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時代を見通す日本の基礎情報

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中国の防空識別圏設定に不快感を示す米国 激怒するオバマ

12月1日~8日にかけ、バイデン副大統領は日本、中国、韓国を訪問した。以前から予定されていたこの東アジア歴訪の本来の目的は「オバマ政権のアジア太平洋地域リバランス、および米国が太平洋国家として引き続き役割を果たしていくことへのコミットメントを強調すること」(米政府高官)であった。

 しかし、11月23日に中国政府が東シナ海上空を自国の防空識別圏(ADIZ)として設定する旨を発表したことによって、この歴訪の位置づけは大きく変わってしまった。北朝鮮情勢や環太平洋パートナーシップ(TPP)や北朝鮮情勢など、東アジア地域全体の問題に関する議論は隅に追いやられ、中国による突然のADIZ設定にどのように対応するべきかが訪問した各国での議論の中心となってしまった。
日本はバイデン副大統領の ADIZ撤回要求を期待したが…

 日本では、中国政府が各国の民間航空会社に運航計画の事前提出を求めたことについて、運航計画の提出を自制するように航空会社に求めた日本政府と、計画の提出は容認した米国とで対応が分かれたことへの懸念が広がっていた。しかし、あまり時間をおかずにバイデン副大統領が日本と中国を訪問する予定になっていたことから、バイデン副大統領訪日中に、中国に対してADIZ撤回を求める共同声明が発出されることや、中国訪問時にバイデン副大統領がはっきりとADIZ撤回を求めることなどが期待された。

 ところが、ふたを開けてみると、バイデン副大統領のアジア歴訪のメッセージは、「リスク管理」の重要性を強調するもの。日本では、安倍総理との会談後の記者会見で、中国のADIZ設定に「力による一方的な現状変更」として言及し、東アジアにおける緊張の高まりを深く懸念する発言をしたものの、日米による共同声明を出すまでには至らなかった。中国でも、バイデン副大統領は今回の中国政府による措置を「絶対に認められない」と繰り返し伝えたものの、ADIZ撤回を中国に求めることはなかった。

 民間航空会社に対して運航計画を中国に提出することを容認したことや、バイデン副大統領のアジア歴訪時の対応は、米国が今回の中国政府の行動を今後の米中関係の発展の阻害要因としてとらえつつも、その対応には難しい選択を迫られていることを窺わせる。

不快感を示す米国 激怒するオバマ

 今回の中国政府の動きは、米国でアジア政策に携わる人間の間では、「尖閣諸島問題で日本と対等な立場にたって領有権を主張する」ことを目的としたものではないか、という見方が大勢を占めている。しかし、その文脈で見てもADIZ設定という行為は中国が一方的に緊張を高める行為に出たものだ、という見方でほぼ一致している。

 また、今回の中国政府による措置は、中国政府の意図はどこにあるにせよ、実質的に西太平洋地域でアメリカが第二次世界大戦後築いてきた国際環境への明示的な挑戦として、米国は受け止めている。米国、特に国防省や軍の関係者の間には、中国が今回のような措置を黄海や南シナ海にまで広げるのではないかという懸念が確実に存在する。中国政府からの発表後、すぐに米軍がB-52爆撃機を中国が設定したADIZの中で飛行させ、中国側がこれに対して緊急発進などの措置を取らなかったことを公表した。通常、自軍の行動や、それに対する相手国の行動について、このような発表をわざわざすることは極めて稀だ。米国の不快感をはっきりと表した行為である。

 さらに、この中国政府の突然の発表にオバマ大統領は激怒していると言われている。今年6月にカリフォルニア州サニーランドで習近平主席と初の米中首脳会談を行った際に、オバマ大統領からは、今後の米中関係において何よりもオバマ大統領が重視するのは、中国からの「サプライズ」がないことであると強調したと伝えられる。中国からADIZ設定発表前に米国に事前通報した形跡はなく、「サプライズ」以外のなにものでもない。今回の件を契機にオバマ大統領が習近平主席を「ビジネスができない相手」として見始めることは確実だ。

 しかも、今回の中国政府による発表は、そのわずか2日前の11月21日にスーザン・ライス国家安全保障大統領補佐官がジョージタウン大学で行ったアジア政策に関する演説の中で「中国とは新しい大国同士の関係を実行に移すための協議をしていく」と語った直後の発表である。オバマ大統領が政権の面子を潰されたと感じてもおかしくない。

中国がこれ以上挑戦的な行動に出ないために

 その一方、一度設定してしまったADIZを撤回させることはほぼ不可能であろう、という点についても米国内では意見がある程度の一致を見ている。であれば、ADIZ設置を既成事実に仕立て上げて中国がこれ以上挑戦的な行動に出ないために米国は何をするべきなのか――米国の関心事は今や、この一点にあると言ってよい。

 このような観点に基づいたこれまでのところの対応が、自国の民間航空会社に対するリスク低減措置としての民間航空機による中国政府への運航計画提出の「容認」であり(日本では米政府が指導したようなニュアンスの報道が多いが、これは事実と異なっており、「運航計画の提出をするのであれば、米国政府はそれを止めたりはしません」という程度の対応である。ただし、この点については米国でも混乱があるため、オバマ政権がもっとしっかりと説明すべきだった、特に、日本や韓国に対する事前説明をもっとしっかりとするべきだったと指摘する専門家は多い)、訪中中のバイデン副大統領による「リスク管理の徹底」に焦点を置いた発言であるようだ。政府レベルでは、ADIZの存在を許容する気は毛頭ない、というのは、先般のB-52爆撃機の飛行からもすでに明らかである。

 日本では、バイデン副大統領訪日中にADIZを撤回させるための共同声明が出なかったことや、副大統領の中国でのこの問題に対する発言が「日本が期待したよりも中立(ある米民主党系コンサルタント)」であったことばかりに目が奪われ、「日米の対応に温度差がある」「米国は中国と日本の頭越しで取引するのでは」という議論がされがちである。

日本として何ができるのか

 しかし、今日本に必要なのは、米国の対応がどのようなものになるにせよ、その一挙手一投足に一喜一憂することなく、「日本の領空を守るために、その中で中国との間の偶発的事故のリスクを少しでも低くするために、また中国がこれ以上大胆な行動に出ることを自制するために、日本として何ができるのか」についての議論ではないだろうか。

 日本が今後、何をするべきかを考えた時、米国と引き続き緊密な連携をとる努力を続けることは当然だ。また、自前の防衛力の強化、特に航空・海上兵力の分野での能力向上は、より一層の緊迫感を持って進めなければならない。さらに、偶発的事故のリスク軽減には、情報収集・分析能力のさらなる向上が求められるし、力で現状を強制的に変えるような行為に対しての抗議の声を国際社会にきちんと届けるためには、ICAOなどの国際機関の場を通じてのメッセージ発信も極めて重要になるだろう。また、そのような対応方針の決定は、日中の経済面での関係もきちんと考慮したものでなければならない。要は、「オール・ジャパン」での取り組みが求められるということだ。

 日本ではこのたび、NSCが発足した。NSCにはぜひ、このような問題について「オール・ジャパン」での対応策を策定していく上での司令塔になることを期待したい。

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