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14.4兆ウォン超もの“損失”
9月1日に発表された現代、起亜、韓国GM、双竜、ルノーサムスンの5社の8月の韓国内を含む世界販売台数は、前年同月比で7・3%減の63万8000台にとどまった。聯合ニュースなど現地メディアが報じた。
国内販売は前年同月比3・9%減、輸出は8・0%減といずれもマイナスで、「8月の休みシーズンや労組の時限ストの影響で、内需と輸出で両方が振るわなかった」(自動車業界関係者)ためとみられている。
韓国経済の屋台骨を支える自動車業界だけに、ストは経済活動に陰を落とす。
現代自動車労組は賃金交渉で、前年純利益の30%の成果給支給、基本給引き上げ、定年の追加延長、解雇者の復職などを要求していたという。
年次賃金交渉の決裂を受けて現代自動車労組が22日に突入したストで、損失は400億ウォンにのぼるとの試算を東亜日報(電子版)は伝えた。
さらに中央日報(電子版)によると、現代自労組が8月28日に行ったストは前週末の4時間から12時間に増やされ、正規勤務17時間中、工場稼働は5時間のみ。これに伴う支障は、1100億ウォンにもなる。
現代自では労組設立以来、27年間のうちで4年間以外は毎年ストが行われ、すでに総額14兆4000億ウォン相当の生産に影響が出ているとロイター通信は報じている。
現代自の社員の平均年収(生産職)は1億ウォン(2012年)を超え、韓国トップクラスにある。
ストで支障は「韓国」と「南アフリカ」だけ?
日本では、消費税増税前の駆け込み購入の反動減で自動車販売が減速しているが、労働争議の影響が自動車の販売統計にまであらわれるような事態はここ30年はない。韓国ではストライキは日本で考えられないほど、たやすく実施され、またそれが慣例化しているのだ。
「“貴族労組”“彼らだけのリーグ”という周辺の冷笑と非難を受けている」
中央日報は、現代自の尹甲漢社長は、毎年の労使紛争にこう苦言を呈し、談話を通じて、「いつまで最大成果(報酬)ばかり要求し、社会的批判を自ら招くのか」とのコメントを出したと報じた。
毎日経済新聞(電子版)も世界的な新車需要拡大で、主要メーカーが工場をフル稼働する中、「韓国と南アフリカ共和国のみ労組ストによる生産支障で疲弊している」と指摘。自動車メーカーが、海外に生産のウエイトを移す“脱韓国”の動きを加速させる一因になっているとの見方は強い。
2008年に現代自の海外生産比率は約40%だったが、昨年は約60%にまで上昇。証券アナリストの意見を引用して中央日報は、「慢性的ストが海外基地建設の口実を作り、生産構造を変えた」と報じた。
大企業に集中する「富」、ストに理解も
とはいえストが、韓国内で一定の理解を得られてきたのも事実だ。その背景には、財閥系など一部大企業への富の偏在に対する不満がある。
ハンギョレ新聞(電子版)が報じた国会の報告書「韓国の家計・企業所得現況及び国際比較」によれば、1995年から2012年までの18年間で、国民総所得(GNI)に家計部門所得が占める比率は70・6%から62・3%と8・8ポイント下落。一方で企業所得の比率は6・6ポイント上昇し、23・3%にまで高まった。原因としては、自営業者の没落のほか、2000年代に入って急増した家計負債(借金)による所得低下があげられている。韓国では、李明博前政権時代の2008年に法人税を25%から22%に軽減されたが、それの恩恵は企業にとどまり韓国内に還流していないとの見方も強い。
現代自動車は、サムスン電子と並ぶ韓国経済のリード役だが、その半面、批判の的にさらされやすい宿命にある。
「蜜月中国」でもシェアは「中欧日米」の次
現代自の先行きにとって、足元での最大の課題はウォン高への対策だ。
聯合ニュースによると、現代自グループ傘下の自動車産業研究所の報告では、ドル=ウォンの為替相場が1ドルあたり10ウォン高になれば、韓国自動車産業の売上高は4200億ウォン減るとの試算がある。
報告書は、円安で勢いづく日本メーカーと生産力の高いドイツメーカーの攻勢が続く中、韓国メーカーの競争力低下を懸念。技術開発と新市場の開拓を提言した。
だが、実現はそうたやすくはない。
朴槿恵政権との蜜月ぶりが際立つ中国は、世界最大の自動車市場に成長している。
ここでの2013年の韓国車のシェアは2・3ポイント上昇し8・8%に高まったが、欧州メーカー(22%)、米国メーカー(12%)に比べてなお差が大きい。尖閣諸島(沖縄県石垣市)沖での中国漁船による不法侵入で日中関係は冷え込んでいたが、実はそれでも日本勢のシェアは16%を確保。日本車への信頼感の根強さを浮き彫りにした。
中国市場では、最大の勢力である中国メーカー系とブランド力を持つ日米欧勢のはざまで、現代自は何を強みに勝負をするのか。製品の価格優位が低下する中、売上アップを狙った販売奨励金頼みの戦術では、成長は望めない。
生産性向上のため従業員を締め上げるのか、あるいは脱韓国を進めるのか、他国メーカーを凌ぐ画期的な低燃費車を開発するのか、どれもただならぬ困難を伴うのは確かだ。