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時代を見通す日本の基礎情報

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焼肉の街「大阪の韓国=鶴橋」に偽ブランド店が集中する“なぜ”…

焼肉の街「大阪の韓国=鶴橋」に偽ブランド店が集中する“なぜ”…戦後闇市の名残“店舗型”の強み、手口どんどん進化させ
写真は、キムチ販売店や衣料品店が並ぶ大阪・鶴橋商店街。日本語とハングルが飛び交い、異国情緒も味わえる人気観光スポットだ。だが、この写真とは別になぜか偽ブランド品を扱う店が集中するといい、警察の摘発も後を絶たない

写真は、キムチ販売店や衣料品店が並ぶ大阪・鶴橋商店街。日本語とハングルが飛び交い、異国情緒も味わえる人気観光スポットだ。だが、この写真とは別になぜか偽ブランド品を扱う店が集中するといい、警察の摘発も後を絶たない

JRと近鉄が乗り入れる鶴橋駅(大阪市天王寺区、生野区)に降り立つと、むせかえるような屋台のにおいが体中を包んだ。キムチ、チヂミ、チマチョゴリ…。人がやっとすれ違える程の狭い通路にさまざまな食品や衣料品、雑貨を売る店が立ち並び、人波の中では日本語と韓国語が飛び交う。通称「鶴橋商店街」。異国情緒ただようそこは、観光客にも人気のスポットだが、時として別の顔を見せる。やたらと偽ブランド品販売店が摘発されているのだ。大阪府警は2月、偽ブランド品を販売していた5店舗を一斉摘発したが、同商店街での摘発は過去5年間で68店舗。なぜこの地に偽物販売店が集うのか。その秘密にたどり着こうと、まずは“ブティック”との看板を掲げた店ののれんをくぐった。

姿見の奥に“謎”のショーケース

 「エルメスの長財布、あります?」

 こう尋ねると、女性店主が店の奥に手招きした。

 「エルメスはけっこうあるよ。人気だからね」

 脇に置いてあった姿見をおもむろにどけると、後ろからショーケースが現れた。中には十数点の財布が並んでいる。

 「これ、お客さんの雰囲気にとっても似合うよ。1万4千円」

 渡されたのは、エルメスの「ベアンスフレ」というシリーズの長財布。正規品なら約30万円。傷ひとつなく、素人目には偽物とはわからない。ただ、小銭を入れる部分のファスナーが少しひっかかる気がした。

 「ちょっと貸して」

 違和感を伝えると店主は財布を取り上げ、ファスナー部分に蝋(ろう)を少量こすりつけた。

 「ほら、滑りがよくなったでしょ。もう大丈夫」

 かなり強引だ。

 「持っていても偽物って分からない?」

 あえて問うてみた。

「わからないよ。『バーキン』なんて、みんなここで買っていくよ」

 バーキンもエルメスの高級バッグのシリーズ。棚に飾ってあった大きなトートバッグを下ろすと、その“バーキン”が、奥から姿を現した。スカイブルーが鮮やかな代物。

 「ほら、これすごくいい色でしょ」

 店内のあちこちに偽ブランド品が隠してあるのだろうか。

「コピー商品は一切置いていません」

 鶴橋商店街は、はっきりとした範囲は決まっていないが、駅周辺にある複数の商店街と市場を総称し、そう呼ばれている。大阪市生野区、東成区、天王寺区の3区にまたがる広範囲の商店街で、韓国系の飲食店や衣料品店など約800店舗がひしめく。

 観光客も多い人気スポットだが、この商店街が抱える大きな問題、それが偽ブランド品だ。

 大阪府警は今年2月の一斉摘発で、高級ブランド「ルイ・ヴィトン」の偽物を販売していたなどとして、韓国籍の店舗経営者ら男女9人を現行犯逮捕。店舗や倉庫から、グッチの偽財布やロレックスの偽時計など、計約1800点を押収した。だが、これは氷山の一角でしかない。

 昨年1年間、財布やバッグの高級ブランド「ボッテガ・ヴェネタ」や、若い女性に人気の「トリーバーチ」の偽物を扱っていたとして摘発された店舗は、鶴橋商店街だけで、計15店。平成21~25年の5年間でみると、実に68もの店舗が摘発されている。

