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時代を見通す日本の基礎情報

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サイゴン陥落に見る“計画外” 朝鮮半島危機 その時、邦人脱出の方策は

朝鮮半島危機を踏まえ、在韓邦人の退避が大きな課題となっている。開戦直前の退避ならまだしも、韓国が北朝鮮の先制奇襲攻撃を受けた場合、その後の国外退避はどういった状況となるのか。参考となるのは約40年前の大脱出「フリークエント・ウインド」作戦だ。(岡田敏彦


米強襲揚陸艦オキナワに着艦後、他機の着艦スペースを空けるため海へ投棄されるHU-1ヘリコプター(米海兵隊撮影)米強襲揚陸艦オキナワに着艦後、他機の着艦スペースを空けるため海へ投棄されるHU-1ヘリコプター(米海兵隊撮影)

 ヘリがあなたを迎える場所


 フリークエント・ウインド作戦とは、ベトナム戦争末期の1975年、南ベトナムの首都サイゴン(現在のホーチミン市)から、ヘリコプターにより在ベトナム米国人を脱出させた作戦の名称。4月29日から30日の約24時間の間に、在留アメリカ市民1373名を沖合の米空母へ避難させた。加えて南ベトナム政府関係者や市民、孤児、その他の国籍者5595名も共にヘリで避難した。だが、計画通りすんなりと脱出できたわけではない。


 在ベトナム米大使館は米国市民の避難方法を説明したガイドブック「一般市民への緊急時の助言と指導」と題した15ページの小冊子を、事前に在ベトナムの米国民に配布していた。「ヘリコプターがあなたを迎える場所」など、避難行動の全てが簡潔に記されていた。もちろん「他の人に知らせないで下さい」との注意書きも記されていたが、サイゴンの市民には筒抜けだった。一説には、脱出用に選ばれたビルの屋上に、迎えのヘリを誘導する着陸標識をペンキで描く仕事がサイゴン市民に発注されたという。


 ホワイト・クリスマス


 集合場所へ集まる合図は、米国人なら誰でも知っている曲「ホワイト・クリスマス」。季節外れの4月にこの曲がラジオから流れれば急いで集合場所に向かう手はずだったが、この情報も漏れていた。さらにまずいことには、ベトナムの人々はこの曲が流れる以前に、南ベトナム国家の崩壊を察知していた。


南ベトナム最後の拠点ともいえるタンソンニェット空港が29日午前4時ごろに北ベトナム兵の猛攻撃を受け、駐めていた大型機が炎上。これまで大型輸送機で在ベトナムの米国民間人を段階的に避難させていた“安全な状況”は崩れた。


 近辺を大型の航空機で飛行した場合、地対空ミサイルで撃ち落とされる危険性も高まった。米政府はこうした状況から29日午前、ヘリコプターによる海上艦船へのピストン輸送(フリークエント・ウインド作戦・オプション4)の実施を決定した


 作戦が始まったのは29日午後だが、すでに同日早朝には南ベトナム政府側に立っていたベトナム人とその家族約1万人が米国大使館前に押し寄せ、一部は塀を乗り越えて大使館敷地内へなだれ込んでいた。脱出の合図「ホワイトクリスマス」の設定を秘密にしたのは無意味だった。こうした人々にとっては、未明のタンソンニェット空港で大型機の燃える赤い炎が脱出ののろし」だった。


 積み残しと乱入


 以降の混乱ぶりは書ききれない。集合場所のひとつ、タンソンニェット空港へ向かう米国人の乗ったバスは空港正門で南ベトナム兵士に停められ、バスを通そうとする兵士と、阻止しようとする兵士の間で銃撃戦が発生するなど“味方同士”で戦闘が発生した。


 またサイゴン警察の署員らは、米国人の避難バスを警護しサイゴン市民を“制御”することと引き替えに、自分たちのベトナム脱出を約束されていた。取り残されると知り怒った南ベトナム軍兵士のなかには、脱出ヘリに向け銃を放つ者もいたという。


投入されたヘリは空母艦載などの米軍ヘリだけではなく、米中央情報局(CIA)の傘下航空会社「エア・アメリカ」の持つ24機も加わったが、焼け石に水だった。計画では、避難者は米国市民と南ベトナム政府関係者、同協力者の計約8千人と見積もられていたが、米側は「1人あたり平均7人の扶養家族がいる」というベトナム社会の状況を見過ごしていた。実際にはベトナムからの避難(脱出・亡命)を望む者は家族を含め11万9千人いたとされる。


 積み残された人々の怨嗟の眼差しを背にヘリが飛び立つ。行く先はベトナム近海、つまり南シナ海に浮かぶ米空母エンタープライズやコーラル・シー、ミッドウェイ、ハンコックなど。ここへ到着したのは、なんとか米籍のヘリに乗ることができた人だけではない。多くの南ベトナム軍人が、軍の装備で脱出行に“乱入”した


