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時代を見通す日本の基礎情報

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中国の軍事的冒険主義

米戦略国際問題研究所シニアアソシエイトのルトワックが、12月29日付ウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説で、中国の軍事的冒険主義について、2008年に鄧小平の「平和的台頭」路線を放棄したと分析し、1914年以前のドイツ帝国を想起させる、と述べています。

 すなわち、12月5日に、中国海軍の艦船が、米海軍の巡洋艦を公海上でブロックしようと企てる事件があった。この件は、なぜ中国の司令官は、米国の軍艦と衝突しかねない事態を引き起こすことを良い考えと思ったのか、という重要な疑問を提起している。

 ニアミスの増大は、挑発的に行動することにたとえ致命的な事故のリスクがあるとしても、中国海軍の将校にとって、キャリア上の誘因があることを示唆している。陸軍でも同様である。蘭州軍区の軍隊は、4月に、インドが支配していたLadakhを奪取することが賢明なことであると考えた。同様に、海警は、日本が実効支配している尖閣の周囲をパトロールし、最近は、日本の領海に侵入している。

 冷戦時は異なっていた。米ソの航空機と軍艦は、数えきれないほど遭遇したが、危険な事態はほとんどなかった。ソ連の将校は、「冒険主義」がキャリアを終わらせかねない罪であることを知っていた。

 しかし、中国の場合、共産党の指導者は、冒険主義を奨励しているように見える。国営のメディアは、軍事的冒険主義に基づいた行動を盛んに支持している。エスカレーションのリスクは極めて大きいのに、なぜであろうか。

 2008年以来、中国指導部は、1978年に鄧小平が打ち上げた「平和的台頭」政策を放棄している、と結論付けざるを得ない。誰にも脅威を与えず、突出した主張をせず、台湾を攻撃しない、という鄧小平の政策は、輝かしい成功を収めていた。米国は、中国の経済成長を歓迎し、他の国もそれに倣っていた。

 全ては、2008年以後変化した。世界金融危機を米国のパワーの崩壊の先駆けと解釈し、北京は、長らく封印してきたインドのArunachal Pradesh 州への主権主張を突如復活させ日本の政治家からの友好的な姿勢をはねつけ、尖閣への主権を主張し、フィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムのEEZを含、南シナ海の大部分に対する領有権を宣言した。
中国の圧力を受けている、周辺の7か国は、少なくとも、外交的に共同して中国に対処するようになってきているインド、日本、ベトナムの非公式な連携のように、中身を伴うものもある。日韓の防空識別圏(ADIZ)と重なり合う、中国のADIZ設定は、日韓関係を改善させさえするかもしれない。

 中国の指導者は、韓国からインドに至る連合の出現により挑戦を受けている、と不満を言い、全ての元凶は米国であると批判しているが、そうさせているのは、中国政府自身の各国に対する要求が原因である。ADIZ問題の後の、最も新しい要求は、日本は防衛費を増やすべきではない、すなわち、日々の中国の脅威に対応することを抑制せよ、というものである。

 共産党の指導者は、巨大でダイナミックな経済をマネージすることに長けていたし、抑圧も、対少数民族を除いては、目に見える残忍さを最小限に抑えると言う点で巧妙であった。こうした理由から、多くの外部の者が、外交政策についても熟達しているであろう、と仮定してきた。

 残念ながら、これまでのところ、実際に我々が目撃しているのは、役に立たないナショナリズムと軍国主義の台頭である。それは、1914年以前のドイツという不吉な先例を想起させる。ドイツ帝は、世界で最も優秀な大学を持ち、最も進んだ産業と最も強力な銀行を持っていたが、「平和的台頭」を続けるという戦略的知恵だけは欠いていた、と論じています。

* * *

 確かに、ルトワックが指摘する通り、中国の軍、治安当局の行動が、冷戦時代のソ連に比べても、より乱暴、挑発的になって来ているのは事実です。第一次大戦前には、ドイツが、無神経にモロッコにまで介入して、英仏同盟関係を固めさせた例もありその意味で当時のドイツと比べることは出来るかも知れません。

 ルトワックは、そうなった転機は2008年としています。2008年と言えば、リーマン・ショックでアメリカはじめ世界経済が沈滞している中で、ひとり中国だけが、高度成長を維持できた時期であり、また、ブッシュ政権が始めたイラク・アフガン戦争が行き詰り、共和党が政権を失ってオバマが大統領に選出され、米国の力の衰退、中国の勃興が印象付けられた年でした。それが中国が尊大になった理由であるとのルトワックの指摘には、一面の真理はあるかもしれません。
ただ、数年前からの、中国の態度の硬直化は、内部の権力闘争の激化の影響が主たる原因ではないかと思います。中国内部の事情はなかなか分かりませんが、少なくとも、対外軟弱と言われることが、その本人の立場に致命的打撃を与えるような状況であるように見えます。

 また、2008年といえば、胡錦濤が権力を固めつつあった時期であり、それに対する軍部、あるいは江沢民派の抵抗が増大したという仮説も成立し得るでしょう。

 その後、習近平が、党、軍、政府の三権を掌握して、権力闘争に一区切りついたのかとも思われましたが、その後も硬直化した姿勢が続いているのは、内部に何らかの権力闘争があり、そのために引き続き軍に迎合する必要があるためと推察されます。










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