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PM2.5が米国レーザー兵器には恰好の防御」 中国国防大教授のトンデモ発言でネット炎上

中国軍の著名な教授がトンデモ発言をしてネットが炎上している。中国国防大学の張召忠教授がテレビの解説番組で「米国のレーザー兵器に対しPM2.5は恰好の防御になる」と発言したのである。
「濃霧があれば射程はたった1キロ」

 共産党機関紙『人民日報』系統の『環球時報』サイト『環球網』は早速、この発言を取り上げて淡々と報道した。とはいえ、教授の無神経な発言への抗議の意味もあったのだろう、「米のレーザー兵器は濃霧を恐れる 高濃度PM2.5を撃ち抜くことはできない」と題してテレビ画像のテロップ付き写真を掲載する形で張教授を晒し者にしている。

 さらにサイトにはコメントが残せるようになっており、サイトにこの記事が載せられてから15時間ほどで千件近くのコメントが寄せられ(現在、コメント欄は消去されていて見られない)、別のサイトの動画はわずか5日の間に73万回も再生されるほどの反響を引き起こした。また内容評価は212票の「ウレシ~(喜悦)」というものもあったが、「お笑いだね~(可笑)」が1200票とダントツトップだった。

 以下ではテレビのコメントを再現する形でこの記事を紹介しよう。

* * *

【2014年2月22日『環球網』(抄訳)】

 張召忠教授が中央テレビの番組「海峡両岸」(中国と台湾の問題を扱う解説番組:筆者)で濃霧(原文では「霧霾」、もやという意:筆者)が米国のレーザー兵器に対して恰好の防御となると述べた。張教授の分析によると、米軍のレーザー兵器は劣勢にあるという。濃霧がなければレーザー兵器は射程10キロにもなるが、濃霧があればたった1キロなのだという。こんな兵器が使い物になるのだろうか、と張教授は言う。

(以下、張教授の発言)

 レーザー兵器にも弱点もあります。濃霧すなわちレーザー兵器への恰好の防御であり、レーザー兵器が最も恐れるのが濃霧です。濃霧がなにか、その構成をみると細かい金属粒子があり、この金属微粒子が空気中を漂っていれば、レーザー光線を撃ち抜けるでしょうか?

 PM2.5が400、500、600(マイクログラム)になった時、レーザー防御力が最大になり突き抜くことはできないでしょう。濃霧がない天気ではレーザー兵器の射程は10キロですが、濃霧があるとそれが1キロまで下がります。こうした兵器が使い物になるのでしょうか?

 天気に依拠して、天気が悪いからと言って今日は休む、としていたら使い物なるでしょうか。こうした法則を把握してしまったら、相手は終わりです。これは致命的な弱点なのです。

 もう一つの弱点ですが、初のレーザー砲を駆逐艦に設置するとしても、海上はもともと濃霧が大変です。海辺に家を買うと海に近すぎるため数日ですぐにさびてしまいます。飛行機を甲板に出して倉庫に格納しないと数日でさびてしまう。

 とても濃い塩霧が出たらレーザーの阻止する力が大きい。霧が出ないように浪をなくすことなどできないのですから。

* * *

【解説】

 テレビによく登場して軍事問題を解説する張召忠教授がこんなトンデモ発言をするなんて信じられない、と動画を見たらそのまま発言していたのでかなり衝撃的だった。反響が大きかったのでサイト記事の下に書き込まれたコメントからネットユーザーたちの声を少し紹介したい。

 「張将軍の口からまたでまかせだよ。解放軍が濃霧戦術を使ったなら米軍は攻撃してくる必要がないね。中国では毎年濃霧で死者が出て、数十万から千万人もが病を患っている。遺伝変化も起きて奇形児も生まれている。結果的に中国人が自分で自分の首を絞めているよ。張将軍、口を慎んでほしいな」

 「レーザー光線が撃ち抜けなくても その前に自分が死んじゃうよ」

 「アメリカがスーパー兵器のレーザー光線があっても恐れることはない。何せ中国にはもっと独特の兵器、PM2.5があるから」

北京は「人類が居住するのに適さない程度に近づきつつある」

 実はPM2.5が外国からの攻撃を難しくしている、というようなトンデモ論は前にも出たことがあり、日本でも紹介されたが、削除された経緯があった。ところが今回は有名教授がしっかりとテレビでコメントし、記事で発言が紹介されるという顛末になっている。

 皮肉なことに張教授がテレビでPM2.5について云々言っているまさにそのとき、北京の大気汚染は深刻な状況になっていた。北京市は大気汚染対策特別室(北京市空気重汚染応急指揮部弁公室)を昨年11月に立ち上げたが、2月21日に三級警報を出した。警報は出された当初、四段階(下から青、黄色、オレンジ、赤の順)で下から二番目の黄色(三級警報)だったが翌日には一段引き上げられ、オレンジ(二級)になった。オレンジはもちろん、黄色警報が出されたのもこの特別対策室の立ち上げ以来初だった。(1月に青色警報は発令されている)

 習近平国家主席は2月25日昼前に、まさにこのような天気の中でマスクを着けずに北京市内を散策して市民と交流し、民衆との近さをアピールした。

 政府系シンクタンク、中国社会科学院がこのほど出した『国際都市青書(2014)』は世界の40の都市のうち北京を38位に位置づけ、汚染の程度は既に「人類が居住するのに適さない程度に近づきつつある」と警告しているほどだ。もし張将軍の言うようにPM2.5が国防の役に立つならそのまま都市を覆い尽くせば中国の国防は安泰だということになるのか。人が住めない場所で国防云々とは本末転倒ではないか。

釈明に躍起になる張教授

 実は彼は国防の兵器導入においてその技術評価を受け持つ委員のような仕事に長年携わっており、今回の発言は兵器の技術的効能からするとレーザー光線が濃霧に弱いという原理を述べたのに過ぎないことは理解できる。

 しかし、多くの市民が病気を患い、寿命を締めている現実の前に兵器機能を云々したところで何のための国防なのか、という大前提を考慮せずに発言した無神経さが中国人にとっても腹に据えかねるものだったようだ。

 反響があまりに大きかったこともあってか張教授は自分の発言の真意が誤解を受けた、と釈明に躍起だ。北京青年報紙が23日に行ったインタビューで張教授は「濃霧を肯定しているわけではない」と訴えた。テレビでは20分の解説番組だったのにPM2.5に言及した2分間の部分だけが取り上げられ、揚げ足を取られているというわけだ。そしてPM2.5の問題そのものについては素人なのでよく分からない、と言い訳している。

 軍人である張教授の言い訳がどのようなものであれ、市民の健康、生命に重大な影響を及ぼす大気汚染を問題として取り上げずに新型兵器と関連付けて技術的原理ばかりを論じたのは配慮を欠いたものだった。

 中国の指導者や軍人、そして国際政治学者などの専門家たちは常日頃から政治を論じる際には大戦略、地政学、外交・世界戦略など大きなことを論じ、環境汚染や貧富の格差等には関心が向かない。実際には市民生活に重大な影響を及ぼすPM2.5の問題は単なる市民生活に止まらない国の行く末を左右する国家安全保障における喫緊の課題になっているということに気づいていないかのようである。張教授の発言が引き起こしたちょっとした議論は中国社会全体に広がる夜郎自大(やろうじだい:自分の身の程をわきまえず、自己中心的に大きさを誇示する考え)的考えを露呈したといえよう

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