 最新ヘリをゴミのように


 米空母には、亡命を望む南ベトナム軍所属ヘリが無秩序に着艦許可を求めてきた。なんとか着艦し人員を下ろしたHU-1(現UH-1)ヘリは、空母乗組員らの手で海へ投棄されていった次の機を着艦させるためのスペースがないというのが理由だった。米国供与で約1千万ドル(当時の日本円で約30億円)の最新鋭ヘリが甲板から波間に次々と落とされていく。その数は45機にものぼった。


 着艦用フックといった専用装備のない観測・連絡用の軽飛行機で空母ミッドウェイに着艦した南ベトナム空軍パイロットも2人いた。

さらに約4万4千人のベトナム人がジャンクやサンパンといった小舟に乗って米空母のいる海域へ向かい救助された。


 この過去を参考にして「韓国からの脱出」を想定すれば


 日米だけで26万人


 現在、韓国にいる邦人は仕事などでの長期滞在者が約3万8千人、観光などの短期滞在者が約1万9千人の計約5万7千人。また米国人は20万人以上で、オーストラリア人やカナダ人も多いとされる


 日本政府は邦人退避について米国やオーストラリアなどを中心とした有志連合による枠組みでの対処を検討している。自衛隊機を活用するには韓国政府の同意が必要で、左派政権となった現在の韓国では同意を得られない恐れがあることなどが背景にある。しかし、この有志連合をもってしても、日米だけで26万人となる民間人の退避を実現できるかは未知数だ。


 フリークエント・ウインド作戦でヘリにより避難させられたのは“わずか”約7千人。対して26万人では、大型機による、戦争勃発前の避難開始は必須だ。自衛隊の大型ヘリCH-47は収容人数48人だが、民間旅客機B787-9なら195人(いずれも乗員除く)。民間機が飛べる状態のうちに、いかに多く避難を済ませておくかが鍵となる。そして戦火が起こった時点では、避難=韓国脱出はとてつもなく困難となることが予想できる。


党本部占拠が示す「力」


 ここでは反日だの独島エビのおもてなしだのといった要件は度外視して想定しよう。米国人や日本人が集まる秘密の集合場所に、韓国の民衆が押し寄せないと誰が言い切れるだろうか。外国人にまぎれて脱出を望む韓国の人々を、韓国警察や韓国軍が、ひいては韓国政府が制御できるのだろうか。現在わかっているのは、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権には、そんな「力」はないということだ。


 現地紙の東亜日報(電子版)などによると12月18日、韓国の労働組合「全国民主労働組合総連盟」のイ・ヨンジュ事務総長ら4人が、文氏の率いる与党「民主党(旧・共に民主党)」の党本部代表室に押し入り部屋を占拠、ハンストを始めるという事件が起きた。韓国経済新聞(電子版)によると、イ事務総長は2015年に不法・暴力デモを主導した疑いで指名手配されている人物。イ氏は同じ容疑で逮捕、有罪判決を受け収監中の同労組委員長の釈放などを求めた。民衆のろうそくデモで大統領になった人物が、ろうそくの精神を忘れている-などという主張だった。


 しかし占拠された民主党は「退去を促したが、収穫はなかった」(東亜日報)。警察に犯人逮捕や事務室の奪還を求めることもなく、なすがままを許したのだ。


 同労組は朴槿恵(パク・クネ)前大統領を退陣に追いやった2016年末の「ろうそくデモ」で存在感を示し、当時大統領候補だった文氏を支援する勢力にあった。つまり犯罪行為があっても「民衆」や「デモ勢力」を名乗る者には手出しできないのが文政権なのだ。外国人の脱出を援助する一方で、脱出を望む韓国民衆を“制御”しろとの命令を下せるわけがない。


難民の奔流


 では韓国軍が独自に規律や各国軍との約束事(事前の作戦計画)を守れるのだろうか。朝鮮戦争(1950-53)での度重なる敵前逃亡の過去を踏まえれば、戦況が悪化した場合には南ベトナム軍もかくやの「独自脱出」を試みる恐れは高い。さらに韓国海軍艦艇や客船、漁船、内海用の小舟で日本を目指す避難民の数は想定不可能だ。北朝鮮からの武装難民どころか、韓国からの武装難民が発生する恐れも皆無とはいえない。


 もうひとつの備え


 中央日報(電子版)などによると12月20日、中国山東省は1月1日から韓国への団体旅行を全面禁止するよう各旅行会社に通知した。韓国マスコミや旅行業界には、中国が懸念する高高度防衛ミサイル「THAAD」の韓国配備に対する報復が続いているとの見方もあるが、山東省は「理由はない」としている。日米のように自国民の保護・避難について悩むよりは、最初から行かせないというのも、中国の選択肢の一つなのかもしれない。


 米国の自由アジア放送(RFA)などによると、中国の習近平指導部は中朝国境地帯の中国吉林省に数十万人を収容できる難民収容所の建設を指示したという。備えは着々と進んでいるようだ。


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