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時代を見通す日本の基礎情報

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大阪発 北新地からの便り

長い不況を経ても大阪を代表するネオン街として君臨する北新地(大阪市北区)。着飾ったホステスが客をもてなす華やかな一面は今も変わらないが、そんな“表の顔”とは別に歓楽街特有の“影の部分”を併せ持つのもこの街だ。スリや違法路上営業の横行、ポン引きと警察とのいたちごっこ…。店を潰した元有名ママらがアルバイトで路上客引きをしている姿は悲哀を誘う。店を経営しながらそうした光景をつぶさに見てきたマスターが新地の“裏の表情”を語る。

西の銀座…奇妙な“場貸し”急増

 「夜ごと何かが起きる。そんな感じですかね」

 このマスターは60代で、北新地でラウンジなどを20年以上経営。営業中も時折、店を従業員に任せて人通りの多い“辻”に立ち、近所の店の人と情報交換したり、トラブルなど街で起きるさまざまな出来事を“観察”したりしてきた。

 そんなマスターが最近目立つようになったというのが、元ママさんらによる路上客引きだ。かつて新地で20年、30年と務めたものの、事情があって店を閉めた元ママらが、新地のラウンジなどにバイトのような形で雇われ、通りで昔のなじみ客を見つけては店に引っ張っているというのだ。

 連れてきた客は自分が接客、その売り上げの4~5割をもらい、残りは店が取るといったシステムのようだ。いわば店を“場貸し”してもらった上での個人営業だ。
「あら~◯◯さん、どうしてるの~」「私今、ラウンジを手伝ってるのよ。寄っていってもらえない?」。昔のなじみ客が偶然通りかかると、そんな風に声を掛ける。60歳前後で新地では結構“かお”だった人が多いので、それなりに客をとることはできるようだ。それでも1日に1組か2組を引っ張るのがせいいっぱいで、“ぼうず(客がなし)”の日も多いという。

店とママと“妥協の産物”

 なぜ、そんな営業スタイルが出てきたのか。店の方は人件費が削減できる上、客を引っ張ってきてもらえる利点がある。元ママの方は、年齢やプライドから働きたくても普通の店では雇ってもらえない。双方のそうした“事情”がこうした営業を生んだようだが、どこか物悲しい風景だ。

 マスターは言う。「お金が必要とか何か事情があるんでしょうね。彼女たちは必死で、ものすごく努力している。店に出る時のようなスーツ姿で通りをあちこち歩き回り、疲れると、通りに違法駐輪された自転車にもたれて休んでますわ」

 マイカーを近くの駐車場に止めておき、自分は接客中に飲まないで、客を自宅まで車で送っていくサービスを“売り物”にしている元ママもいるという。

 「それでも彼女たちは自分の力で客をとるというプライドがありますね。時々、うちにもお客さんと一緒に来てくれますが、その時は本当にうれしそうな表情をしています」

 常に和服で店に出ていたママの1人が以前、「自分は新地に育ててもらった。新地でしか商売はできんし、やりたくない」と話していたが、彼女たちもそんな思いなのかもしれない。
一方、酔客などを狙った犯罪も横行していて、警察の取り締まりも追いつかない状況だという。

 その一つが路上スリだ。手口はこうだ。4、5人のグループが足下もおぼつかないような酔客に狙いを定め跡を追う。その客がビルのエレベーターに乗り込むと、「乗せてください」などと言って脱兎のごとく一緒に乗り込む。そして客が身動きできないほど四方をぴったり固めて上着などから財布を抜き取り、エレベーターのドアが開くとそのまま逃げる。

高級街に不似合い、不審な中年男や中国人女

 スリは現行犯でしか逮捕が難しい。客が後で気付いて警察に説明しても後の祭りで、もちろん金も返ってこない。財布に10万円あれば1、2万だけを抜いて財布を返す場合もあり、窃盗にあったことを気付かない客もいるそうだ。

 現場付近にはスリらしい不審な中年の男たちがよくウロウロしている。大阪府警は今年、北新地でスリの男を逮捕したが、犯行現場を押さえない限り逮捕できないため、「摘発はなかなか難しいようだ」。また金が返ってこないと知っている客は面倒だと言って被害届を出さないから、ますます犯人が野放しになるという。

 通りにテーブルを置いて違法DVDを販売しているグループもいた。名作映画などをコピーしたもので、中国で1枚100円程度で仕入れ、1000円ほどで売って稼いでいた。交番から通報を受けた警察官が来ると、商品を放りだし売上金だけ持って逃げ、ほとぼりが冷めるとまた営業。そのうち交番の近くに仲間を張り付け、「今、交番から(警官が)3人出た」などと携帯で連絡させ、商品を持って逃げる時間をかせぐようになったという。

最終的には摘発されたが、「違法営業の現場を見られるのを嫌ったのか、連中からは『近くに来るな』とよく言われた。捕まるまでやり、その間に稼げるだけ稼げという感じだった」(マスター)という。

 「おにいさん、マッサージ、どうですか?」。新地では中国人とみられる女が通りで客を勧誘する姿もよく見かけるが、「うるさい」「声をかけてくるな」といった通行人も多く、トラブルが絶えない。客が通報し、警察官が現場にやってくることもたびたびだが、風俗営業でないため路上の呼び込みは禁止されておらず、悪質な勧誘でない限りは取り締まれないのが実情だ。

 女たちもそれを十分承知しており、警察官が来ても逃げず、「何も悪いことしてないよ」「立ってるだけよ」と言って悪びれる様子はない。「はっきり言って警察をなめてる」

 客を勧誘し、エステの看板を掲げた怪しげな雑居ビルに入っていくところも何度か見かけたが、普通のマッサージか、性的なサービスを伴うのか、ボッタクリのようなことがあるのか…「中で何が行われているのかは、はっきりわからない」という。

 そうした立ちんぼを食い物にする者もいる。「どこの店のもんや。案内せえ」。見るからにヤクザ風の男があちこちに立つ中国人の女らにこう言って脅し、店に乗り込んでいくことがあった。ヤクザ風の狙いは何か。「脅すか何か理由をつけて金を出させ、こずかい稼ぎをしているのかも」。別の事情通からそんな話も聞いたという。

 高級感にあふれ、華やかに見える北新地も一歩裏に回れば、夜ごと、さまざまなことが繰り広げられている。

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