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韓国・検事総長「職務停止」問題 常軌を逸する措置で混乱も

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 韓国の政府内で露骨な権力闘争ともいえる事態が勃発した。韓国メディアは今、文在寅政権の秋美愛(チュ・ミエ)法相が、検察トップの尹錫悦(ユン・ソギョル)検事総長に対して行なった「懲戒請求」と「職務停止処分」で持ちきりである。尹検事総長といえば、2019年7月、文大統領により抜擢された人物。就任後は「検察改革」を旗印に掲げる文政権にも対決姿勢を取り続け、時の政権にも与しないその姿勢が、国民からも広い支持を集めてきた。その検事総長が職務停止処分を受けるとは、どういう事態なのか。

『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)の著書がある韓国出身の作家・崔碩栄(チェ・ソギョン)氏は、尹検事総長という人物についてこう語る。

「2016年の朴槿恵大統領(当時)の弾劾で、崔順実(チェ・スンシル)氏の国政介入を捜査した特別検察官チームで捜査チーム長を務めたのが尹氏です。文大統領は彼を高く評価し、大抜擢して検事総長に任命した。ところが、尹氏は非常に職務に忠実な人で、右派も左派も関係なく、曹国(チョ・グク)前法相をめぐる疑惑捜査の陣頭指揮を執るなど、文政権にも厳しい姿勢を取った。期待していたのと正反対の行動を取る尹氏は、文政権にとって邪魔な存在になっていたのです」

 文大統領は、“検察改革”の名の下、検察の権限を縮小させる改革を進めてきた。その一つが「高位公職者犯罪捜査庁」の創設で、2019年12月30日に設置法案が国会で可決され、大統領や首相など政府高官や国会議員らに対する捜査は、検察ではなく大統領直属機関が行なうこととなった。日本で例えれば、東京地検や大阪地検の特捜部が廃止され、首相直属の機関が政治家の汚職を捜査する体制になったようなものだ。

 さらに、曹国氏の後任である秋法相は、2020年1月の検察人事で、曹氏一家の不正の捜査を指揮していた韓東勲(ハン・ドンフン)大検察庁反腐敗・強力犯罪部長を筆頭に、尹検事総長の腹心の幹部32人を一斉に地検や閑職に左遷した。後任には、文大統領の大学時代の後輩や盧武鉉政権時代の青瓦台スタッフらが就任している。

「ここまで追い詰めれば尹氏は辞任するだろうと思ったら、彼は辞めなかった。それでとうとう、尹氏側への監察を妨害したなど5つの不正を行なったとして、懲戒請求と職務停止という強硬手段に訴えたのです」(崔氏)

 秋法相は、早ければ12月第1週目に法務部の「検事懲戒委員会」を開くと見られている。7人の委員の過半数を法相が選べるので、ここで解任処分が決定する見込みだ。

この措置には尹検事総長も黙ってはいない。11月25日にはソウル行政裁に職務停止の執行停止を申し立て、法的に争う姿勢を見せており、また、韓国の検察関係者も一部反発の動きを見せている。朝鮮日報(11月26日付)によると、〈大検察庁の研究官らは25日、会議を開き、「秋美愛法務部長官の指示は違法で不当な措置だ」とする声明を出したのに続き、釜山地検東部支庁の検事らも全国の検察庁で初めて、末端検事による会議を開き、同様の立場を表明した〉という。

 検事らは「違法で不当な措置だ」と訴えているが、そもそも法相に検事総長を解任する権限はあるのか。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川惠司氏はこう答える。

検事の懲戒制度はありますが、こういう形での運用は想定されていないはずで、職権乱用に当たるのではないかというのが争点になるでしょう。実際、秋法相の今回の措置は常軌を逸している。

  なぜここまでやるのかというと、ある疑惑が持ち上がっているからと考えられます。秋法相の息子は、2017年の兵役中、病気休暇で家に帰ったあと部隊に戻らず、秋氏の補佐官らが軍に電話をして、休暇延長の扱いにさせたという疑惑が出ていて、今年9月にソウル東部地検は国防部を家宅捜索しています。本来なら脱走扱いで軍法会議にかけられるところを、圧力をかけて救ったという疑惑です。捜査から息子を守りたい母親の一念が、尹氏への恐怖と憎悪となって解任へと暴走しているのではないか」

 この件はすでに韓国で報道されているので、もし尹氏を解任すれば、秋法相も大きなイメージダウンを免れないが、それでも強行しようとする姿勢には執念を感じざるを得ない。

 現実に尹氏が検事総長を解任された場合、訴訟以外に巻き返す手段はあるのか。少々荒唐無稽かもしれないが、2022年の大統領選への出馬という方法がある。韓国の世論調査会社ハンギルリサーチが11月11日に発表した調査結果によると、尹氏本人は出馬を口にしていないにもかかわらず、次期大統領選挙への出馬が予想される人物中、尹氏の支持率が1位(24.7%)だったという

「尹氏は朴槿恵弾劾に関わったので、与党の左派だけでなく、野党の保守派も皆が皆、支持しているわけではない。政界に支持基盤と人脈がないので、出馬はそんなに簡単ではありません。次期大統領選候補で支持率トップになったのは、他に有力候補がいないからで、反文在寅の票が集まっただけと考えられます」(崔氏)

 ただ、多くの韓国国民から人望の厚い尹氏が出馬すれば、左派からも右派からも票を集められるはずで、台風の目になることは間違いない。

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