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時代を見通す日本の基礎情報

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「安保タダ乗り論」にこだわる茶会派

(iStock.com/Ingram Publishing/videodet/LightFieldStudios/vkyryl)

 デジタル革命でビジネスの様態は根本的に変わってきているのに、政府だけは変化が遅々としている。最たるものは、世界最大の官僚組織であるところの国防省である。


 これまで海外の基地は、敵性国を抑止する、同盟国を確保する、紛争に速やかに反応する、という3点で存在意義があるとされてきたが、いずれも疑義がある。


 米軍の基地が紛争を抑止してきたかどうかは、検証が難しい。朝鮮半島では韓国のGDPは北朝鮮の40倍あるというような決定的な力の差が北朝鮮の冒険を抑えてきたのかもしれないし、ペルシャ湾の場合、イランも原油を輸出しているので紛争を起こしたくないという要素があるだろう。


 逆に米軍の基地があることが敵性国に恐怖を与え、対抗行動を取らせることもある。2008年のグルジア戦争、2014年のウクライナ紛争は、ロシアがNATOの拡大を恐れたがためである。


 海外に基地があれば、紛争が起きた際の軍事介入が容易になるという意見もあるが、最近40年間の主要な紛争では、米国はその度に新しい拠点を設置できているのである。(注:新しい拠点の設置には時間がかかる。そして新しい拠点は、既存の海外基地とのネットワークで初めて機能している)


 基地がなくとも、航空兵力は空母で移動できるし、陸軍部隊も本土から例えばクウェートに22日以内に空輸することができる。ドイツの基地から派遣する場合と4日しか違わない。(注:緊急即応用に編成されたストライカー戦闘旅団は、世界のどこへでも96時間以内に派遣されることになっている。しかし東アジアの場合、陸・海・空の兵力を併せ持つ海兵隊が地域に配置されており、紛争には即応できることが、欧州と決定的に異なる)


 海外の基地は、敵国からの攻撃に対して脆弱である。北東アジアにおける米空軍の施設の90%は中国の弾道弾の射程内にある。


 そして海外に基地を置いていることにより、米国にとって意味のない紛争に巻き込まれやすくなる。第二次大戦後、米国防関係者達は朝鮮半島に戦略的有用性はないとして、軍の撤退を何度も進言したが実現せず、朝鮮戦争が起きてしまった。


 海外の米軍が戦後の世界の平和維持に資してきたと主張する者がいるが、米軍の存在よりも、核戦争を起こしてしまうことに対する恐怖心、戦争は悪だという考えが人々の心に定着したことの方が、抑止要因として大きいだろう。


本件論説の議論自体は、これまでCato研究所の別の研究員等が唱えてきたもので、目新しい点はありません。本件論説の目は粗く、軍事については素人的です。但し、安倍総理のトランプ大統領との会談で下火になった「日本タダ乗り論」、「日本核武装論」がまた共和党の茶会派によって蒸し返されてくる可能性を示すものではあるかもしれません。


 本件論説のような主張は、小さな政府を唱える共和党の茶会系等がつとに唱えてきたところです。しかし、これを実行するのはまず政治的に難しいでしょう。海外基地の削減は米軍全体の縮小につながり、米国内で強い反対の声が起り得ます。国防予算は年間約6000億ドルで、これに依存して生活する米国民は少なくありません。加えて退役軍人省は、32.7万の職員と1823億ドルの予算を持つ2番目に大きい省で、退役軍人約2000万名に対する医療・住宅ローン等生活保障全般を提供しています。格差の大きな米国社会で、所得水準の低い階層にとっては、軍に応募することが社会の階段を昇る有力な手段であり(除隊後、大学に優遇的に入学できる)、社会保障にもなっているのです。


 本件論説のような主張は、有事防衛のため、そして抑止力としての米軍を必要とする日本にとっては不都合なものです。日本が米国にとって持っている有用性につき、広報活動――但し相手を見てのきめの細かい――を展開していかなければならないでしょう。その中で、最も効果的な広報は、他ならぬ茶会派等、海外基地縮小論の源泉に対し、彼らの思考方法(自分の利益重視。コスト・パフォーマンス至上)に沿う形で説得することでしょう。つまり「在日米軍基地と日米同盟は、米国のアジアにおける足場である。そして米海軍は海上自衛隊との関係を失えば、その戦力をかなり低下させるだろう。また、日本が基地費用を大幅に負担しているため、米本土以上にコスト・パフォーマンスの高い軍事力運用ができる。そして米軍は日本に陸軍を殆ど置いておらず(2000名程度)、有事にはハワイ、本土から兵力を送る仕組みに既になっている。つまり在日米軍基地は、米国にとっても良い取引なのだ。他方、米国が日本を失えば、米国はアジアにおける足場を大きく失い、中国に対する交渉ポジションを低下させることになるだろう」ということを、彼らに何度も繰り返すのです。



 なお、Cato研究所の所論は、本件論説よりはるかに激しいものです。上席フェローのDoug Bandowなどは、「米国は駐留軍を日本から引き揚げ、防衛の責任は日本にまかせるべきだ。その結果が軍事バランスに及ぼす変化について、米国は責任を負わない。米中経済関係を強化すべきである。アメリカは、東アジアに関与し続けるではあろうが、軍事的な覇権を維持する必要はない。中国にはアメリカの領土を脅かす力など無い」との趣旨を述べています。

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