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「セウォル号の二の舞」乗客が即座に取った行動は
ソウル市の地下鉄2号線・上往十里(サンワンシムニ)駅で2日、列車が追突した直後、パニックに陥った乗客らが真っ先に取った行動は、自ら手動でドアを開け、車内から脱出したことだった。
「セウォル号沈没が頭をよぎった」と韓国メディアに話す乗客も多く、「セウォル号事故は、指示通りじっとしていて皆死んだんだ」と叫んだ男性もいたという。
セウォル号沈没では、「その場にとどまって」という船内放送を信じ、逃げ遅れたことが犠牲者を拡大したといわれる。
指示通り救命胴衣を着てじっと待つ高校生らの姿が携帯電話の動画で残されており、韓国当局によると、犠牲者の9割が既に救命胴衣を着用していた。
2号線を運行するソウルメトロは「その場で待機してください」と車内放送を流したというが、放送さえ聞かずに線路に飛び出した乗客も少なくなかった。
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われ先に逃げようと押し合いになった乗客がいた一方、子供や女性を先に下ろし、お年寄りや体の不自由な人を支えながら秩序だって脱出する乗客らの姿も伝えられている。
「セウォル号の教訓が生きた」という評価もある半面、線路上は高圧電流の危険があるうえ、勝手に線路に出て他の列車が入ってくれば、二次災害が起きる恐れがあった。一歩間違えば、大惨事となりかねない危険な「自己判断」だったと言わざるを得ない。
深刻なのは、セウォル号沈没で「交通機関側の対応が信じられない」との感覚を国民に植え付けたことだ。
韓国紙はコラムで、校則違反に対し、「校則を破る練習をしておかないと、セウォル号事故みたいなとき、助からないから」と答えたという中学生の言葉や、「校則を守れ」と叱れない高校教諭の話を伝えている。
セウォル号事故は、こんなエピソードが冗談にならないムードを韓国社会にもたらした。ネットでは「待機しろという放送は、究極の非常信号だ」との皮肉が出回ったという。
「安全不感症超えた」「国が崩壊しかねない」
地下鉄2号線追突事故は、信号や自動列車停止装置(ATS)の故障が原因とみられている。だが、その後の調査でより根深い事故の構造が浮かび上がってきた。
ソウルメトロなどによると、信号は事故数日前から異常がみられたというが、社員が異常に気付きながら「よくあるエラー」として無視していたことが、捜査当局の調べで分かった。
先行列車が大きく遅れていたにもかかわらず、報告さえしていなかったことも判明。二重三重に事故の“芽”が放置され、韓国紙のハンギョレ新聞は「何か一つの段階で誰かが安全を最優先して規則通り働いていたら避けることもできた事故だ」と断じた。
同紙はさらに、200人近くが死亡した2003年の大邱(テグ)地下鉄火災を挙げ、人員や安全設備コストのカットなど、「当時の問題をそっくり抱えたまま、地下鉄は走っている」と表した。
セウォル号事故はいっそう深刻だ。乗客を残し真っ先に逃げた船長ら乗組員の行動や船体の無理な改造、過積載の放置など、幾重にも重なった「人災」であることは繰り返し伝えられている。その上に、安全設備や積み荷の点検は一切行わず、「問題なし」とする虚偽の報告書を提出するよう指導していたことが、事故当時操船していた女性3等航海士の供述で明らかになった。組織として安全対策を放棄していたことになる。
いわば怠慢が慣例化し、業界全体がこのような安全認識にあった疑いが極めて強い。
韓国メディアは、社会のさまざまな分野に広がる安全意識の希薄さを「安全不感症」と称し、中央日報は社説で、「『安全不感症』で説明できる段階はもう過ぎた。『安全』という言葉をハナから念頭に置かない無感覚が支配する『高度危険社会』の兆候を見せている」と警鐘を鳴らす。
