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時代を見通す日本の基礎情報

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中国に呑み込まれる少数民族

北京・天安門の車炎上事件の背景に、中国の少数民族、ウイグルの問題がある。この問題を理解するには「東トルキスタン」の歴史と現実を知る必要がある。

「東トルキスタン」の浮沈

 ウイグル族を含むトルコ民族は東北アジアのモンゴルからアナトリア半島のトルコまでユーラシア大陸の中央部に広く分布し、中央アジアの西半分は西トルキスタン、東半分は東トルキスタンと呼ばれる。旧ソ連邦を構成していた西トルキスタンは独立して、現在はキルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタンの各共和国となっている。一方、東トルキスタンは19世紀後半に清朝軍が遠征して新疆省を設置し、現在は新疆ウイグル自治区として中華人民共和国の一部になっている。

 19世紀後半の東トルキスタン再征服は、欧米列強の侵略に苦しむ清朝には一大慶事であった。遠征軍の司令官は太平天国革命の圧殺者であったにもかかわらず、中国の英雄として中国共産党からも高い評価を受けている。

 1862年に中国西北部でイスラム教徒の反乱が勃発し、東トルキスタンは一時、中国本土から完全に切り離された。しかし、76年に清朝は東トルキスタンの再征服に着手する。遠征軍は77年12月にイスラム教徒の最後の拠点を制圧し、84年に「新疆省」を設けた。

 東トルキスタン再征服は、欧米列強の侵略と植民地化を経験した漢民族が、自らの植民地として東トルキスタンに目を付け、植民地化(Inner Colonialism)を図ったものだ。

 1944年9月、新疆省に駐留する国民党軍とイスラム教徒の間で戦闘が始まり、45年1月、イスラム教徒は「東トルキスタン共和国」の成立を宣言した。中国共産党によれば、「国民党反動派の暴虐、圧迫が新疆において限度に達した時に、新疆人民は民族圧迫に反対する武装闘争を爆発させた」(『新華月報』)のである。

 しかし、駐華ソ連大使が仲介を申し入れて、45年10月に国民党政府と「東トルキスタン共和国」の和平交渉が開始され、46年1月に双方が参加する新政府を作る合意が成立し、「東トルキスタン共和国」独立の旗は降ろされた。

スターリンの独立条件阻め

 さらに49年になると10月から12月にかけて中共軍が新疆に入り、中華民国時代は実質的に中国本土から独立状態にあった新疆省も、中国共産党によって再び中国に組み込まれた。55年には「新疆ウイグル自治区」が設置された。

 現代の国際社会では、民族自決(一民族一国家)は人々の正当な権利である。旧ソ連憲法によれば、ソビエト社会主義共和国連邦は各民族共和国が独立する権利を保留して「自発的」にソ連邦に参加した連邦国家であった(所属国家選択説

ただし、スターリンは民族が独立する条件も示した。(1)人口が100万人以上ある(2)共和国の名を冠した民族がその過半数を占めている(3)外国と国境を接している-という3条件である。

 中国ではチベット、ウイグル、内モンゴルの各自治区は、スターリンの言う独立国家の条件を満たしていて、嘗(かつ)てこれらの地域における独立運動のスローガンは、自治区にソ連邦の共和国と同じ権利を認めよというものであった。

 中国共産党政権が中国人(漢民族)に支持される最大の根拠は、中国史上、漢民族国家として(異民族国家の元と清を除いて)最大の領土を実現した点にある。仮に少数民族地区が分離独立すれば、中華人民共和国の領土は半分以下になり、共産党は中国人に支持される根拠を失うことになる。

 このため、中国共産党は少数民族地区がスターリンの3条件を満たさないように、さまざまな政策をとってきた。最大の効果を上げたのが漢人の移住であった。

「中華民族」の国が現実化

 漢人は中国の総人口の9割以上を占める。中国が持つ最強のカードは人の数だ。中国共産党は建国以来、多数の漢人移民を少数民族地区へ送り込んだ。その結果、内モンゴル自治区では、人口の9割以上が漢人になった。同自治区はもはや、スターリンの民族独立条件を満たさなくなっている。


新疆ウイグル自治区でも同様の状況が生まれつつある。現在、ウイグル人が人口の4割にまで構成比率を減らしているのに対し、漢人は4割を占めるまでになっている。近い将来、新疆ウイグル自治区で漢人が最大の民族になることは確実である。そうなれば、その土地に住む人々の意思を尊重する「民族自決」に基づいて、新疆ウイグル自治区がウイグル人の国として独立するのは不可能になる。ウイグル人独立運動に残された時間は少なくなってきている。

 なお、今も依然としてチベット人が人口の9割を占めているチベット自治区でも、青蔵鉄道の開通など移動手段の発達によって、漢人の移住は加速されている。

 中華人民共和国は「中華民族」の国であるという中国共産党の主張は、「プロパガンダ」から「現実」になりつつある

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