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時代を見通す日本の基礎情報

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砂上の楼閣 中国に利用される韓国 反日共闘

去る3月下旬に核安全保障サミットが開かれたオランダのハーグで、東アジアの外交問題をテーマとした二つの首脳会談が開かれた。一つは現地時間23日夜に行われた中韓首脳会談であり、もう一つは、同じく現地時間25日夜に開催された日米韓首脳会談である。

 二つの会談のそれぞれの参加国である日本、中国、韓国は言うまでもなく東アジアの主要国だ。もちろん、アメリカも東アジアの国際政治に深く関わっている。そして後述するように、日米韓首脳会談の中心課題はすなわち北朝鮮問題であるから、北朝鮮も実は、この一連の会談の陰の主役であるとも言えよう。

 要するに、アジアから遠く離れたオランダ・ハーグを舞台にして、「オール東アジア」の外交が大きく動いたわけである。

「歴史問題」の一点張り
韓国の対日外交

 そして、異なる組み合わせで行われたこの二つの会談の中身を注意深く吟味すると、現在の東アジア外交において、二つの外交志向あるいは外交路線が対立していることがよく分かる。

 それはすなわち、中国・韓国の行う、日本をターゲットとする「歴史問題固執のイデオロギー外交」と、米国が中心となって進める「危機対応のための現実外交」との対立である。

 私のコラムでもかねてから指摘しているように(『韓国・朴槿恵大統領の「反日一辺倒外交」という愚行』)、お隣の韓国は現在の朴槿恵大統領が就任して以来、ひたすら日本との歴史認識問題に固執してずいぶん歪な対日外交を進めてきた。日韓が共通して直面している現実の問題が何であるか、韓国の国益は一体どこにあるのか、そういうこととは関係なく、とにかく「歴史問題」の一点張りで日本に対する厳しい姿勢を貫くのが今の韓国外交の最大の特徴である。それはどう考えても、現実を無視したイデオロギー外交以外の何ものでもないであろう。

 そして一方の中国では、習近平政権成立以降、最初は一貫して「領土問題」という現実問題を軸に日本と対立を続けてきたが、アジア外交全体において日本の安倍政権が進める「中国包囲網外交」によって中国が孤立感を深める中で、習政権はやがて日本を叩くための「歴史カード」を持ち出して反撃に打って出た。

つまり、安倍首相がアジア諸国に対し、「中国からの現実的脅威に対処して結束しよう」と呼びかけて「対中国包囲網」を構築しているのに対し、習主席は「かつてアジア諸国を侵略したのはむしろ日本ではないか」という論理をかざして日本とアジア諸国の分断を図り、「対中国包囲網」を打ち破ろうとしているのである。

 そういう意味では、中国の行う「歴史認識外交」は、反日イデオロギーに囚われすぎる韓国の場合とは違って、むしろ現実の外交戦略遂行のために「歴史」をカードとして利用しようとするものであるが、いずれにしても、歴史問題をもって日本を叩くというのは中韓両国の共通した外交路線となっており、中国にとっての韓国は、アジアにおける「対日共闘」の唯一のパートナーとなるのである。

中国に利用される韓国

 こうした中で、いわば歴史問題をテーマにした「中韓対日共闘」が露骨に演出されたのがすなわち、3月23日にオランダのハーグで行われた中韓首脳会談である。

 韓国大統領府が明らかにしたところでは、習近平国家主席と朴槿恵大統領の会談では、日本の初代総理大臣の伊藤博文を暗殺した安重根の記念館のことが大きな話題の一つとなったという。

 まず習主席は「私が記念館建設を指示した。両国国民の(安重根への)思いを強め、(中韓の)重要な結び付きとなる」と切り出すと、朴大統領が「両国国民から尊敬される安重根義士をしのぶ記念館は、友好協力の象徴になる」と応じた。

 さらに習氏は、日本統治に抵抗した朝鮮人部隊「光復軍」を記念する石碑が近く、部隊の拠点があった中国・西安に完成すると説明した。朴氏は「意義深く思う」と述べたという。

