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民族融和路線に舵
2月の南北首相級会談でも共闘を働き掛け、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)のカウンターパートとなる「朝鮮日本軍性奴隷および強制連行被害者補償対策委員会」(朝対委)を組織した。韓国当局は工作機関の偽装部署とみている。
元駐日韓国公使で評論家の洪●(ホン・ヒョン)は、北朝鮮が急に慰安婦問題に傾倒した背景には「冷戦終結がある」と分析する。89年から東欧の政権が次々倒れ、後ろ盾のソ連も崩壊。北朝鮮の指導者金日成(キム・イルソン)は「わが民族同士」を掲げ、民族融和路線にかじを切った。
北朝鮮は、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の人物を日本人研究者や市民団体、韓国人留学生に接近させ、戦時徴用問題などで世論攻勢を図ってきた。そこに飛び込んできたのが慰安婦問題で、南北共闘の「起爆剤」となった。
北朝鮮は挺対協周辺にも食い込んだ。挺対協常任代表の尹美香(ユン・ミヒャン)が著書で明らかにしていることによると、運動のきっかけとなった沖縄在住の元慰安婦の支援者からして「朝鮮総連系の人だった」という。
そればかりか、尹の夫とその妹は日本で北朝鮮工作員と接触したとして、有罪判決を受けた。尹自身、朝鮮学校支援に絡み、昨年1月、メール内容を韓国警察に押収された。これに対し、朝鮮総連機関紙が「通知なしに押収した」と非難する記事を掲げ、逆に連帯ぶりを印象付けた。
韓国のニュースサイトは挺対協を「『反日』の仮面をかぶった『従北』だ」と報じている。
慰安婦問題に関わった韓国の宗教家は、挺対協の戦略について「日本を国際社会から孤立させるとともに、韓国政府にも強く圧力をかけて、日本を攻撃せざるを得ない構図に追い込むことだ」と指摘する。
実際、挺対協は日本の「アジア女性基金」から「償い金」を受け取った元慰安婦に圧力をかけるなど、「反日」姿勢を鮮明にした。ただ、最初から韓国世論に歓迎されたわけではなく、たもとを分かったメンバーも少なくない。
盧武鉉政権で勢い
挺対協をとりまく状況が変わったのは、親北の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が誕生したことだ。盧は2006年、慰安婦問題で日本政府の責任を追及する方針を打ち出した。歩調を合わせるかのように挺対協は韓国政府が日本に賠償を求めないのは違憲だと提訴した。韓国憲法裁判所は11年に「違憲」判断を下し、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)両保守政権の手足を縛った。
結局、朴政権は「取り込むことで、彼女らの動きを制御すべきだ」との声に押され、慰安婦問題に関する官民合同の検討会に尹を加えた。挺対協は韓国で確固たる地位を得たのだ。
「極端な主張の彼女らと距離を置いた方がいいのは分かるが、いまそれを公言すれば、世論の袋だたきに遭う」
慰安婦を強制連行された「性奴隷」と認定した96年2月の国連の「クマラスワミ報告書」に記された「20万人」という数字はその後、米カリフォルニア州グレンデール市に設置された「慰安婦」像のそばにあるプレートに「戦時中、日本軍が強制連行して性奴隷にした20万人の婦女子が慰安婦にされた」と刻まれるなど、“事実”として広まった。
最大の「敵国」であるはずの米国で「慰安婦像」設置の動きが広がる状況について、朝鮮労働党機関紙、労働新聞は「日本の歴史歪曲(わいきょく)に対する国際社会の答えだ」と手放しで喜んだ。
米大統領、バラク・オバマは4月25日に訪韓した際の朴との共同記者会見で、歴史認識に関する韓国メディアの質問に答える形で、慰安婦問題について「甚だしい人権侵害だ」とまで言い切った。
この発言を韓国側は歓迎したが、それでも挺対協の“欲”には限りがないようだ。
韓国政府と挺対協の話し合いに同席したことがある韓国人の一人は、「挺対協は朴政権の動きについて日本への追及姿勢が弱く、かつ遅いと不満を抱いている。このままでは韓国政府も追及対象になりかねない」と危惧の念を強めている。
(敬称略)
●=火ふたつの下に「わかんむり」、さらに下に火