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文在寅が政権について以降、慰安婦合意破棄、徴用工判決、レーダー照射問題など日韓関係の亀裂が徐々に深まりつつあったこの夏、日本政府により戦略物資輸出管理強化の方針が発表されると、お互いへの反感、そして不信感のボルテージは最高潮に達した。
韓国国民は極端な日本製品不買運動、日本旅行自制キャンペーンといった「日本ボイコット」により日本に打撃を与えていると悦に入っているが、これらの行為は同時に、韓国の旅行会社、LCC等、多くの韓国企業に深刻な打撃を与えている。人員削減、無給休暇の実施などを避けることができず「非常事態宣言」をする企業も1つや2つではない。より深い傷を負っているのはどちらかという問題については意見が割れるところであるが、多かれ少なかれ両国にとってマイナスの影響が出ているという点については誰もが認めるところだろう。
そうこうしているうちに新たな(?)問題が浮上した。2020年東京パラリンピックのメダルのデザイン対する韓国側からのクレームだ。メダルのデザインが日本バッシングの常連、「旭日旗」と類似しているという。しかも今回は単純な非難声明だけにとどまらず、国際パラリンピック委員会(IPC)に正式に異議を申し立てるなど、祝宴に水を差すような行為に出た。
韓国は太平洋戦争において軍旗として使用されていた旭日旗は国粋主義の象徴だと主張し、日本は太平洋戦争以前から大漁旗など様々な場面で使われてきた日本固有のモチーフの中の一つであり、韓国以外にはどの国からもクレームは上がっていないという点を指摘し、韓国の過剰反応に対し不快感を表している。このパターンはここ数年治まったかと思えば爆発する、日韓葛藤の「お約束」となっているのだが、私にはこれが一つの「韓流ドラマ」のように思えてならない。
日本国内にも多くのファンを持つ韓国ドラマを見ていると、背景や設定、人物関係など「定番」ともいえるほど同じようなストーリーが少なくないと感じている人もいることだろう。例えば、
― 貧しいが心優しい女主人公 vs 女主人公に嫉妬する性格の悪い金持ちの娘 という構造
― 父母兄弟だと思っていた人が実は他人だったという設定
― 卑劣な人はいつでも金持ち
というパターンだ。
そしてもう一つよくあるパターンが「記憶喪失になった主人公」だ。記憶を失ったまま生活を続けていたある日、記憶を失う前に心から愛していた人に出会ったが気づかずにすれ違ってしまったとか、記憶を取り戻してみると自分は財閥の息子だったとか、そういうストーリーだ。実際、韓国内でも「またこのパターン?」といった声が上がるほどに頻繁に登場する設定だが、最近の旭日旗騒動をみるとこれらの「韓流ドラマ」を連想してしまう。
旭日旗に対し韓国から批判、反発の声が上がるようになったのは戦後60年余りが過ぎた2010年前後のことだ。日本統治時代を生きた多くの韓国人は終戦後60年余りの間、旭日旗を見ても、現在の韓国社会が示すような極端な反応を示すことはなかった。彼らは35年間の日本統治時代を経験する中で、街中で、戦場で数えきれないほどの旭日旗を毎日のように目にしながら生きてきたというのに。
もちろん、中には日章旗や旭日旗をみる度に、嫌な記憶を連想してしまうという人も、それで不快に感じる人もいたことだろう。だが、現在の韓国人――旭日旗自体ではなく、旭日旗にほんの少し似た模様を見ただけでも腹を立て、クレームを入れる韓国人――とは異なり、日本統治時代の経験者たちは激しい反応を示すことはなかった。
今、旭日旗に対し憤り、反発する韓国人たちの大部分は戦後世代の人たちだ。つまり、韓国社会は60年余りの間、旭日旗の存在さえも忘れて生きてきたのに、ある日突然外部からの刺激によって記憶を取り戻したのだ。まるで韓国ドラマの主人公のように。
慰安婦の存在は当事者のプライバシー、周りからの配慮もあって韓国内で大きな話題にはなり難かったのかもしれない。しかし、慰安婦問題と違って旭日旗に対する批判は配慮も、遠慮も必要なかった話だ。なぜ韓国社会は60年間も黙っていただろうか。
記憶喪失以外に60年にも及ぶ空白を説明できる方法があるだろうか。旭日旗に反対する韓国マスコミや市民運動家たちは多いが、私はこれまでこの60年間の空白に対する説得力のある説明をきいたことがない。しかし、ドラマなら、そして現実性には欠けるが記憶喪失という設定なら、なんとなく頷ける。
「記憶喪失」という素材が頻繁に登場する韓流ドラマであるが、結末にもやはりパターンがある。たいていの場合記憶が戻り、過去の記憶と現在の記憶が共存するようになる。そして理由の分からなかった自身の習性や身体的特徴の由来が明らかになったり、過去と現在の記憶を「繋ぐ」ことによってストーリーの中核を担っていた謎が解明され、理不尽な現在の状況についての回答を得る、というのが定番だ。
私が韓国に期待するのは、「韓流ドラマ」ならば「韓流ドラマ」らしいハッピーエンドを見せてほしい、ということだ。現在だけを頑なに肯定するのではなく、過去にはなぜ旭日旗に対する反発がなかったのか? 日本統治時代を経験した韓国人たちはなぜ60年余りもの間、旭日旗について批判の声をあげなかったのだろうか? 批判の声をあげなかった過去と、現在を「繋いでみる」ことで現在の韓国社会にある「謎」は解けるはずだ。
そうなれば恐らく、実は旭日旗に対する拒否感は60年ぶりに唐突に思い出した過去ではなく、2010年前後から流行し始めた「新型ウイルス」により現れた「幻想」に過ぎないという事実に行き着くだろう。それにその「新型ウイルス」は偶然感染したのではなく、誰かの悪意によって拡大、拡散したということにも気付くようになるだろう。
私はこのような話を7、8年前に韓国メディアでも述べたことがあるが、私の力不足のせいかあまり共感を得ることができなかった。しかし、最近になってやっと韓国内でも旭日旗への過剰反応を批判する声が聞こえるようになった。記憶喪失ではなく新型ウイルスであることに気付いた人たちが少しずつ増えてきたのだ。
近年では日本国内から「韓国がそんなに嫌がっているのだから自制するほうがいいのでは」という「自粛論」も聞こえてくる。主に韓国シンパの知識人や言論からの意見だが、彼らは単に「新型ウイルス」によって発生した幻覚症状を、自分たちが大好きな韓流ドラマ風に演出するため、強引に「記憶喪失症」にしたいだけではないだろうか。しかし、ありがちなそのパターン、もうそろそろ変えてみませんか?