 一説には「常時30店舗以上の偽ブランド品販売店が営業している」とささやかれ、それを裏付けるように「コピー商品は一切置いていません」とわざわざ張り紙をする店もある。

 鶴橋商店街の一つ、大阪鶴橋市場商店街振興組合の担当者は「商店街全体が違法行為をしているようにみられ、本当に迷惑している」と憤る。

注文と販売は別店舗

 こうした違法店舗のほとんどは「雑貨店」「ブティック」などと看板を掲げているが、摘発を逃れるため店頭には商品を並べず、普通の店ではあり得ない販売形態を取っているという

ひとつは、店舗内に偽ブランド品を隠している店。客の要求に応じて商品を出してくる。もうひとつは、注文受付店舗と販売店舗が分かれている店だ。受付店舗で客は、各ブランドが出している本物のカタログを見せられ、「この商品がほしい」と伝える。すると直近の別店舗に案内され、そこでカタログで示した正規品によく似た偽物を購入できるというものだ。最近ではこの店舗分離型が増えているという。

 とはいえ、店舗で偽ブランド品を販売するというやり口は珍しいようだ。

 偽ブランド品の排除に取り組む一般社団法人「ユニオン・デ・ファブリカン」(東京)の堤隆幸事務局長は「偽ブランド品販売の中心は今はインターネット。店舗で公然と売られているのは日本広しといえど鶴橋くらい」と話す。

 警察庁によると、偽ブランド品を販売したなどとして昨年摘発した事件は全国で241件(346人)。うち、通販サイトなどを利用したものは158件で、全体の65・5%を占めた。店舗型と異なり、場所を選ばない通販サイトは売り手にも買い手にも好都合だからなのだが、それでもなお、鶴橋には店舗が存在している。いったいなぜなのだろうか。

ネット社会に逆行の“強み”

 府警や商店街関係者などによると、鶴橋商店街は戦後まもなく、駅周辺に集まった露天商によって開かれた闇市が起源といわれている。古くから行商人が韓国や中国で仕入れた商品を売りに来る文化があったといい、いつしか、その商品の中に偽ブランド品が入るようになったという。

 かつては、偽ブランド品を日本に来る前に行商人がトランクに少量ずつに分けて機内に持ち込み、日本の税関を通った後で、1つにまとめて商店街内の各店舗に卸すという光景が見られた、と話す人もいる。

 その後、長年をかけて口コミなどで偽ブランド品販売店の評判は広がったとみられ、販売店舗が増加。「あそこに行けば買える」と、偽物であることを承知している買い物客が訪れるようになったという。

それでもこれだけ摘発が相次げば偽ブランド販売店はなくなりそうなものだが、そうでもないのはどうしてなのか。

 ある捜査関係者は「店は独立採算、現金主義。ネット通販と違い、注文履歴や振込口座から足が付かないのが、店と客双方にとって都合がいい」と分析する。

“ゆるい”大家の存在が

 一方、商店街関係者によると、店舗所有者が知ってか知らずか違法業者に場所を貸してしまうケースがあれば、店子(たなこ)に対する審査が甘いオーナーもいるという。こうした“ゆるいオーナー”の情報は、違法業者間で共有されているとみられている。

 「摘発後いったん店を閉めても、しばらくすれば同じような違法店が開店したり、同じ人物が屋号を替えて開店したりする」。捜査関係者は、事件はいたちごっこだと嘆く。

 冒頭で訪れたブティックとは別の衣料品店。グッチの財布を探しているとだけ告げると、女性店主は「最近警察も厳しいから全然入ってこんし、置いてないねん」と応じた。

 しばらく会話を続けていると、「どんなんが欲しいん?」とおもむろにカタログをめくりだした。しかし、警戒しているのだろうか、すぐにカタログを閉じて「まあ他の店いくつか回ってき。それでもなかったら…ここ戻ってきたらええわ」。

 「常時30店舗」という説は、あながち誇張ではないのかもしれない




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