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吉田証言」重用でウソ拡散、いつの間にか内容を否定していた朝日

そもそも朝日新聞の誤報と、吉田清治という詐欺師のような男がつくった本(『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』)が、まるで事実のように日本中に伝わっていったことで、この問題がどんどん大きくなった」

 第2次安倍政権発足の約1カ月前にあたる平成24年11月30日。日本記者クラブ主催の党首討論会で、自民党総裁の安倍晋三は慰安婦問題について問われてこう指摘した。

 首相就任前から慰安婦問題に熱心に取り組んできた安倍が朝日と吉田を名指ししたのには理由がある。吉田のデタラメな「韓国での奴隷狩り」証言を裏付けも取らないまま熱心に繰り返し取り上げたのも、事実と異なる慰安婦報道で問題を複雑化させたのも朝日だからだ。吉田証言は共産党の機関紙、赤旗なども報じているが、朝日は突出している。

 アヘン密輸にからみ入獄したこともある吉田を「職業的詐話師」と呼ぶ現代史家の秦郁彦が吉田と朝日の関係を調べたところ、朝日は慰安婦問題が注目されるようになった3年半ばからの1年間に、吉田を4回も紙面に登場させている。もちろん、それ以前にも何度か取り上げた上での話だ。

 例えば3年10月10日付の記事(大阪版)では、吉田が「慰安婦には人妻が多く、しがみつく子供を引きはがして連行」などと語るインタビュー記事を載せている。だが、貧しく慰安婦のなり手に事欠かなかった時代に、わざわざ子持ちの人妻を連行する必要性があったというのか。


朝日は4年1月23日付夕刊の1面コラム「窓 論説委員室から」では吉田の言葉を引用してこう書いた。

 「(朝鮮)総督府の五十人、あるいは百人の警官といっしょになって村を包囲し、女性を道路に追い出す。木剣を振るって女性を殴り、けり、トラックに詰め込む」「吉田さんらが連行した女性は、少なくみても九百五十人はいた」

 このコラムは吉田のことを「腹がすわっている」と持ち上げすらしているが、当時、朝鮮半島の地方では巡査はほぼ100%朝鮮人だった。朝日社説の論調変遷

朝日社説の論調変遷

 吉田は『私の戦争犯罪』を出す6年前の昭和52年に出版した『朝鮮人慰安婦と日本人』では、奴隷狩りで女性を集めたとは書いてはおらず、朝鮮人地区の女ボスの手配としている。

 ただ、朝日も徐々に吉田の話を疑問に思い始めたようで、強制連行や吉田証言に対する論調を変えていく。平成9年3月31日付朝刊の慰安婦問題特集記事では、吉田についてこう書くに至った。

 「朝日新聞などいくつかのメディアに登場したが、間もなく、この証言を疑問視する声が上がった。(吉田が奴隷狩りを行ったと証言した韓国の)済州島の人たちからも、氏の著述を裏付ける証言は出ておらず、真偽は確認できない。吉田氏は『自分の体験をそのまま書いた』と話すが、『反論するつもりはない』として、関係者の氏名などのデータの提供を拒んでいる」

 結局、吉田証言を何度も紹介したことの非は認めず、「真偽は確認できない」とするにとどまり、訂正はしていない。

朝日の前主筆、若宮啓文は昨年9月に出版した著書『新聞記者 現代史を記録する』の中で次のように振り返っている。

 「朝日新聞もこれ(慰安婦問題)を熱心に報じた時期があった。中には力ずくの『慰安婦狩り』を実際に行ったという日本の元軍人の話を信じて、確認のとれぬまま記事にするような勇み足もあった」

 今回、産経新聞が若宮に取材を申し込んだところ、多忙などを理由に「お受けできかねる」と拒まれた。

 朝日新聞広報部に「一連の吉田氏を取り上げた記事について訂正する考えはあるか」と問い合わせると、書面で回答があり、前述の9年3月31日付の慰安婦問題の特集を挙げたうえで、こう続けた。

 「吉田清治氏の証言について、弊社は特集ページで、証言の真偽が確認できないことを詳細に報じ、証言内容を否定する報道を行っています。歴史に関する証言報道は、その検証などによって新しい事実が判明した場合、その事実を伝えることが重要だと考え、そう努めています」

 朝日の指摘する記事が、果たして「証言内容を否定する報道」といえるだろうか。それまでに繰り返し無批判に吉田を取り上げ、国内外に間違った慰安婦像を広めてきた経緯と比較考量して、これで十分とはいえない。(敬称略)

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