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フィリピン支援に批判的な中国世論 環球時報はイメージ低下を危惧

台風30号で甚大な被害を受けたフィリピンでは被災者の救援活動に対する各国の支援が本格化している。日本政府は被災から間もなく国際緊急援助隊が医療支援に入り、自衛隊は約1180人の派遣も決めた。航空自衛隊のC130輸送機が活動を始め、海自は護衛艦など3隻を派遣。米軍は原子力空母を急派し、中国海軍も病院艦を現地に派遣した。主要メディアでは積極的な支援を求める論評が目立った。

 □マニラ・タイムズ(フィリピン)

 ■真の指導者が必要だ

 フィリピンの地元紙では、同国政府の対応の遅れをめぐり、アキノ大統領を批判する論評が目立つ。背景には、アキノ氏の言動が被災者よりも政局を意識するあまり、救援物資の配給が遅れているという不信感があるようだ。

 有力紙マニラ・タイムズ(電子版)は13日付の「フィリピンには指導者が必要だ」と題する社説で、現地で「ヨランダ」と呼ぶ台風30号の被害について「第二次世界大戦以来の深刻な危機」と表現した。その上で「国は指導者を必要としており、善かれあしかれ指導者は大統領たるアキノ氏しかいない」と強調。直後に「彼が降参の旗を上げ、危機に対処することができないと認め、大統領を辞任しない限り、だが」と皮肉を込めた。

 18日付同紙コラムニストの論評は、台風による被害を「母なる自然と、アキノ大統領が率いる政府の無能力と不適切さと無神経さによる共同作業だ」と批判。さらに、著名な映画監督が公開書簡で「地元メディアは、問題を認め対処することよりも自身のイメージに関心を払う大統領府の報道発表と連携している」とし、「真の敵はヨランダではなくわれわれの指導者らであり、大統領だ」と指摘したことを引用した。

 この書簡は、米CNNテレビが14日、被害が集中したレイテ島タクロバンの空港の惨状を現地から報じたにもかかわらず、アキノ氏が「空港の機能は回復した」と公言したことや、アキノ氏が災害直後にタクロバン市の対応を批判したことを念頭に置いている。同市は、アキノ氏一族の政敵であるマルコス元大統領の地盤であり、アキノ氏の市当局への批判は、被災者の救援よりも自身の保身や政敵への攻撃を優先しているというのだ。

 フィリピン・スター紙(同)は20日付コラムで書簡に賛意を示した上で、「今は誰かを非難しているときではない」とし、アキノ氏に指導力を発揮するよう求めた

■中国は指導力を示す機会を逸している

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は15~17日付紙面に、フィリピンの台風被害に対する各国の支援状況に関し、中国の消極的な態度が南シナ海の領有権争いでの正当性を弱める可能性があるとするブルッキングス研究所のローリー・メドカーフ氏の論説を掲載した。

 メドカーフ氏は中国がこれまで軍事費拡大や海洋進出の強化を正当化する理由として、ソマリア沖のアデン湾での海賊取り締まり活動や人道支援の能力向上を挙げてきたと指摘。今回、フィリピンへの支援に後ろ向きな態度を取っていることは「驚きだ」と評し、「中国は周辺地域における指導力を示す機会を逸している」と論じた。

 一方、米国は原子力空母の派遣などで、アジアを重視する米国の意思を周辺国に伝えようとしていると分析。オバマ大統領が10月の東アジアサミット(EAS)などを欠席したことなどで米国のアジア重視政策への疑念が出ていることに触れ、「フィリピンへの支援はEAS欠席の埋め合わせ以上のものになる」とした。

 また日本も「第二次世界大戦後として最大規模の海洋部隊の展開」を含んだ支援を表明したことに触れ、「日本は誰からも全うな抗議を受けない形で誇りをもって部隊を南方に進めることになる」とした。安倍晋三首相の歴史観が日本の立場に与えた「損害」を回復させるという現実的な可能性があるとの見方も示した。

 メドカーフ氏はその上で、各国が中国抜きでの協調を実現すれば、中国は非難される立場になるとし、「中国が自ら道義的な恥を示すことになるだけでなく、周辺地域への支配力や南シナ海の領有権に対する正当性をめぐる争いが転換点を迎える可能性がある」と論評。米国の外交的な影響力の低下や中国の存在感の増大が指摘される中で、今回の台風被害への対応は米国がアジアの安全を維持するために欠かすことができない存在であることを再認識させたと主張している

人道支援に見返りを求めるな

 中国共産党の機関紙、人民日報傘下の環球時報は18日、「対フィリピン支援の収支計算をしてはならない」と題する論評記事を掲載した。「人道支援はあくまでも無条件で行うべきで、見返りを求めてはならない」と主張している。

 中国政府が資金と薬品などの支援を決めたことに、インターネットなどでは南シナ海の島々をめぐって領有権争いをしている国に対して「なぜ金をやるのか」といった批判が多く寄せられた。大手ポータルサイトが行うアンケートでは、8割以上が支援に反対する結果が出た。

 環球時報の記事はフィリピン支援に反対する世論を説得する形で書かれた。執筆者は人民日報の高級記者、丁剛氏だ。

 「フィリピンの災害について、中国メディアは地元政府の発表数字を中心に伝えており、現場からの報道はほとんどない」

 記事はまず、中国メディアの報道姿勢の問題点を指摘した。欧米のテレビ局が被災地からの中継を数時間連続して放送した例などを挙げたうえで「中国の視聴者は現場の惨状、被災者の置かれている立場を理解していない」と、国内世論がフィリピン支援に消極的になっている理由を分析した。

 さらに、フィリピンとの領土問題の解決を支援の条件にすべきだとの意見がインターネット上で多いことにも触れ、「民族と民族の間で存在しているのは、利益の計算だけではない。見返りを求めない本当の愛もあっていいはずだ」と主張した。

 記事は「私たちは人道支援の際にも利益の計算を優先させるのなら、国際社会は私たちをどのように見るのでしょうか」と締めくくり、今回の件で国際社会での中国のイメージが低下することを危惧した。

 記事の内容は正論だが、こうした意見はインターネット上では今でも少数派であるようだ。論評に対し、「中国が支援した金でフィリピンが対中戦争の武器を製造するかもしれない」と言った反論が寄せられている

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