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沖縄県内でボーイング747クラスの超大型機が離着陸できる滑走路を備えるのは、年間1500万人が利用する那覇空港や米軍の嘉手納飛行場を別にすれば、下地島空港だけだ。だが、この空港まで行きたければ、フェリーで伊良部島に渡り、さらに車で隣接する下地島まで行かなくてはならない。定期路線がなく、国内唯
一の航空機の訓練専用空港として利用されている。
10月下旬に取材したときも、周囲の青いサンゴ礁には似つかわしくない「キーン」という金属音を立てながら航空機が離着陸を繰り返していた。滑走路の長さは3000メートル。かつてはボーイング747がタッチアンドゴーを繰り返す様子を見るために、多くのファンが島に集まったという。
この空港に暗雲が立ち込めたのは、昨年3月のこと。これまで空港の運営費6億円を折半してきた日本航空と全日空のうち、経営再建に取り組む日航が空港を管理する沖縄県に訓練の中止と撤退を通知したのだ。
いまやパイロットの訓練はシミュレータで行うのが主流。多額の経費をかけてまで下地島で訓練を行うメリットは少ないということだが、日航の動きに追随するかのように、全日空も「来年度以降の下地島での訓練は白紙」と表明。沖縄県を慌てさせている。このままでは空港が利用休止に追い込まれかねない状況だ。
この空港を有効利用する方法はないのか。地元自治体では、すでに5年前に利用方法を議論、利活用計画書としてまとめている。「パイロットを養成するための教育施設を誘致し、航空需要が拡大するアジアから
学生を募ろうという構想が検討されています。ただ受け皿となる教育機関を見つけることができず、宙に浮いたままです」(宮古島市企画調整課の担当者)。
下地島は空港建設の際にすべての土地を県が買い上げており、住民はいない。かつての住民の多くは数十メートルの水路をはさんで隣接する伊良部島に住む。伊良部島は人口6000人の典型的な過疎の離島だ。
この伊良部島と地域の中心にあたる宮古島を結ぶ橋の建設が進められている。全長3540メートル、総工費は380億円。無料で通行できる橋としては全国で最長となる。伊良部島では「多くの観光客がやってくる」と期待する住民もいるが、「交通事故が増え、一気に住民が流出してしまうだけで多額の建設費をかける意味はあるのか」と効果を疑問視する見方も多い。
地元では「せっかく空港があるのだから、自衛隊を誘致するしかない」との声も少なくない。05年には合併前の地元町議会が自衛隊誘致の請願を可決したこともあったが、軍事目的での利用へのアレルギーが強く、その後の住民集会などで異論が噴出。町議会で請願を白紙撤回する議決が行われる異例の事態となった。当時の町議会議員は、「すでに航空各社の訓練回数が減り始め、いずれ現在のような事態になることが見込まれた。誘致の請願は島の振興のための苦渋の決断だった」と振り返る。
昨年には北澤俊美防衛大臣(当時)が「災害支援の拠点空港としたい」との構想を明らかにするなど、防衛省もこの空港には少なからず関心を持っているが、71年に日本政府と当時の琉球政府の屋良朝苗主席の間で、航空訓練と民間航空以外に使用しないことを確認した覚書が交わされており、自衛隊が利用するのは容易ではない。
関係者によると、この空港を5年程前に中国政府関係者が視察したという。尖閣諸島から200キロしか離れていない島にこれほどの規模の空港があるのだから気になるのだろう。遊休施設となれば喜ぶのは誰だろうか
宮古島と伊良部島の間に建設中の伊良部大橋。全長は3450メートルで無料で通行できる橋としては全国最長となる。総工費は380億円で、15年に完成予定。多額の建設費に見合う効果があるのか首を傾げる住民も