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北朝鮮の護衛司令部は、金正恩党委員長やその家族の身辺警護、関連施設の警備を担当する超エリート部隊だ。それだけあって、身体能力が高いだけではなく、成分(身分)に一点の曇りすらあってはならない。選抜過程においては、最高で17親等まで調査するという徹底ぶりだ。
かつては北朝鮮の親にとって、自分の息子が護衛司令部に選抜されるとなれば、相当な名誉だった。息子の出世も、家族の安泰も保証されていた。そのため成分が良いだけでは選抜されず、審査過程ではワイロが飛び交うと言われていた。
もっとも最近では、後述するような事情から護衛司令部は「憧れの的」ではなくなっていた。ちなみに、護衛司令部の要員を選抜する朝鮮労働党組織指導部5課は、「喜び組」などに配属される美少女の選抜も担っている。
(関連記事:金正恩氏が大金をつぎ込む「喜び組」の過激アンダーウェア)
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)に住むある女性は、女手一つで育て上げた一人息子を、護衛司令部に送り出した。そんな母親のもとに訃報が届いた。息子が亡くなったというのだ。現地のデイリーNK内部情報筋が、詳細を伝えている。
今月初旬のこと。女性の家に、突如として道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)と軍の幹部がやって来た。
「息子さんは、元帥様(金正恩氏)の護衛中だった3月中旬に、壮絶な戦死を遂げました」
そう言った幹部は、戦死証と「元帥様からの
贈り物」だと言って箱を手渡した。中には、食料品、布団、工業製品など、生活必需品が入っていた。
あまりに突然の知らせに、母親は気を失ってしまった。気を取り戻した後、幹部に息子の遺体が葬られた場所はどこか尋ねた。しかし、どの幹部も口を開こうとしなかった。
母親は矢継ぎ早に問い続けた。
「最近、伝染病(新型コロナウイルス)にかかればすぐに死ぬと言うが、病気で死んだのではないか?本当に元帥様を守って死んだのならば、事件の経緯を教えて欲しい」
しかし、幹部らは機密事項だとして一切口を開こうとしなかった。逆上した母親は「理由のない死がどこにある。息子の死は受け入れられない」と叫んだという。
(参考記事:「コロナ感染で部隊が壊滅」北朝鮮軍、中朝国境で)
翌日には、山に
村の人々は「戦時でもない平和な時期に、なんで軍隊に行った人がこんなに多く死ぬのか、これでは息子を軍に送れない」と悲しみ、葬られた場所すら明らかにしない無情な政府に対する憎しみを口にする人もいた。
実際に何が起きたかは知る術もないが、おそらくは何らかの事故があったと思われる。
(参考記事:金正恩の眼前で繰り広げられた「核開発」幹部の射殺事件)
護衛司令部勤務ともなれば、いかなる事情があれ途中で辞めることはできず、家族との面会はもちろん、連絡すらままならない。その上、機密保持のため除隊後10年間は海外に出ることもできない。つまり、北朝鮮で数少ない儲かる仕事である貿易の仕事に就けないということだ。
同じ護衛司令部でも、金正恩氏のボディーガードである974部隊ならともかく、官邸の周りで警備するだけの他の部隊ならメリットがなく、「除隊後に外国に出られる7総局(建設部隊)のほうがまだマシだ」などという人々もいるという
ある夫の墓に行って「息子が死んだというのに、母親の自分が生きていてどうする。自分も後を追う」と泣き叫び、村の人々がなんとかなだめて家に連れ帰った
。