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時代を見通す日本の基礎情報

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慰安婦問題で“正論”が封殺された現場 韓国に「言論の自由」はない

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日韓の歴史認識をめぐって韓国で反日世論が起こると、特に筆者を含む保守的論調の日本人記者は、反日系の市民団体や左派系メディアから“いい顔”をされず、居心地の悪さを覚えることがしばしばある。ただ、「日本人記者の主張」として受け止められたうえで、反発を受けるわけだが、韓国人による親日的な言動、あるいは日本に理解を示すような発言への反応はその比ではない。当地では確実に、猛批判にさらされる。そんなことを象徴する光景を、最近、目の当たりにした。(ソウル 名村隆寛)

日本人の慰安婦は?

 ソウル中心部のプレスセンターで4月29日、慰安婦問題の解決を図ろうという趣旨で、「慰安婦問題、第三の声」と題したシンポジウムが開かれた。韓国側からは学者、慰安婦支援団体の幹部、記者がパネリストとして参加。日本側からは慰安婦への「償い」のための事業「アジア女性基金」(1995~2007年)に設立当初から関わった和田春樹東京大学名誉教授がパネリストで出席した。

 韓国で「良心的な日本人学者」として知られる和田名誉教授を韓国に招いたシンポジウムは、全体的には慰安婦および慰安婦問題に理解を示すことをベースに進められた。約4時間におよぶシンポジウムの全てをここでは再現はしない。ただ、その中で興味深いやりとりがあった。

パネリストの発言が一通り終わったあと、一般参加者とパネリストとの間で質疑応答が行われたときのこと。2人目か3人目かに手を挙げた若い男性が和田氏にこう質問した。

 「(慰安婦の強制性を認めた河野談話=1993年=の際に)日本政府は日本(人)の慰安婦に謝罪しましたか?」

 和田氏は「河野談話は(対象を)韓国人に限定していません。理論的には日本の慰安婦をも前提にしています」と答え、日本政府が日本人の慰安婦も対象に謝罪したことを説明した。

 質問者の男性はさらに尋ねた。「それでは、日本の慰安婦には補償がなされましたか?」

 和田氏は「日本人(慰安婦)には補償されたことはない」と事実通り答えた。

 2人の対話はこのようなもので、客観的に見ても、和田氏は事実に基づき、分かりやすく丁寧に答えていた。

感情的にねじ伏せる

 一悶着あったのはこの後だ。質問者の男性は和田氏の回答を受けこう言った。「日本に対して法的な責任を求めるのは変じゃないですか。補償金(償い金)を(一部の韓国人慰安婦は)もらっていますねえ。あれこれ言うのならわが国(韓国)の政府にも言えばいいじゃないですか」

男性は「今や慰安婦問題は韓国の国内問題になっている」と主張したかったようだ。同じ会場にいた日本人記者の1人もそう認識したという。“よくぞ、そこまで言った”と韓国人自身の発言とその度胸に内心驚いた。

 ところが、そのとき、慰安婦支援団体の高齢女性が声を張り上げ始めたのだ。「なんてこと言って怒らせるの」「そんなこと言わないでよ。侮辱だよ!」と。さらにこう続けた。「あなた、どこに住んでいる人なの?」とすごいけんまくで男性をしかり始めた。

 途中から訳が分からなくなり、議論がかみ合っていないのかと思ったが、とにかく男性の主張が許せないようだ。司会者らがなだめて、その場は収まった。しかし、多勢に無勢。質問者の男性は感情的な言葉で押さえつけられ、見事に“黙らされて”しまった。

 韓国では償い金をもらった慰安婦もいるが、頑としてこれを拒む者もいる。現に韓国の慰安婦支援団体「韓国挺身隊問題対策協議会」は日本の「法的責任」をあくまで求め、日本政府に「賠償」としての措置を要求し続けてきた。

 それ以前に、慰安婦問題をめぐっては1993年に当時の金泳三大統領が「徹底的な真相究明が重要であり、日本に物質的な補償は求めない」と断言している。同時に金大統領は「(韓国の)政府予算で慰安婦への生活保護をする」とも表明している。

自らの主張をねじ伏せられた質問者の意見は、全く的を外しているとは思えない。

当日のヒット発言

 シンポジウムではその後、一般参加者の女性学者が手を挙げ、質問どころか長々と演説調で主張し、話し続けるなど、うんざりする時間もあった。パネリストが発表している最中、突然立ち上がって大声を張り上げた一般参加者(男性)も。「冷静に話し合えない人はこの場にいる資格がない!」とパネリストから言われ、この一般参加者は腹を立てて退場してしまった。

 いずれも韓国でのこの手のセミナーや討論会では、ありがちな光景ではある。そんな中、「韓国の国内問題」との趣旨で簡潔に語った男性の素朴な意見は、抹殺されながらも、「当日のヒット発言」だった。こじれている慰安婦問題の問題点の一つを冷静かつ的確にとらえ、提起していた。「言いづらかったろうに。画期的で勇気のある質問だ」と思い、「韓国国内にはこんな人もいるんだ」と感心さえした。

 シンポジウムが終わったあと、パネリストの方に他の報道関係者が集まるかたわら、その男性に話しかけてみた。名前を聞いたら「ただの一般人です」と名前は名乗らず、24歳という年齢だけ教えてくれた。「言論の自由はありますからね」と言うと、苦笑いしつつも、彼の表情は一瞬和らいだ。

多様な意見に耳を?

 シンポジウムでのほんの数分の出来事だったが、この“言論封殺”は、「日本との歴史」をめぐった韓国での典型的な光景である。決して例外ではない。日本の某深夜番組での討論会で、議論が白熱した際、キイキイと感情的に相手の言葉をさえぎる人が以前にいたことを記憶しているが、韓国ではそれを相当上回っている。

 日常生活ではなく、記者会見や韓国メディアの一部記者と話すときに感じることがある。保守系(韓国では右派、右翼と呼ばれることが多い)日本人記者としての“少数派”としての、言いようのない妙な孤独感とでも言おうか。

 しかし、韓国人が日本に政治的な理解を見せるような発言は、はるかに言いにくい環境にあり、まず否定される。公の場では確実に、先のシンポジウムでのように封殺される。朝鮮半島の日本統治時代について肯定的な書物を書いた人物が、過去に何人も「親日派」と韓国メディアから猛バッシングを受けている。学者、文筆家として完全に“干される”のだ。

 旧日本軍での経歴を持つ高齢の男性は、日ごろは優しい孫にも慰安婦問題に関しては相手にしてもらえない。「慰安婦問題は日本の左派(革新)系新聞が火をつけた誤報から始まった」と言いつつも、慰安婦と女子勤労挺身隊までが一部で混同され、一人歩きしている韓国の現状に対して、力なく笑うしかない。

 先のシンポジウムでは、韓国人学者のパネリストが「慰安婦問題の解決には主流の意見だけではなく、多様な声を聞く必要がある」と話しており、議論を今後も続けていく考えを示した。「多様な意見」の意味合いや範疇(はんちゅう)はともかく、まず現在の韓国社会に、多様な意見に耳を傾ける風土があるのか。そこから考える必要があると思うのだが。

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