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米国が中国との対決に本腰を入れ始めた。いまや貿易戦争から「国家の理念をかけた戦い」に突入しつつある。
それが明らかになったのは、米国防総省が6月1日に発表した「インド太平洋戦略報告」だった。2019年版と銘打っているが、こうした報告が出たのは初めてだ。中身を見れば、それもうなずける。「中国にどう対処するか」が、米国の安全保障にとって最重要課題になっているからだ。
米国は、中国をどう見ているのか。
報告は「自由vs抑圧」という、「世界秩序をめぐるビジョンの地政学的な戦い」こそが安全保障上の主要な懸念、と位置付けた。言うまでもなく、「抑圧勢力」は中国であり、「自由の守護神」が米国という認識である。
米国がこうした対立構図で特定国を位置付けるのは、米ソ冷戦以来だ。1947年、当時のハリー・S・トルーマン大統領は「ソ連は恐怖と圧政で成立している。米国は外圧による征服に抵抗する自由な諸国民を支援する」と演説して、ソ連との冷戦開始を宣言した。有名な「トルーマン・ドクトリン」である。
今回の報告はそれと同じ言葉遣いで、中国との戦いを定義した。いわば「トランプ・ドクトリン」と言ってもいい。これだけ見ても、米国が中国との戦いを「自由という国の理念をかけた新冷戦」と捉えていることが分かる。
こうした認識は、実は2017年12月にホワイトハウスが発表し、ドナルド・トランプ大統領が序文を書いた国家安全保障戦略にも、控えめながら登場していた。そこで、米国が直面している課題は「人間の尊厳と自由に価値を置く勢力と、個人を抑圧し画一主義を強制する勢力との根本的な対立」と記していたのだ。
トランプ政権は当初から、中国との対決を「自由を抑圧する勢力との不可避の戦い」とみて、周到に準備してきた。貿易戦争はあくまで国民の支持を得るための入り口にすぎず、戦いの核心は「自由か、それとも独裁者による抑圧か」だったのだ。
報告でもう1つ、注目されるのは、中国を名指しするのに「中国共産党が支配する中国」と注釈を付けている点だ。それは次の記述にも表れている。
「国民が自由市場や正義、法の支配を渇望しているにもかかわらず、中国共産党が支配する中国は、自国の利益をむさぼることによって、国際システムを傷つけると同時に、ルールに基づく秩序の価値や原則の数々を侵している」
ここでは、「善良な国民」と「悪玉の共産党」をはっきり区別している。トランプ政権が戦っているのは中国という国ではなく、共産党なのだ。
そんな中国にどう立ち向かうのか。
報告は、日本や韓国、オーストラリア、フィリピン、タイといった同盟国のほか、シンガポール、台湾、ニュージーランド、モンゴル、インドなど20カ国の名を挙げて、米国との連携強化をうたい上げた。一言で言えば「中国封じ込め」である。
米国は本気だ。日本も「貿易戦争でどうなる」などと「損得勘定」ばかりに走っていられない。国家戦略を根本から練り上げるときだ。