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米大統領選の混乱が続くなか、習近平国家主席率いる中国共産党政権が攻勢を仕掛けている。香港で民主活動家らを逮捕しただけでなく、中国軍機による、台湾の領空や防空識別圏への侵入を繰り返し、沖縄県・尖閣諸島周辺海域にも武装公船などを連日侵入させている。習氏は先月、台湾や尖閣侵攻の主力部隊とされる、広東省の海軍陸戦隊(海兵隊)を視察した際、「全身全霊で戦争に備えよ」と指示した。元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は集中連載「米中新冷戦」で、軍事的覇権拡大を続ける中国の危険な動きに迫った。
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最近、米大統領選の混乱に乗じた、中国の台湾併合に向けた行動(=軍事行動を含む)を懸念する専門家が増えている。
例えば、台湾の呉ショウ燮外交部長(外相に相当)は2日、「米大統領選後の混乱に乗じて、中国が軍を用いて台湾に対する作戦を活発させる恐れがある」と発言している。
世界的に著名な英国人コラムニスト、ギデオン・ラックマン氏も英紙フィナンシャル・タイムズで、「米国は今、大統領選をめぐって国の分断がかつてなく深まり、全く余裕を失っている。台湾支配の機会を狙う中国政府は、米大統領選の投票日以降こそ、行動をとるチャンスとみるかもしれない」と警告している。
米中新冷戦を背景として、習政権の戦争をも辞さない危険な動きについて、以下に列挙する。
1)米政府要人の台湾訪問に伴う軍事挑発。
人民解放軍(=解放軍)航空機による台湾空域への侵入、中国周辺海域での頻繁な軍事演習、台北を模擬した市街地への攻撃訓練が行われている。そして、習氏自身が10月13日、海軍陸戦隊の司令部を訪問し、「全身全霊で戦争に備え、高レベルの警戒態勢を維持しなければいけない」と激しい檄を飛ばしている。これら一連の軍事関連の行動には、中国の台湾併合に向けた強い決意を見て取ることができる。
(2)国防動員を含む国防法改正草案の発表。
中国の全国人民代表大会(全人代)は10月21日、国防法改正草案を発表した。この草案には「国防動員と戦争状態」を規定する「中国の主権、統一、領土保全、安全保障と発展の利益が脅威にさらされた場合、国家は全国的または地方の国防動員を行う」という条文が盛り込まれている。これは、米国との軍事衝突を想定して作成された可能性がある。
(3)戦争を前提とした「建軍100年奮闘目標」の設定。
解放軍の最近の増強には目覚ましいものがある。背景には、解放軍の「3段階発展戦略」がある。第1段階は、「共産党建党100年」(2021年)までに「軍の機械化と情報化の実現」。第2段階は、35年までに「国防と軍の現代化の実現」。第3段階は、「建国100年」(49年)までに「世界一流の軍隊の実現」だ。
以上の目標を達成するために、習氏は15年末から解放軍の大改革を開始した。改革の目的は「戦って勝つ」解放軍の実現であり、第1段階の改革に相当する。
改革の目玉は、陸・海・空軍の統合軍である5個の「戦区」を新編したことだ。この改革により東部戦区が編成され、台湾や日本の尖閣諸島を攻撃する統合演習を実施し、その能力を向上させている。
◆難局を乗り切る国家態勢構築を
さらに、10月末に開催された共産党の重要会議「五中全会」では、「解放軍の建軍100年」(27年)の奮闘目標が新たに付加された。コミュニケでは「全面的に戦争に備え…国家主権、安全、発展利益を防衛する戦略能力を高め、27年に建軍100年奮闘目標の実現を確実にする」と記述されている。
つまり、27年に解放軍を太平洋地域で作戦する米軍と同等のレベルの現代的な軍隊にするということであり、解放軍が台湾併合作戦を妨害する米軍に対抗する軍隊になることを要求している。
特に、中国海軍は少なくとも3個の空母機動グループを準備するという。この新たな目標は、従来の35年や49年の目標を前倒しで実施しろということだ。周辺諸国にとっては迷惑な話である。
(4)自衛隊・台湾軍を凌駕する解放軍。
拙著『自衛隊は人民解放軍に敗北する!?』(扶桑社新書)で詳細に分析しているが、解放軍は、陸・海・空軍、核ミサイル戦力、宇宙戦能力、サイバー戦能力など多くの分野で、自衛隊および台湾軍の能力を凌駕している。その自信が、中国当局を強気にさせている可能性がある。
菅義偉政権は、スピード重視で「携帯電話料金の値下げ」「行政のデジタル化」などを追求していて好感が持てる。しかし、「安倍路線の継承」を言いながら、目指すべき国家像が見えない。
わが国は、米中新冷戦の中で難しい立ち位置にある。「名誉ある独立国家」として存続するためには、憲法を改正して、国家ぐるみでこの難局を乗り切る態勢を構築すべきだ。
■渡部悦和(わたなべ よしかず)