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兵長の捜索中、警戒に当たる韓国軍兵士。幼さが残る=22日(AP)
「いたずらでカエルは死ぬ」22歳が募らせた恨み
「いたずらで投げた石に当たってカエルは死んでしまう。虫を踏めばどれだけ痛いか」「誰もが自分のようならつらいだろう」
複数の韓国紙によると、事件を起こした兵長は23日午後、逃げ込んだ山中を兵士が取り囲み、父親(64)らが「お願いだ。自首しろ」と投降を呼び掛ける中、ペンと紙を要求。こう“遺書”を記すと、小銃で自らの左胸上部を撃って自殺を図った。
カエルや虫に自分をなぞらえ、部隊内での苦境や同僚らへの恨みを吐露した可能性がある。
投降の勧めに「俺は大変なことをしでかした。投降したら死刑になるんじゃないか」とも口走っていたという。
兵長は病院に運ばれ、緊急手術で一命は取り留めたが、「思い出せない」と話すだけで動機などの供述を拒んでいるという。
「忘れ物を取りにいってくる」
兵長はこういって同僚らから少し離れると、突然、手榴弾(しゅりゅうだん)を投げ付け、小銃を発砲。5人が死亡し、7人が負傷した。やみくもに撃ったのではなく、逃げる兵士に照準を合わせて狙撃したとみられ、計画性も指摘されている。
“影武者”で報道陣撹乱、住民ら置き去り
軍の不手際も次々明るみに出た。
負傷者らに気を取られ、兵長を取り逃がしただけでなく、最高レベルの非常態勢「珍島(チンド)犬1」を発令したのは、逃走から約2時間後。連携すべき警察にも伝えず、警察はテレビニュースで事態を知ったという。
翌22日午後に約10キロ離れた林の中で兵長を発見。銃撃戦となり、将校1人が負傷したが、他の兵士らが見捨てて退避したとの目撃証言もあった。捜索部隊の一部には小銃だけを持たせ、実弾を支給しなかったともいわれる。
付近の住民らを小学校に避難させたのは、事件発生から1日たった22日夕になってから。23日朝には、兵長を包囲していたところから遠く離れた場所で、部隊員同士の誤射でさらに1人が負傷した。
兵長を病院に搬送する際、全身を毛布にくるんだ代役を仕立て、この代役を報道陣が待ち構える病院正面から搬送しているすきにひそかに兵長を運び入れた。
国防省は「病院側から要請された」と主張。病院が否定すると、搬送業者から頼まれたと説明を変えたが、業者からも要請がなかったことが分かり、メディアの怒りの火に油を注いだ。
昨秋まで特別管理対象、高校時代からいじめ
事件後、最も問題視されたのは、兵長が昨年11月まで軍生活に適応できず、事件や自殺を起こす恐れがある「関心兵士」のうち、特別管理対象となるA級の判定を受けていたことだ。A級は前線には配置されない。
11月の検査でやや改善したとして、重点管理対象のB級とみなされ、前線に投入されていた。
家族ら関係者がメディアに語ったところによると、兵長は小さいころからインターネットに没頭し、内向的な性格もあって高校時代にも対人関係をうまく築けず、いじめに苦しんで中退。高校卒業程度認定試験を受け、大学に進学したが、ほとんど出席しなかったという。
3カ月後には除隊を控えていたにもかかわらず、乱射事件に走った背景には、相当の鬱屈(うっくつ)した感情があったとみられる。
国防相を兼務する金寛鎮(キム・グァンジン)国家安保室長は25日、国会国防委員会で、事件について「軍隊内に集団いじめが存在することを示すものだ」と述べた。
人事空転、セウォル号の二の舞
2005年にも京畿(キョンギ)道の前線部隊で兵士が銃を乱射し、8人が死亡。11年には、北西部の江華島(カンファド)の海兵隊施設で兵士が乱射事件を起こし、上官4人が死亡した。
ただ、この2件は軍施設外まで影響が及ぶことはなく、今回の深刻さが浮き上がる。
ただ、今回、事件を起こした兵長だけが特別な境遇に置かれているわけでもない
国防省によると、兵長が所属した22師団では、約800人が「関心兵士」としてA、B級判定を受けていた。主に新兵が対象のC級(基本管理対象)を合わせると、部隊の約2割が関心兵士に分類されていた。陸軍全体でもおおむねこの割合だという。
背景に、少子化による兵力不足が指摘されている。一人っ子が多くなり、集団生活になじみにくい世代が増えていることもあるようだ。
左派の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代に兵役期間が24カ月から18カ月に短縮された影響も指摘される。その後、21カ月までやや戻されたが、兵力は減少の一途だ。
特に22師団は対北前線に加え、長大な日本海沿岸も受け持たなければならず、他の部隊に比べ、負担が大きかったともいわれる。12年には、鉄柵を切断して越境した北朝鮮兵士が自ら師団の兵舎の扉をノックして亡命を求めるまで気づかないという不祥事も起きた。
しかも今回の事件は、旅客船セウォル号沈没事故以降の政権人事の空転により、新国防相が未承認で、前国防相が安保室長と兼務するトップの「空白」時に発生した。朴槿恵大統領自身、中央アジア歴訪を終え、機上にあり、事件報告が遅れた。それだけに対応のまずさが相次ぎ露呈した「セウォル号事故の二の舞だ」との非難が噴出した。
かといって「関心兵士」の処遇問題を即座に解決する妙案があるわけでもなく、関心兵士という「いつ爆発するかわからない時限爆弾を抱えている」と悲嘆する声も上がっている