 このように、紛れもなく中国の習主席の主導下において、両国首脳は歴史上の暗殺者の安重根や幻の「朝鮮人光復軍」をもち出して、いわば歴史問題を材料にした「中韓反日共闘」の外交路線を鮮明にしている。その背後には当然、韓国を引きつけて日米韓の参加国連携にくさびを打ち込みながら、東アジア外交において優位に立とうとする中国の思惑があるのであろう。

 しかしそれにしても、21世紀になった今日の中韓両国の首脳会談で、百年以上も前の一暗殺者のことが話題になるのは異様であろう。そのことは逆に、彼らが構築しようとする「反日共闘」というものは、まったく現実の根拠に乏しいものであることを如実に示している。現実の根拠がないからこそ、両国を「反日」に結びつける唯一の連結点はすなわち「歴史」なのである。

実際、たとえば韓国の視点に立って冷静に考えてみれば、本来彼らは中国と連携して日本と対立しなければならないような理由は何一つないし、「反日」によって達成できる中韓両国の共通した国益があるわけでもない。冷徹な国際政治の力学からすれば、韓国は、反日イデオロギーを振りかざして日本の対中国包囲網外交を打ち破ろうとする中国の思惑に単に利用され翻弄されているように見えるのである。

日米韓首脳会談の内容は北朝鮮問題

 中韓両国が行った歴史固執・イデオロギー先行の首脳会談と比べれば、その2日後に開催された日米韓首脳会談はまったく異なった趣を呈している。

 周知のように、会談の開催を提案しその実現において主導的な役割を果たしたのは米国のオバマ政権である。オバマ政権が会談を渋る韓国側を促して半ば強引に日程の設定を進めたからこそ、3カ国の首脳会談が実現されたわけである。

 そして、オバマ政権がそれほど苦心してなんとか会談の実現にこぎ着けたかった最大の目的は、迫りくる北朝鮮による核武装の脅威への対処であろう。

 つまり、3カ国の連携強化を図ること(あるいは演出すること)によって、北朝鮮の冒険的行動を封じ込めるのが最大の狙いである。言ってみれば、中国と韓国が「歴史問題」を持ち出して百年も前の過去のことを執拗に大騒ぎしている中、米国の唯一の関心事はまさに現実の政治問題にあった。日韓の間の「つまらない歴史論争」を横目にして、米国の目線はあくまでも、東アジア全体の抱える「いまここにある危機」にどう対処するか、という一点に集中しているのである。

 そして米国の思惑通り、オランダでの日米韓首脳会談の内容は終始一貫して、北朝鮮の核武装とミサイル問題に集中し、それに対処するための3カ国連携を「再確認」したことが会談の最大の成果となっている。一方、日韓両国間の「歴史問題」は会談から完全に排除されたことも注目されている。そういう意味では、米国の主導下で行われたこの3カ国首脳会談の実現は、アメリカの進める危機対処の現実主義外交の結果であるとも言えよう。

 おそらくアメリカは今後も、東アジア諸国間のいわゆる「歴史認識論争」には一切関与せず、ただひたすら現実問題の対処に着眼点をおくアジア外交を進めていくこととなろう。その際、実は北朝鮮の核武装問題以外に、あるいはそれ以上に、アメリカとして全力を挙げて対処しなければならない重大な問題がもう一つある。それはすなわち、東シナ海と南シナ海という二つの海への中国の覇権主義的進出である。

この二つの海を自らの支配下に置くという中国の野望をいかに阻止するかはおそらく、アメリカの今後のアジア政策の重点の中の重点となろう。オバマ政権が「アジアへの回帰」を宣言したのも、米国海軍が2020年までに所有する艦隊の6割を太平洋沖に配置すると決めたのも、まさに中国の海洋侵略を阻止するための戦略的措置であることは誰の目から見ても明らかであろう。

アジアにおける米中の対立

 今月下旬から始まるオバマ大統領のアジア歴訪も、まさにこのような「中国封じ込め戦略」の一環と見なすべきである。

 アジア歴訪の訪問国は、日本、韓国、マレーシア、フィリピンの4カ国である。第二次オバマ政権発足以来初めてのアジア訪問であるが、中国の習近平国家主席が去年アメリカを訪問したにもかかわらず、今回の大統領アジア歴訪では中国を外している。

