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時代を見通す日本の基礎情報

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南シナ海武力衝突で破綻する中国

南シナ海でベトナム船(右)に放水する中国海警局の船(ベトナム沿岸警備隊提供・ロイター)

南シナ海でベトナム船(右)に放水する中国海警局の船(ベトナム沿岸警備隊提供・ロイター)


南シナ海の災いは、北西の地域覇権国家からやってくる。偶発的な衝突があるかもしれず、時には問答無用のこともある。南シナ海の大半を「中国の海」であると主張する大国には、沿岸国の艦船と衝突、放水、小火器による交戦へと進む悪夢のシナリオがある。

 実際に中国は、ベトナムの排他的経済水域内に石油掘削装置(リグ)を設置し、艦船など80隻を動員してベトナム船に衝突、放水を繰り返すに至った。偶発的に小火器が使われれば、一転して大規模な武力衝突に発展する危険をはらむ。

 海洋政策研究財団はこうした危険を想定し、内外の専門家とシーレーン防衛を検討した報告書「南シナ海の航行が脅かされる事態における経済的損失」をまとめた。導き出されるのは、世界経済は大混乱に陥るが、「最も経済的損失を被るのは中国である」との警告であった。

 報告書の想定では、紛争勃発で米国が空母打撃群を日本の南西諸島からフィリピン群島に沿った中国の「第1列島線」に配備する。これに対し中国は、列島線の内側を「領域拒否」海域であるとして他国船舶の航行を制限する。さらに中国は、武装艦船や航空機が南シナ海へ入れば、「第1列島線」と「第2列島線」の間の海域で「接近阻止」すると宣言。ここが米中激突の主戦場である。


かくて、ペルシャ湾からくる日本の大型原油タンカーは、マラッカ海峡を避けてインドネシア群島を抜け、フィリピン東側の西太平洋を大きく迂回(うかい)せざるを得ない。原油の9割を海上輸送に頼る中国は、海軍艦船の護衛で南シナ海を通過させるだろう。

 ここで米国は「オフショア・コントロール戦略」を発動させ、まず第1列島線の中国側を「排他的海域」と宣言する。同盟国と協調して、攻撃型原潜、航空兵力を投入して中国の大型タンカーやコンテナ船の通航拒否を警告する。中国はすべての港が南、東シナ海に面しているため、迂回路を設定できずに深刻なエネルギー不足に陥るだろう。

 米国はさらに、マラッカ海峡、ロンボク海峡などすべての海峡を封鎖して、中国への海上輸送を遮断する。もちろん、パナマ運河やマゼラン海峡も米国の管理下にある。これらをすり抜けても、戦闘艦の護衛なくして太平洋側から第1列島線を西に通航することは不可能である。


米国のオフショア・コントロールは、中国本土への武力攻撃を避けることにより、核戦争にエスカレートさせない抑制戦略である。これにより、米国の戦力を消耗させることなく、中国が紛争を収拾した方が賢明であると判断させて、戦争を終えるよう仕向ける。ちなみに、経済的な打撃は、中国の共産党体制が崩壊する引き金になりうる。

 それを知る中国は、陸上をはう石油パイプラインを建設し、他方で、海軍を使わずに海洋警察力でじわじわと既成事実を積み上げるのだろう。フィリピンやベトナムなど沿岸国は、薄くサラミを切り取られるように島嶼(とうしょ)を分捕られるのだ。

 報告書は、迂回する大型タンカーなどの経済損失を定量分析しており、傭船の高騰対策、シェール石油など代替エネルギー確保を指摘する。海洋政策研究財団の秋元一峰主任研究員は、沿岸国が中国と海上衝突防止協定を結び、日本には、武力衝突を抑止するためにも集団的自衛権の行使の重要性を指摘する。安倍政権はその一歩を踏み出した

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