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コロンブスやリンカーンも論争の的米社会引き裂く「像」問題、そして慰安婦像も

英雄か人種差別主義者か-。米社会で、南北戦争時の南軍の将軍たちやコロンブス、リンカーンにいたるまで歴史的な人物像の扱いをめぐる対立が広がっている。隣国カナダの紙幣になっている初代首相や、海を越えて英ロンドンのネルソン提督の像にまで飛び火した米国で次々と建てられる慰安婦像についても、「新たな困難」を加えると指摘されている。 (坂本英彰)


共産主義者め


 10月17日夕刻。南部ケンタッキー州の主要都市レキシントン中心部にクレーン車が現れ、一車線を閉鎖して作業が始まった。1時間ほどのうちにつり下げられ、横倒しにして運び去られたのは130年間も町を見続けてきた像だ。


 レキシントン出身のジョン・ブレッキンリッジ。1861年にわずか36歳で合衆国副大統領に就任し、南北戦争(1861~65)では南軍の将軍として戦った。郷土の「英雄」は、南北戦争が終結して20年ほど後に像となった。


 地元紙レキシントン・ヘラルドリーダーによると、同市は8月17日、ブレッキンリッジと、同じく南軍で勇猛をはせたジョン・ハント・モーガンの騎馬像について、撤去の是非をめぐる公聴会を開催した。55人以上の意見陳述者の多くが撤去を支持したという。


 像は南北戦争以前に奴隷市場があった場所にある。市民のひとりは「像が建てられたのは(黒人を差別的に扱う)ジム・クロウ運動の時代だ。白人の優位を示して黒人を黙らせるためだった」などと主張した。


続く市議会では、16人の議員の全会一致で撤去支持の議案を可決した。


 「国民は分断し、いまや自治体が前線に立たされている。わたしたちは成熟した判断を下す大人になるべきなのだ」


 ジム・グレイ市長は議会でこう述べた。しかし2カ月後に行われた撤去作業では一瞬、不穏な空気が漂った。見守る市民から拍手が起きたが、通り過ぎる男性からこんな罵声が飛んだ。


 「この共産主義者め」


ドイツ人か


 レキシントン市の像問題を刺激したのは8月12日、南部バージニア州シャーロッツビル市で起きた衝突事件だ。市議会は4月に南北戦争時の南軍司令官リー将軍の像の撤去を決め、これに反対する白人至上主義者が集結。撤去を支持する市民らと衝突し、突っ込んだ車にひかれた女性が死亡するという惨事に発展した。


 事件のあと東部メリーランド州ボルティモア市など各地で、南軍関係の像を撤去する動きが加速した。


 「憎悪の象徴となりうる市内の像をすべて見直す」


 8月23日、ニューヨーク市のデブラシオ市長は、一歩踏み込んだ。


 マンハッタンのセントラルパーク近くに、観光名所にもなっているコロンブスの像が建つ。新大陸を「発見」し連邦の祝日にもなっている偉大な航海者も例外ではないため、コロンブスとルーツを同じくするイタリア系市民が反発した。


 ニューヨーク・デーリー・ニューズによると、10月9日、恒例の「コロンブスデー」のパレードに参加したデブラシオ氏は、沿道から激しい非難を浴びた。


「もう私たちの市長ではないぞ」「像を守れ、おまえはドイツ人か」


 同市には大きなイタリア系コミュニティーがある。デブラシオ氏もイタリア系だけに、裏切りにも映ったようだ。イタリア系団体はニューヨーク・タイムズ紙に意見広告を出すなど、世論への訴えも必死だ。


コロンブスより先住民


 だが米社会では、コロンブスに対する逆風が募っている。8月、ロサンゼルス市議会は来年から「コロンブスデー」を「先住民の日」にすると決めた。サンフランシスコ市やシアトル市などは変更済みで、タイム誌によるとその数は50以上の州や市にのぼる


 南部テキサス州のサンアントニオ市もそのひとつ。 ニューヨークでデブラシオ市長がバッシングを受けた同じ日、ニーレンバーグ市長は市役所前で「先住民の日」とする宣誓をし、先住民らの祝福を受けた。


 「先住民の日」は1992年のカリフォルニア州バークリー市が皮切り。当時はコロンブス500周年の祝賀ムードに対抗するように、アンチのムーブメントが起きた。


「リンカーンが殺した」


 米各地では南軍兵士やコロンブスなど歴史的な像に塗料がかけられる被害が相次ぐ。中西部ウィスコンシン州のウィスコンシン大学マディソン校では先住民の学生グループが10月9日、「リンカーンは38人もの先住民の殺害を命じた」などとして、キャンパスにあるリンカーン像にスローガンのボードをぶら下げ、抗議デモを行った


米国の像をめぐる論争は、同様の歴史を共有する他国にも波及している。


 ニューヨーク・タイムズによると、カナダでは初代マクドナルド首相の像に落書きされ、先住民の子供を親から引き離した人種差別主義者だったなどの批判が起きている。


 英国でもロンドン中心部のトラファルガー広場に建つネルソンの像がやり玉にあげられた。ナポレオン軍との海戦に勝利した名将だが、ガーディアン紙に寄稿したジャーナリストは「奴隷制度の強力な擁護者だった」などとして、米南軍の将軍たちと同列に並べた


慰安婦像で声明



 こうしたさなか、米各地に建てられているのが慰安婦像だ。9月22日、サンフランシスコの中華街で慰安婦像が除幕された際、山田淳・駐サンフランシスコ日本総領事が声明を発した。
慰安婦問題について日本政府の取り組みを説明するとともに、像によって一方的な解釈の固定化につながる懸念を表明。米社会で続く議論のある像をめぐる状況に「間違いなく新たな困難を加えることになる」と警告している。

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