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道を歩いていただけで、30人以上の男たちに取り囲まれ、リンチされた記憶は消えない。「私は鼻にけがを負ったが逃げ延びられた。なぜ襲撃されたのかまったくわからなかった」。農業の男性、ラフィク・カーンさん(25)は2年前の出来事を振り返った。
インド西部ラジャスタン州で牛6頭を連れて歩いていたところ、突然「自警団」に襲われた。搾乳をするための雌牛を購入して、帰宅する途中だったという。一緒にいた商売仲間のペフル・カーンさん=当時(55)=が暴行を受けて死亡した。
自警団を構成するのは、インド人の約8割を占めるヒンズー教徒の中で思想を過激化させた者たちだ。自分たちが神聖視する牛を守るため、牛の取引業者や飼育農家に攻撃を加えている。被害者の多くは人口の14%のイスラム教徒だ。「ヒンズー教徒以外はインド人ではない」。ラフィクさんは自警団メンバーが叫んだ言葉が忘れられない。
2014年の前回総選挙で勝利し、与党となったインド人民党(BJP)はヒンズー至上主義を掲げ、モディ政権は食肉処理を目的とした家畜市場での牛の売買を禁止する法令を出した。BJPはヒンズー至上団体、民族義勇団(RSS)を支持母体とし、モディ首相も以前は、RSSの運動家だ。ヒンズー色の強い政策を取るのは予想されたことだが、過激な信者を拡大させるといういびつな結果も招いている。
牛の飼育者らが標的となった事件では14年以降、少なくとも44人が殺害された。こうした事件は以前から起きているものの、近年、明らかに増加している。国連人権理事会も今年3月、「不平等が深刻で、少数派、特にイスラム教徒への迫害が増えている」と報告し、インド国内でわき上がる排他的な動きに懸念を表明した。
モディ氏はBJP幹部とともに事件に懸念を表明するが、野党、国民会議派からは「保守層は重大な支持基盤であり、政権与党はヒンズー至上主義を黙認している」(同党関係者)との批判の声が上がる。
宗教による分断はこうした事件に限らない。北部ウッタルプラデシュ州では公式観光ガイドブックからインドの象徴ともいえる世界遺産「タージマハル」が消えた。イスラム王朝時代に建設されており、「反ヒンズー的」という判断が働いたものとみられる。
BJPの総選挙での大勝に、イスラム教徒団体副会長を務めるラシッド・エンジニアさんは「インドは調和と多様性の国。偏見が強まらないことを願う」と懸念を示した。
抑圧されたイスラム教徒たちが絶望を深めれば、イスラム過激派に付け入る隙を与えることになる。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は10日、系列のニュースサイトを通じ、インドの一部に支配地域を設定したと主張した。
総選挙で圧倒的信任を受けたモディ政権。支持層に配慮しつつ、いかに国内融和を図るか難しいかじ取りを迫られそ