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とはいえ、こうした扇情的報道には違和感を禁じ得ない。国民の「知る権利」と民主主義の危機は、実は菅直人政権時に訪れていたと思うからである。
安倍晋三首相は4日の党首討論で、菅政権が隠蔽した尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖の中国漁船衝突事件の映像を流した元海上保安官、一色正春氏の最近の言葉をこう紹介していた。
「先般、一色氏がテレビに出て『かつて出すべき情報を勝手に秘密にした。こうして(秘密の指定と解除の)ルールを決めることが大切だ。出すべき映像を出さないと判断できる状況が問題だ』と言っていた」
現在、安倍政権はこの映像について「特段の秘匿の必要性があるとは考えにくい」(菅義偉(すが・よしひで)官房長官)とし、「特定秘密」にも該当しないと答弁している。
海保は映像を即日公開するつもりで準備していた。中国に過剰に配慮した菅政権の恣意(しい)的な横やりがなければ、もともと「秘密」でも何でもなかったのだ。
にもかかわらず、当時の仙谷由人官房長官は一色氏を初めから「犯罪者」扱いすらし、こう強調した。
「大阪地検特捜部の(押収資料改竄(かいざん)・犯人隠避)事件に匹敵する由々しい事態だ」「逮捕された人が英雄になる。そんな風潮があっては絶対にいけない」
ちなみに、一色氏は国家公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検されたものの「犯行は悪質ではない」として不起訴処分となり、逮捕はされていない。一連の仙谷氏の発言は権力者による人権侵害に近い。
それに対し、現在、特定秘密保護法案の反対キャンペーンを張るメディアの反応はどうだったか。むしろ菅政権の尻馬に乗り、一色氏の行為をたたいていた。
一色氏は、自身のフェイス・ブック(11月21日付)でこうも指摘している。
「3年前のあの映像を、誰が何のために隠蔽したのか。(ジャーナリストらは)それすら明らかにできてはいないではないか。自分たちの都合の良いときだけ知る権利を振りかざしている姿は滑稽である」
振り返ると、映像流出時の朝日社説(22年11月6日付)はこう書いていた。
「仮に非公開の方針に批判的な捜査機関の何者かが流出させたのだとしたら、政府や国会の意思に反することであり、許されない」
毎日社説(同日付)もこれと同工異曲で、「国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた『倒閣運動』でもある」と決め付けていた。
当時の菅首相は「民主主義とは期限を区切った独裁」を持論とし、喜々として三権分立否定論を語っていた人物である。彼らのルールなき情報隠しは正当化しておいて、今さら「国民の『知る権利』の代理人」(朝日)だと胸を張られると、こっちが赤面してしまう