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■海がないのに
李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)が昨年8月、竹島(島根県隠岐の島町)に上陸したことで、日本との関係が冷え込んだ韓国では20年五輪開催地の決定を控えて、米国のオンライン請願サイトで、東京五輪の開催を阻止する署名運動が開始されたことを紹介する書き込みが立ち上げられた。
書き込みの反応には、第二次大戦中の日本の戦争責任を問う声が多く寄せられている。一方、東京電力福島第1原発事故を受けて「放射能に汚染されているところで五輪なんて」「五輪選手を被曝(ひばく)者にするつもりか」など、根拠のない思い込みの発言もあった。
こうした世論に乗せられてか、韓国政府は9月6日、福島、茨城、群馬、宮城、岩手、栃木、千葉、青森の8県の水産物の輸入を全面禁止すると発表。8県以外の水産物についても、放射性物質のセシウムが微量でも検出されれば、検査証明書を追加で要求するとしている。
禁輸措置の発表が、20年夏季五輪の開催地を決めるブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会の直前だったことや、水産物の輸入禁止にもかかわらず、海がない栃木や群馬まで対象県に含まれていることから、民間団体だけでなく、韓国政府自身も「危険な日本」を印象づけて、東京五輪の開催阻止を図ったともみる向きも出ている。
■嫉妬にかられたハチャメチャ論理
「心配するまでもない。五輪を機に日本は滅亡する」
その後の東京五輪の開催決定が、よほど悔しかったのかネット上では、そんなハチャメチャな論評も出ている。その根拠として、巨額な日本の財政赤字がさらに膨らみ、デフォルト(債務不履行)やハイパーインフレを引き起こす可能性を指摘している。
さらに、五輪誘致の立役者の一人、安倍晋三首相を日本の右傾化の張本人と決めつけたうえで、東京五輪が、ナチス政権下のベルリン五輪(1936年)のコピー版となり、日本が崩壊の道に進むと指摘している。
また、放射性物質のマークを掛け合わせた東京五輪の偽のロゴマークが登場し、ボイコットが呼び掛けられるとともに、こんな書き込みもあった。
「東京で五輪するならチェルノブイリで先に開催しろ」
「金、銀、銅メダルの代わりに、プルトニウム、ウラニウム、セシウムのメダルが授与される」
東京での五輪開催に反発する韓国のネットでの過激な書き込みぶりに対しては、政府レベルでは歴史認識問題などで一致する中国でも、ネットユーザーの一部からは、「低俗」などと批判する声も出るほどだ。
■誤報ぬか喜び 中国
その中国では、国営新華社通信や国営の中国中央電視台(CCTV)が、IOC総会の内容を速報した。ところが、1回目の投票で同一票となったスペインのマドリードと、トルコのイスタンブールが決選投票に進むための再投票で、「東京」の文字がなかったため「東京落選」と誤報した。
湖南省長沙市の地元夕刊紙、長沙晩報は新華社の配信を受けて「東京落選、イスタンブールで五輪」とした紙面を製作。結局、数十万部を回収して、印刷し直すことになり、大損害を受けたとしている。
新華社、CCTVはいずれも「中国共産党と政府の喉(のど)」とされ、中国では最も権威あるメディアだけに、東京五輪が決まったこと以上に大きな反響を呼んだ。ネット上の掲示板では、「国際的な間違いだ」「中国の喉がこのようなニュースを流したら、他国から中国人がどのように見られるか」などと、面子を重んじる中国人らしい批判が殺到した。
一方で、反日感情があるネットユーザーからは誤報については、こんな書き込みが相次いだ。
「故意だ」
「日本での五輪開催を見たくない表れ」
「(東京落選と思ったのに)ぬか喜びだった」
誤報批判に対しては、新華通信社と並ぶ中国の国家通信機関、中国新聞社が、日本の朝日新聞もウエブ版の公式ツイッターで「東京落選」と誤って報じ、約2分後に取り消していることを取り上げ、「朝日新聞も誤報」とする記事をいいわけがましく配信している。
一方、中国共産党機関紙の国際版「環球時報」は「中国人は東京五輪の成功を望む」とする社説を掲載。靖国神社への参拝や尖閣諸島問題などを念頭に「21世紀に入り日本は歴史問題、海洋領土問題で北東アジアの四方に敵をつくり、挑発をしている」と指摘。そのうえで「五輪は日本にとって自制への圧力となりうる」「今後7年間日本はおそらく少し温和になり、それほど居丈高でなくなるだろう」とした。さらに、「今後数年間、日本社会は東京五輪を支持する中国人の度量の大きさと泰然さを見ることになる」と、中華思想を前面に出した論評を行っている。
■見せてもらおう、「中国の度量の大きさ」
08年の夏季五輪招致では、北京、カナダのトロント、パリ、イスタンブールとならんで大阪市も開催候補都市として名乗りを上げた。しかし、大阪は1回目の投票でわずか6票の獲得にとどまり落選、歴史的な惨敗を喫した。
大阪市の財政が危機的な状況にあったことや、現地視察に訪れたIOC委員のバスが何度も渋滞に巻き込まれるという失態を演じて、極めて低い評価となったためだ。
しかし、インフラが充実し、会場の6割以上を既存施設として用意していた大阪に対して、最高の評価を受けて開催地に決まった北京は当時、競技施設のほとんどが計画段階にすぎなかった。
北京の勝因の一つは、13億人の人口を抱える巨大市場で五輪が開催されることに、世界のビジネスマンが魅力を感じていたことにある。また、中国を国際舞台に引きずり出して、チベット人の弾圧など、人権問題の解決を迫る思惑もあったことから、「北京五輪ありき」の招致レースだったともいわれている。
しかし、北京五輪で世界が注目した中国国内の人権問題は解決どころか、悪化の一途をたどっている。また、経済を急成長させた中国は、資源確保のため尖閣諸島だけでなく南シナ海などでの海洋進出を強め、一部の東南アジア諸国との摩擦が絶えない。
東京五輪までに、中国の度量の大きさを見せてもらえることを、日本だけでなく世界が願っている。