別の韓国紙、朝鮮日報は、セウォル号沈没に地下鉄追突と続き、徹底した対策に取り組まなければ、「国全体が本当に崩壊しかねない」とまで社説で憂えた。
“安全敏感症”の日本見直し 水泳授業まで注目
セウォル号事故直後から韓国メディアは、日本の事故対応や救難体制に注目し、盛んに比較を行ってきた。地下鉄追突事故後にも、鉄道の安全を管理・監督する政府の専門職員が日本では英国と並んで約120人いると伝え、安全監督官が5人しかいない韓国の脆弱(ぜいじゃく)さを際立たせた。
中央日報は「日本では災害の発生が多いが、安全教育が定着しているため、生存確率が高い」と指摘。岩手県釜石市で、津波を題材にした授業を日常的に行い、東日本大震災で小中学生の99・8%が助かったことを強調した。
セウォル号事故を念頭に日本で水泳が必修科目であることにも触れている。韓国では、水泳が必修ではなく、体育で水泳を教える学校は多くない。事故後すぐに海に飛び込む乗客が極端に少なかったのも、「船室にとどまれ」との船内放送のほかに、水への不慣れも影響したかもしれない
セウォル号事故直後には、乗客を置き去りにした船長らのあまりに非常識な行動に、韓国世論の非難の矛先が乗組員に集中した。韓国で以前、「タシズム」という言葉がはやった。「タッ」は「~のせい」という意味で、何でも他人のせいにする風潮を揶揄(やゆ)した言葉だ。
だが、地下鉄事故まで重なったことで、社会全体の安全意識の希薄さに原因を求め、事故を自分に照らし合わせて考えようとする風潮が広がりつつある。
「韓国が丸ごと病んでいる。終わりなき反省と謝罪、悲しみと怒りが続く」という、韓国社会がいまだ鎮魂の中にあるが、同時にこのことに希望の光も垣間見える。
ルール無視が生んだ「良心冷蔵庫」
韓国の地下鉄では、ホームドアも整備され、駅ごとに後続の列車がどこまで来たかを知らせる電光掲示板も備えられている。見た目では、日本の地下鉄の先をいくようにも思える。
だが、2号線の追突事故を最初に通報したのは、乗客の1人だった。セウォル号事故でも亡くなった高校生が第一通報者だったことが後に判明している。
ソウルメトロ関係者は「管制システムが旧型なので、列車が正確にどのような状況にあるのか全て把握するのは難しい」と韓国紙に語った。これが事実なら、見かけ倒しも甚だしい。
地下鉄に加え、ソウルではバス路線も網の目のように張り巡らされ、バス停留所施設や専用路線が日本以上に充実している。しかも速い。日本の公共バスと比べると、ウサギとカメ以上の差だ。
腕に自信のある運転手も多く、前の車との車間距離をほとんど空けずに停車する。車間を空けようものなら、割り込まれる-これが韓国で車を運転する上でのいわば“交通常識”だ。
律義に停車線で止まる車は珍しく、交通規則通り、停車線で止まろうものなら、後続車からクラクションを鳴らされかねない。
韓国で以前、街角を観察して停車線で止まるなど、公共ルールを守る人に「良心冷蔵庫」と名付けた本物の冷蔵庫をプレゼントするという番組が人気を博した。こんな番組が成立するほど、ルールを守る人が“希有(けう)な”存在だったといえる。
取り締まる側の交通警察官も、兵役替わりに勤める学生年代の若年者が少なくないこともあって、交通違反を注意しようものなら、怒鳴り返されるという光景もみられた。
東亜日報はコラムで、韓国社会にはびこる「安全不感症」について「安全のためのコストと時間を無視して生きてきた韓国人の習慣が簡単に変わるのか疑わしい」と悲嘆した。
ただ、社会全体で反省が唱えられているいまこそ、変わるチャンスなのではないか。いま変われなければ「いつやるの」と言われかねない。少なくともルールを破ることが常識としてまかり通り、ルールを守る人が、ばかを見る風潮が変わる潮目が見えて初めて、「セウォル号事故の教訓が生きた」といえるのかもしれない。