范さんは山東省出身。２０１０年の東京国際映画祭では中国映画「観音山（邦題ブッダ・マウンテン）」への出演で最優秀女優賞を獲得した。ハリウッド映画「Ｘ－ＭＥＮ」シリーズへの出演など世界に活躍の場を広げ、米誌「フォーブス」が１５年に発表した世界高収入女優ランキングでは、年２１００万ドル（約２３億５千万円）で４位となった。 

今年５月の第７１回カンヌ国際映画祭でレッドカーペットを歩く范氷氷（ファン・ビンビン）さん（ロイター）

　ところが今年５月末、国営中央テレビの元キャスターが中国版ツイッター「微博」で范さんの脱税疑惑を追及。新作映画の出演報酬をめぐり、当局提出用の契約書のほかに、その５倍の金額の“ウラ契約書”が存在していたことを写真付きで暴露した。中国共産党中央政法委員会機関紙の法制日報は、これを受けて税務当局が范さん側への調査を開始したと報じた。

６月初旬を最後にＳＮＳの更新が止まり、范さんは公の場から姿を消した。７月にはハリウッド俳優らが出演する旧日本軍による重慶爆撃を題材とした中国映画「大爆撃」の新ポスターから范さんの名前が削除され、封切り時期も８月から１０月に延期された。

　中国を代表する女優だった范さんに対し、中国当局は評価を一変させている。中国社会科学院と北京師範大は今月、「中国映画スター社会責任研究」と題するリポートを発表。映画俳優ら１００人について「出演作品と慈善活動、個人の品行」を数値化して格付けし、范さんは「０点」で最下位とされた。

　范さんが３７歳の誕生日を迎えた今月１６日、６２００万人以上のフォロワーを持つ微博のアカウントに「今日は私の誕生日」との書き込みがあり、間もなく削除されたと一部メディアは伝えた。長期にわたる“失踪”の背景は謎のままだが、映画業界の不透明な脱税慣行に対する当局の見せしめ措置との見方が強まっている。地方政府や国有企業の債務膨張を受けて、当局が税徴収の強化を進めていることも背景にあるようだ。