急速に普及するキャッシュレス決済だが、思わぬ落とし穴がある。交通系ICカードやバーコード決済などにお金をチャージしたまま一定期間利用せずに放置すると、権利が失効し、残高が「0」になるケースがあるというのだ。こうした対応の中身は、別表のように、サービスを提供する会社によって大きく異なる。あなたの電子マネーは大丈夫?
バーコード決済の新興勢力で、100億円の「バラマキキャンペーン」を2度にわたり実施している「PayPay(ペイペイ)」。その利用規約をみると、失効までの期間が「2年」と書かれている。ペイペイ広報室は、「現在は最後に残高の増減があった日から2年となっているが、5月中旬に5年へと延長する予定だ」と話した。
同社広報室によると、銀行口座からペイペイにいったんチャージされると換金はできず、失効すると残高は返金されない。失効した残高は同社の雑収入になるという。
一般に現金を電子マネーにチャージするのは「前払式支払手段」と呼ばれ、事業者は資金決済法に基づいて約款や利用規約などを設けている。事業者によって違いはあるが、カードを最後に利用した日から一定期間の取り扱いがないと、電子マネーを有する権利が失効する。
前出のペイペイ広報室は、「前払式支払手段は商品券と似た意味合いで、商品券と同じように有効期限がある」と説明した。
スマホ決済でペイペイと競合する「LINE Pay(ラインペイ)」も失効までの期間は5年。同社広報は「サービスの建て付け上(預貯金と異なり)一生お預かりすることができかねる」と回答した。同社の場合、216円の手数料が掛かるが、換金は可能だという。
いち早く定着している交通系電子マネーはどうか。JR東日本が発行する「Suica(スイカ)」は、最後の利用から失効までの期間が10年だ。同社はその理由を「お客さまの利用履歴などの情報が入っているため、10年以上たつとその情報が入った磁気をうまく読み取れなくなる恐れがある。安定的にサービスをご提供するため、期間を設けている」と回答した。
ただ、残高が失効しても、みどりの窓口や改札窓口に持参すれば古いカードに残されたお金を新しいカードへと移すことができるという。
JR西日本の「ICOCA(イコカ)」も、約款に10年が失効の期限とあるが、同社広報部によると、それ以降でも問題なく利用可能だという。
鉄道27事業者、バス76事業者が導入している「PASMO(パスモ)」も失効までの期間が10年だ。規約には、失効した場合「当社が特に認めた場合を除き、デポジット及びPASMOに記録されている一切の金銭的価値等の返却を請求することはできない」と記載されている。
失効した残高はどうなるのか。今期のパスモ広報幹事を務める京成電鉄は、「企業会計規則に基づいて適切に処理している」との回答だった。
なぜ各社のサービスによってここまでも差が生まれてしまうのか。資金決済法には有効期限に関する記載はなく、事業者が電子マネーの価値を担保し続ける必要はないのだという。
電子マネーの失効の期限に関しては、国民生活センターにもトラブルが報告されている。記念の交通系カードを大切に保管しておいた20代男性は、いざ使おうとしたところ有効期限が過ぎており、4000円のチャージ金額が戻ってこなかった。
50代女性の場合、娘からもらった交通系カードを利用しようとしたところ、期限が過ぎており、数千円が戻ってこなかったという。
同センターはホームページで、「購入する電子マネーに有効期限があるかどうかよく確認し、有効期限がある場合はいつまで利用できるのか必ず確認しましょう」と注意喚起している。
一方で流通系の「nanaco(ナナコ)」、「WAON(ワオン)」さらには、ネット系の「楽天Edy(エディ)」では約款や利用規約に残高の失効期間を設けていない。
新規で電子マネーを購入する場合や、家でICカードが眠っている場合などは注意したい。