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生活保護横領で資産4億円超、銭ゲバ公務員「昔が貧乏だったから」のドケチぶり

「横領しても、絶対にばれない」。大阪府河内長野市の元職員が狙いを定めたのは、ずさんな管理下にあった巨額の税金だった。市の口座から生活保護費約2億6600万円を不正に引き出し、うち約400万円を着服したとして大阪府警に逮捕された元職員。ところが、手にした大金は散財することなく、大半を貯蓄に回したり、投資運用していた。そして、低家賃の団地で質素な生活を続けた。逮捕時に貯め込んでいた金融資産は4億円超。カネに強い執着心を持つ“銭ゲバ”というべきで、元職員は犯行動機についてこう供述したという。「お金があれば困らない。貯められるだけ貯めたかった」

巨額の生活保護費を横領した大阪府河内長野市元職員の宮本昌浩被告。貯め込んだ資産は4億円を超え、自宅の廊下には無造作に8千万円の札束が置かれていたという(平成25年3月撮影)

巨額の生活保護費を横領した大阪府河内長野市元職員の宮本昌浩被告。貯め込んだ資産は4億円を超え、自宅の廊下には無造作に8千万円の札束が置かれていたという(平成25年3月撮影)

自宅廊下に8千万円「札束」

 10月20日、大阪府富田林市の団地の一室を捜索した府警の捜査員は、思わず目を疑った。2DKの室内にあったのは現金約8千万円分の札束。リュックサックやポリ袋などに小分けして詰め込まれ、家族が頻繁に行き来する廊下の片隅に無造作に放置されていた。

 部屋の主は元河内長野市職員の宮本昌浩被告(43)=業務上横領罪で起訴、懲戒免職。平成13(2001)年から約10年間、生活保護を主管する部署で働き、同僚から保護行政のエキスパートとして一目置かれる存在だった。

 府警は札束を押収。翌21日、自ら管理していた市の口座から約400万円の保護費を着服したとして、宮本被告を業務上横領容疑で逮捕した。

 妻は大金が廊下に置かれていることに気づいていたが、「家計のことで旦那に口を出すと怒られる」という理由で追及しなかった。一方、宮本被告は府警の調べに「本当は銀行に預けたかったが、あまりに金額が多いと不審に思われる恐れがあり、怖くてやめた」と話したという。

金に執着、交通費二重請求も

 府警によると、宮本被告は逮捕時、4億円を超える金融資産を保有していた。内訳は、自宅にあった現金8千万円のほかにも預貯金が1億2千万円、投資信託などの金融資産が2億円以上。投資の損失はなく、着服したとされる約2億6600万円はほぼ手つかずで残っていた計算になる。

 一般的に大金を手にした横領犯は、住居や車、遊興費などに派手に使い込む傾向がある。ところが、共働きの妻と子供2人との4人暮らしの宮本被告は、家賃5万円程度の団地から引っ越さず、車も軽乗用車のままだった。

 質素倹約を貫いたのは金への強い執着心があったから。府警の調べに、「幼いころに裕福でなく、ほしいものが買えずに我慢していた。金があれば困らないと思い、貯められるだけ貯めるという考えを持つようになった」と明かしている。

 ある同僚も「とにかくケチ。細かい出費にもうるさかった」と打ち明ける。例えば経費精算。南海電鉄の株主として得た無料乗車証で通勤しながらも、市に交通費を請求し、却下されたことがあったという。

ミス隠蔽ばれず、着服を計画

 「金さえあれば安心」。そうは思っても、普通はそう簡単に他人の金を着服できない。ところが、宮本被告は思わぬ偶然から犯行を思いついた。

 あるとき生活保護費を二重支給するミスをしてしまった。それを隠蔽するために虚偽の手続きを取ったところ、内部で問題にならなかったのだ。

 「ミスのつじつまを合わせようとしても発覚しないのなら、横領してもばれない」

 そう考えると、平成21年1月~23年3月、計1326回にわたって市の口座から現金約10万~40万円を繰り返し出金。総額は約2億6600万円にまで膨れあがった。
思惑通り、市はその間、全く犯行に気づかなかった。その背景には、保護費の支給事務を宮本被告に独占させていたという、市のずさんすぎる公金管理の実態があった。

筆跡酷似の領収証、見抜けず

 市の支給事務ではまず、受給者の申請を「ケースワーカー(CW)」が審査し、保護費の支給の可否や支給額を決定。端末に入力したそれらの情報を「電算システム担当」が管理し、最後に「経理担当」が受給者の口座に現金を振り込んだり、CWを通じて窓口で直接現金を支給したりする流れになる。

 これらの担当は本来分離されるべきものだが、宮本被告は21年1月以後、出産休暇に入った経理担当の女性職員の代理を任され、一人三役を兼務していた。

 この状況を利用し、元受給者や架空の受給者への支給をでっち上げるなどの方法で端末にでたらめな金額を入力し、庁内のATMから保護費を次々に引き出した。

 さらに、経理担当が保護費を渡した証明としてCWを通じて受給者から受け取る領収書について、白紙の領収書を同僚CWらに催促。自ら印鑑を用意するなどして偽造していた。

 このような「大胆かつ稚拙(ちせつ)」(市幹部)なやり口にもかかわらず、上司らは決裁をスルーし続けた。偽造された領収書には似たような筆跡が並んでいたにもかかわらず、だ。

 市幹部は「誰かが領収書の束を見ていれば犯行に気づけた。ずさんなチェック態勢だったと言わざるを得ない」とうなだれた。

府監査に「兼務解消」とウソ

 「行政の信頼を根幹から揺るがす。本当に遺憾だ」

 宮本被告の逮捕後、市は世間の猛烈な批判にさらされ、ついには閣議後の記者会見で田村憲久厚生労働相から名指しで糾弾された。

 しかしその後も、市の信じられない保護行政の実態は次々と明るみに出た。

実は市では、宮本被告の着服が始まったとされる21年以前にも、保護費の申請と支出の業務を宮本被告に兼務させていた。府は不正につながる恐れがあるとして、定期監査で2度にわたって「不適切」と指摘。宮本被告はいったん兼務を外れたが、市は23年1月に再び元の状態に戻し、府には「兼務を解消した」と嘘の報告をしていた。

 職員が金を貯め込んでいたため、着服したとされる約2億6600万円の保護費は全額弁済される見込みだが、市の保護行政への信用は地に落ちた。市議会はすでに議員全員が参加する特別委員会を設置し、原因究明と再発防止に向けた議論を進めている。

 ある府警の捜査関係者は「上司のずさんな決裁を狙い撃ちにした元職員も、それに気づかず元職員に業務を任せきりにしていた役所も、結局どっちもどっち。情けない行政の尻拭いをさせられた気分だ」と切り捨てた。

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