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中国公安省は現在、英製薬大手グラクソスミスクライン(GSK)による数十億元(数百億円)に上るとみられる中国の医療関係者や政府関係部門などに対する贈賄事件の捜査を進めてる。報道によるとGSKは、海外での学術会議や研修を手配する旅行代理店に費用を大幅に水増し請求させて、実際の支払額との差を贈賄の原資にした。
地方政府などと関係の深い中国の病院向け販路拡大や、高額な薬品納入のため幹部に賄(わい)賂(ろ)として現金などを贈ったり、病院関係者を海外への豪華旅行に招待するなどの手口を駆使していたようだ。過去にも独シーメンスが医療機器や電力設備、地下鉄工事などで海外経由で巨額の賄賂を贈って受注にこぎつけた事件などが発覚しているが、習指導部体制となってから、捜査は一段と厳しくなってきた。
日本企業も中国の公務員への贈賄事件で日本国内で摘発を受けている。自動車部品大手の元専務が不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)罪で愛知県で起訴され、有罪となった。中国の同社工場で発覚したという違法操業の処分を軽くしてもらうため、広東省政府幹部に香港ドルの現金を渡したという。元専務は10年ほど前から贈賄工作として、合計数千万円の利益供与を行ったとみられている。
■「ギフト」なら慣習
この元専務は取り調べに「賄賂は(中国では)挨拶(あいさつ)代わりだった」と語ったという。中国ビジネスの現場では、認可権をもつ地方政府の幹部や影響力のある党幹部への「ギフト」が慣習として存在することを如実に示している。中国の普遍的な道徳意識に反しておらず、一定額以下なら違法性もないと堂々と語る中国人弁護士もいる。
ただ、上海の経営コンサルティング会社、TNCソリューションズの呉明憲社長は、「外資系企業からみて、どこまでが慣習に基づく『ギフト』で、どこから違法な『賄賂』なのかあいまいだ」と警告する。中国で捜査対象となった場合、中国の司法当局は違法な賄賂と判断する線引きを、状況に応じて恣意的に決められるからだという。
自動車部品大手の元専務の場合、中国で“ギフト”をめぐる感覚が麻痺し、日本の法令違反を犯したことに頭が回らなかったのか、あるいは10年前からの習慣として“ギフト”を贈り続けた結果、時代の順法意識とズレが生じたのかもしれない。
巧妙な手口も横行
過去には贈賄事件の立件基準として、個人への贈賄額は1万元(約16万5000円)以上、組織単位では10万元以上という見方が出回ったことがある。だからといって「ギフト」の額が数千元なら“合法”かというと、それも状況次第で線引きははっきりしない。公務員や国有企業以外の民間取引でも商業賄賂が問題視されるが、外資系企業のビジネスマンは現場で、社内のコンプライアンス(法令順守)に加え、中国の法令のあいまいさに振り回されることになる。
もちろん賄賂の手口は現金とはかぎらない。換金可能なプリペイドカードを渡したり、豪華な海外旅行に家族そろって招待したりすることもある。見かけ上は旅行代金を徴収するが、実際は、その代金をはるかに上回るツアーに招く。外資系企業がターゲットとする発注元組織が主催するフォーラムや研究活動への賛助なども考えられる。
さらに中国では幹部の子女の海外留学を手配したり、その子女を卒業後に海外で高級管理職などとして好待遇で採用したりする手口も横行している。子弟を海外に送り出し、あわよくば海外の国籍や永住権を取らせたいと考える中国人幹部の心理をついた巧妙な手口といえる。
これまで暗黙の了解の下で行われてきたギフトやさまざまな便宜供与。習指導部は今後どこまでメスを入れるのか。何が違法で何がセーフなのか。コンプライアンスにとりわけ敏感な日本企業も、中国で一段と注意を払う必要がありそうだ