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日本の排他的経済水域(EEZ)内にある日本海の好漁場・大和堆(たい)周辺で、水産庁の漁業取締船と、違法操業していた北朝鮮の大型漁船が衝突・沈没した事件が注目されている。与野党から、漁船の乗組員を事情聴取しないまま別の北朝鮮漁船に移した対応に批判が出ているが、漁業取締船が置かれた過酷な現実を知っているのか。かつて取締船に乗船経験のある関係者が語った。
「水産庁の取締船の多くが、民間から借り上げた傭船(ようせん)だ。乗組員も民間人が多く、とても北朝鮮漁船に対応できない」
日本海で数年前、漁業取締船に乗船した経験のある男性はこう語った。
水産庁によると、日本には計44隻の漁業取締船が任務に就くが、官船は7隻とわずかだ。官船でも通訳は民間人が多く、最大の問題は“武装”が前甲板にある放水銃1つしかないことだ。
男性は「取締船に乗る漁業監督官には捜査・逮捕権があるが、取締船の武装や武器の携行が認められていない。漁船への立入検査の際に特殊警棒を持つ人もいるが、ほとんどが丸腰だ。防具は防刃性能がある救命胴衣だけ。銃で撃たれたら即死だ」と明かす。
漁業取締船は、EEZや日本の領海付近で操業する外国漁船に対し、小型の高速艇を使って立入検査し、違法操業や規定以上の漁獲物があると拿捕(だほ)する権限を持つ。だが、水産庁が2018年に拿捕した外国船は韓国5隻、ロシア1隻と少ない。
「違法操業をもくろむ外国漁船は高性能レーダーでこちら(取締船)を察知し、かなり早い段階で逃げ出す。取締船は、EEZで突破されそうな境界を延々と往復し、相手レーダーに船影を見せるのが最大の任務だ。こうすることで外国漁船が越境しにくくなる」
つまり、レーダー上での神経戦が主戦場なのだ。
だが、国交がない北朝鮮の漁船は堂々と越境し、違法操業を繰り返す。8月には軍所属とみられる高速艇が取締船に小銃を向けるという危険な事案も発生した。
「漁業取締船は軍艦ではないので防弾性能がない。今後、取締船が沈められたり、けがをする危険がある」「表向きは海上保安庁や海上自衛隊と連携していることになっているが、実際には近くに全然いない。余程のことがないと連絡も取らない。船長が『海保は、沖縄県・尖閣諸島に船を取られているので、日本海は水産庁でやるしかないんだ』とボヤいていた」
軍傘下にある可能性が高く、武装した北朝鮮の漁船に対し、放水銃1本で対峙(たいじ)しているのが現状だという。「海の権益」を守る防人としては、あまりに無防備な実態ではないか。
与野党の国会議員は口先で批判する前に、こうした過酷な現実に目を向けて、法律や装備の整備を進める責任がある。