者の影響力を排除するのは困難とされる。
2012年11月に中央軍事委主席に就任した習氏が手を付けたのが、江沢民元国家主席派で制服組のトップを務めた郭伯雄、徐才厚両氏の追い落としだった。
そして今回は、習氏が胡錦濤前国家主席派の一掃を図ったとの見方がある。現在の中央軍事委員11人は、胡氏が選任したメンバーで構成されている。拘束されるなどした4人はいずれも胡氏との関係が深かった。
ただ、習氏の軍改革に対する不満はすでに軍内に広がっている。なぜ、一層の反発を招きかねない荒療治を今の時期に行ったのか。
胡氏に近い軍幹部らが習氏に反旗を翻そうとして、逆に“鎮圧”された可能性は否定できない。その場合、激震は続くだろう。
また、党大会で「習近平思想」や主席制の導入を狙う習氏が、「軍の支持基盤を一気に固めて党大会を押し切ろうとしているのでは」との観測もある。
党大会に“銃口”を向けようというのだろうか。