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時代を見通す日本の基礎情報

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ナチスに学ぶ民族浄化の中国ナチスの被害国に学ぶ日本

米映画サウンド・オブ・ミュージックのモデル=トラップ家の次女が2月、99歳で逝去、映画で描かれたトラップ家の両親・兄弟姉妹は全て亡くなった。父トラップ氏はオーストリア(墺)の海軍大佐役で、内陸国に海軍とは-と思う向きもあろうが、映画は墺=ハンガリー帝国(1867~1918年)時代が舞台で、アドリア海沿岸も領した当時は海軍を有していた。

 ゲオルグ・フォン・トラップ氏(1880~1947年)は第一次世界大戦(1914~18年)で潜水艦艦長を務めた実在の英雄。実際の階級は少佐ではあったが、退役後の1938年、祖国がドイツに併合されるや、ナチス独旗掲揚も独海軍の召集も拒絶し国外脱出するなど、その人生は比較的映画に近い。しかし、大方の墺人の生き方はトラップ氏とは違った。ナチスを歓迎した国民は多く、為政者も総統アドルフ・ヒトラー(1889~1945年)の恫喝に屈した。

 わが国でも中国に過剰にすり寄り、間違ったシグナルを送り、国益を侵す経済人や政治家、官僚が跋扈する。隣接する敵性独裁軍事大国・中国への毅然かつ巧妙な外交姿勢+外交を支える軍備を怠れば、オーストリアと同じ国運をたどる

習氏に似合う「わが闘争」

 中国の習近平国家主席(61)が政治的世界観を綴った自伝を出版するのなら、タイトルはヒトラーの著作《わが闘争》と同名が似合う。習氏主唱の「中華民族の偉大なる復興」や、それ以前に提唱された「核心的利益」を聴かされる度に、ヒトラーを敬愛し、ナチズムに共鳴する習氏や中国共産党の熱い思いが伝わって来るためだ。

 前者は「富国強軍」を柱とする中共の統治理念。後者は台湾やチベット/新疆ウイグル自治区の独立、南シナ海や尖閣諸島(沖縄県石垣市)の占有といった、武力行使してでも譲歩できない問題に使う中共用語だ。ヒトラーとナチスは「国家が生存・発展に必要な資源を支配する行為は、成長国家の正当な権利だ」と、近隣諸国の併合・占領を繰り返した。《わが闘争》で初めて触れた《東方生存圏》構築なる“理屈”は、次第に具体性を帯びていく。即ち-

 「民族の発展・存続には人口増加が不可欠。生活圏拡張=領土拡大闘争は、食糧/生活基盤/資源獲得闘争である。生活圏拡張を欲しない民族は没落せざるを得ない。領土拡大政策=戦争を覚悟せねばならぬ」

経済・物資の過酷な搾取対象として狙われたのがオーストリア始めポーランド/チェコスロバキア/ウクライナ/ベラルーシなど。各地域には独民族移住の他、独民族との血統の濃淡により同系民族を独構成要素とすべく移民が奨励。ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・オランダ人ら同(ゲルマン)系民族は敵の侵入を防ぐ「生ける長城」として、活用が想定された。他系民族の絶滅・削減・追放などは一部実行されてもいる。

 国家再形成阻止を念頭に、特定民族を限りなく低い文化環境に陥るよう仕向ける愚民化政策も目指し「ロシア・キルギス・ウクライナ人の読み書き能力向上は独民族の害になる」とまで言い切る。ベラルーシでは1万1850校近い学校が500校にまで激減させられた。

「ナチ譲り」の民族浄化

 内モンゴル自治区や旧満州で固有文化を破壊、華人化教育を施し、抵抗者は隔離・虐殺した中国のやり方はまさに「ナチ譲り」。次いで民族・文化の浄化対象にされたのがチベットとウイグル両自治区で、地球からの消滅を否定できない惨状を呈している。

習氏は「中華民族の偉大なる復興」こそ「近代以降の中華民族の最も大きな夢」とも語る。発言は2012年の総書記就任直後、国家博物館の《復興の道》参観に伴い発せられた。復興の道では阿片(アヘン)戦争(1840~42年)以来の民族復興史を展示しており、「中国の夢」とは失われた版図復活と屈辱返上とみて間違いあるまい。阿片戦争後、列強に国土を蹂躙された中国の怨念は第一次大戦敗戦後のドイツと酷似する。《ヴェルサイユ条約=1919年》でドイツは領土割譲や軍備制限、莫大な賠償金で徹底的に国力を削がれた。だが、ナチスは軍備制限を破棄し徴兵制を復活。条約で非武装地帯と定められたフランスとの国境地域に軍を進駐させるなど、ドイツにとり屈辱的なヴェルサイユ体制を、国際法を無視して葬る。

ベルギーの教訓

 中共はナチスを能く学習している。そこに、ベルギーの“戦史”研究が加われば、中国の対日戦略は完結に近付く。

 ベルギーは第一次大戦で、中立宣言したにもかかわらず、戦場となり被害に遭った。戦後、ドイツの脅威に備えフランスと軍事協定を結んだ。ところが「戦争に巻き込まれた」との反動で非戦・反軍思想が深まり1936年、協定を破棄し中立政策に回帰。精強な軍の育成を怠った。一部には、ナチス独の脅威に対抗し、仏/英軍の国内駐留を求める主張もあったが、ベルギー政府はあくまでヒトラーを刺激せぬよう努め、外国軍を入れなかった。結果、ベルギーはナチス独に占領される。

中立宣言の無力を、占領という屈辱を通し確信したベルギーは第二次大戦(39~45年)後、ブリュッセル条約(48年)→NATO(北大西洋条約機構)という集団防衛=集団安全保障の枠組みの中に、積極的に自らを投じる。

 日本にベルギーの如き覚醒はない。集団的自衛権行使を可能にすると「戦争に巻き込まれる」と扇動する政治家や市民活動家、真に受ける国民の多さは証左。ただ、小欄は「戦争をできる国にする」と煽る政治家や市民活動家には反論しない。仰せの通り。もっとも、結論は真逆。「戦争をできる国」は、敵性国家に侵略を諦めさせる=抑止力を高める。抑止力が強いほど戦争に巻き込まれない。

 日本を「戦争をできる国にする」と、版図拡大という野望を挫かれる中国は、日本の政治家・官僚や経済人、国民を“友好”で手なずけ、脅し、危機に臨み覚悟できない“平和主義者”を培養する工作に励む。

 ナチスは墺併合に際し、テロや暴動を画策し政権を内部より揺さぶった。国民は無邪気にナチスに熱狂し、為政者は脅しに屈して併合とは名ばかりの属国となった。非戦・反軍を看板にしたベルギーは占領された。

 中国はナチスに学び、日本はナチスに侵された国に学ぶのだろうか…。

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