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まず首相候補、文氏の発言を振り返ってみる。文氏はこう演説した。
「朝鮮民族の象徴は、先ほど申し上げたが怠惰だ。怠惰で自立心がなく、他人の世話になること、それが私たちの民族のDNAとして残っていたのだ」
「(李氏朝鮮時代には)小さな郡に吏房(地方公務員)が800人もいた。吏房が(住民を)無条件にムチで打っていた」
「コメも1、2斗もあればすべて奪われた。朝鮮の人たちは働こうとしないのだ。なぜならば、仕事をすればみんな奪われるからだ。どれほど努力しても自分に残る者は何もないから怠けるようになったのだ。『神はなぜこの国を日本の植民地にしたのですか』とわれわれは神に抗議するかもしれない。それは冒頭に申し上げたように、神の意思がある。『おまえたちは李朝500年間、無駄な歳月を送った民族だ。君たちには試練が必要だ』と」
19世紀末の李朝時代の社会状況について、文氏のような認識を抱くこと自体、決して間違ってはいない。
当時の朝鮮半島の実態を記録した少なくない書物からもほぼ同じ状況だったことがうかがえるからだ。
たとえば、英国の女性旅行家、イザベラ・バードは「朝鮮紀行」(講談社学術文庫版)で1890年代半ばの朝鮮半島の様子をこう書いている。
《(朝鮮人の)官吏階級は(日本による)改革で「搾取」や不正利得がもはやできなくなると見ており、ごまんといる役所の居候や取り巻きとともに、全員が私利私欲という最強の動機で結ばれ、改革には積極的にせよ消極的にせよ反対していた。政治腐敗はソウルが本拠地であるものの、どの地方でもスケールこそそれよりは小さいとはいえ、首都と同質の不正がはびこっており、勤勉実直な階層を虐げて私腹を肥やす悪徳官吏が跋扈していた》
こんな朝鮮半島の状況を改革しようとしていたのは日本だった。バードは次のように続けている。
《このように堕落しきった朝鮮の官僚制度の浄化に日本は着手したのであるが、これは困難きわまりなかった。名誉と高潔の伝統は、(朝鮮半島に)あったとしてももう何世紀も前に忘れられている。公正な官吏の規範は存在しない。日本が改革に着手したとき、朝鮮には階層が二つしかなかった。盗む側と盗まれる側である。そして盗む側には官界をなす膨大な数の人間が含まれる。「搾取」と着服は上層部から下級官吏にいたるまで全体を通じての習わしであり、どの職位も売買の対象となっていた
この状況は“過去の韓国”における事実だったばかりか、現在の姿とも重なってみえる部分がありはしないか。現に、朴大統領は最近、公務員の癒着体質の改善を国民に宣言してもいるのだ。
◇ ◇
しかし文氏への批判は収まる気配はない。連日、テレビカメラの前でざんげを繰り返している。朴槿恵大統領は、メディアと与野党政界の沸騰ぶりに動揺したのか、自分が指名した首相候補なのに、任命同意案を国会に提出しないまま中央アジア歴訪に出発。一時、現地で書類を電子決裁して提出させるとも伝えられたが、このままなら文氏は首相候補として放置されたまま、就任する前にトカゲの尻尾となりかねない。
しかし、朴大統領の胸中は相当に穏やかではないはずだ。
父の朴正煕元大統領自身が、文氏そっくりの、いやそれ以上の「反民族」的な言葉を残しているからだ。
朝鮮民族史について朴元大統領は「国家・民族・私」で、「わが5000年の歴史は、一言で言って退嬰と粗雑と沈滞の連鎖史」と痛罵。さらに「姑息(こそく)」、「怠惰」、「安逸」、「日和見主義」…辞書が作れそうなほど大量の悪口を使って表現している。
また、「選集」に収められた文章でも「わが民族史を考察してみると情けないというほかない」と断言しているのだ。
かつてバードが批判した李氏朝鮮時代の支配階層・両班(ヤンバン)については「両班の安易な、無事主義な生活態度により、後世の子孫にまで悪影響を及ぼした民族的犯罪史である」。
「韓国民族の進むべき道」でも、「怠惰と不労働所得観念」や「悪性利己主義」などのキーワードを随所に使って、朝鮮民族の“弱点”を語っていた。
◇ ◇
韓国メディアが伝える市井の人々の意見では、ほとんどが文氏は「首相就任を辞退すべきだ」という。文氏を批判し首相候補から引きずり下ろそうとする韓国の政界やメディアはまず、過去の韓国の実態を知り、正しく受け入れたほうが良くはないか?