 そして訪問する予定の4カ国のうち2カ国、すなわち日本とフィリピンは、今まさにアジアの海において中国と激しく対立している。特にフィリピンの場合、その国の現役の大統領が習近平政権を名指しして「現代のヒトラー」と激しく糾弾していることからも、中国との対立の深刻さがうかがえる。おそらく中国からすると、日本の安倍政権がアジアにおける「中国包囲網」構築の「黒幕」であるならば、フィリピンは「反中勢力」の急先鋒なのであろう。

 しかし中国からすれば大変不愉快なことに、この4月、米国のオバマ大統領は中国を差し置いて、まさに中国にとって「敵国」である日本、フィリピンという二つの国を順番に訪問していくのである。米国の思惑は明らかである。要するに日米同盟を強化しながらそれを基軸に、反中急先鋒のフィリピンを抱き込んで「中国封じ込め」を進めようとしているのだ。

 それこそが、米国の進める現実主義的アジア外交の真の狙いであり、戦略的着眼点なのである。もちろん、米国のこのようなアジア外交の志向は日本のそれとまったく一致しており、中国の海洋での膨張を封じ込めることこそ日本にとって最大の国益である。

 こうして見ると、今のアジアにおける根本的な対立は、すなわちアジア周辺の海の安全と航海の自由を守ろうとする日米と、力ずくで秩序を破壊して海を支配しようとする中国との戦略的対立であることが分かる。その中で、アメリカはアジアの現実に立脚した外交戦略を進めているのに対し、劣勢に立たされている中国は、「歴史問題」を振りかざし日米同盟の一方である日本を徹底的に叩くことによって、日米同盟に対する優位を勝ち取ろうとしているのだ。

もちろん、中国にしてみれば、米国のもう一つの同盟国である韓国を「歴史問題」をテーマにした「反日共闘」に引きつけることができれば、対日米同盟の闘争において有利な立場に立つことができよう。

 実はこれこそ中国が「歴史認識問題」を強調して韓国に「反日共闘」を持ちかけた狙いであるが、米中対立の狭間で大変なジレンマを抱えてこれからも苦しんでいくのは韓国の方である。「歴史問題」で反日姿勢を貫いている結果、彼らは結局、利用されるのを知りながらもアジア唯一の「反日友達」である中国と手を組むのだが、それによって韓国の国益に資することは何もないことを、彼ら自身も分かっているはずである。

 中国と組んで反日を叫べば叫ぶほど、自らの同盟国であるアメリカのアジア戦略との乖離がますます大きくなり、下手をすると米韓関係にも大きな隙間が生じる恐れがある。だが、他ならぬ韓国自身が北朝鮮からの脅威に日々晒されている中で、米国との同盟関係の動揺は当然北朝鮮をますます増長させ、韓国をよりいっそう危険な立場に立たせることとなる。

韓国が選ぶべき「正しい道」

 結局いずれは、韓国はどちら側に立つかという究極の選択を迫られることとなろうが、その時の韓国の政治指導者がもし賢明であれば、韓国にとって唯一の正しい道を選ぶことになろう。正しい道とはすなわち、中国との経済的交流を含めた「友好関係」を維持していきながらも、中国との「反日共闘」からだけは何としても脱することである。あやふやな「反日共闘」は中国の覇権主義戦略に利するだけのものであって、韓国にとって百害あって一利もない代物であるからである。

 そこから脱した上で、同盟国として米国のアジア戦略に寄与しながら、同じ米国の同盟国である日本とも安定した関係を築いていくことは結局、韓国の安全保障のためにもなり、東アジアにおける韓国の地位上昇に繋がるはずである。

 今の朴大統領にこのような賢明さを求めるのは難しいかもしれないが、いずれ政権が変われば、韓国は無難にして現実的な外交路線に戻ることはあり得る。そしてその時、中国が苦心して構築しようとする「反日共闘」というものは、まさに砂上の楼閣が波に洗われるか如く、跡形もなく消えてしまうのであろう。


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